何かがキれた音がした、と思った一瞬後には。

は、ハリセンボンの胸ぐらを掴んでいた。

しかもそのまま、ダンッッ!!と壁に叩き付けていた。





対して、ハリセンボン――――――偽名ギタラクル、本名イルミ・ゾルディックは。

行き成りののその行動に、内心ビックリしながらも見た目は動じる事無く静かな目のまま彼を見詰め続ける。





綺麗な、顔だ。

透き通る様な肌に薄い唇。切れ長の目は煌めく金で、髪は星の光を集めた様な銀。

鑑賞用に作られた人形だ、と言われれば納得してしまいそうな。

連れの紅い髪の男もまた中性的で美しいが、コチラは成熟した男の色香。

中身が少々、いやかなり残念だが、口を開かなければホイホイ女が釣れるだろう。





その、彼が。





「――――――あの子は、俺んだ」

さっきまで凄く残念にヘタレてた、彼が。

「今までも今もコレから先も」

煌めく金の目を凄ませ更に艶を増し憤怒の感情を滲ませて。

「ずっとずっと、俺のモンだ」





獣、と化した。

しかも獰猛な獣。定めた獲物は決して逃さない、野生の狩人に。





「・・・・・・・・・・・・息子、なんでしょ」





訊ねた声は、以外に小さかった。

ソレに、はハッと鼻で嗤う。

「さっきまではな」

何処か、清々した、という様な声音だった。

或いは、何かを決意した様な。





「けどもう違ぇ――――――ヒソカは、俺のモンだ





実際に、がしたのは決意だ。

他の男に取られるくらいなら、道徳も常識も何もかも捨ててやる、と。

開き直りにも似た、決意だった。





その決意を正確に読み取って、イルミは内心困惑する。

だって本当は、本気でヒソカをモノにするつもりなんてなかったのに。





イルミにとってヒソカは友人に近い立ち位置にいる人物、だ。

暗殺者である自分と交友関係を持っても、暗殺者な自分の所為で誰かに命を狙われても。

そう簡単には殺されない、貴重で大切な人物だ。





だからこそ、目の前の男がイルミは嫌いだ。

ヒソカを捨てて、ヒソカを泣かせて、ヒソカに世界の全てをヒソカ自身すらを憎ませて。

ヒソカに想われている事に気付かないフリをして。

ズルイ大人の代名詞の様に逃げておきながら、今更のこのこと姿を現し親子≠取り戻そうとするこの男が。





ムカついた。頭にキた。

ヒソカの想いが、未だこの男のみに向かっている事を知っているから、尚更。

だから、ちょっと絡んでやろう、と思っただけなのに。

――――――・・・・・・・・・・・・まさかこんな展開になるなんて。





(・・・・・・ごめんヒソカ。僕、多分押しちゃいけないスイッチ押しちゃったみたいだ)





ヒソカは多分知らない。この男の、こんな目を。

親、ではなく。1人の男、の目を。

コレは、捕食者の目。ヒソカを獲物と定めた、正しく獣の目だ。





ぎりぎりと、首が絞まる。

静かに凪いだ海の様な表情の中で、金の双眸だけが激しい感情を表している。

イルミは片手を上げ、己の首を絞めるの腕を掴んだ。





「・・・・・・僕、ハンターのライセンスはどうしても必要なんだよ」

ひたり、と金を見据えて。

ぎ、と掴んだ手に力を込めて。

「だから、試験が終わったら君の相手をしてあげる」





そのセリフに、はイルミの胸ぐらから手を離した。

折角開き直ったのだ。

このハリセンボンを殺すのは容易いが、ココで失格してヒソカに会える機会が減るのは嫌だ。





はそのまま、一言も声を発さずくるりとイルミに背を向けた。

歩を進めるのは目の前の扉。次の試練への道。

イルミもまた、の後に続く。

目の前の背中は広く隙が無く、抑えきれない殺気が滲み出ている。





扉の先にはリングがあった。

しかもリングの下は炎と岩の槍。落ちれば串刺しにされた上に焼かれる事必須だ。

リングの上には2人の男。どちらも体格良く、人を殺す事に快楽を覚える様な、濁った目をしている。

その2人もまた、とイルミの様に手錠で繋がれていた。





「ようこそ、二人三脚の道、修羅の場へ」

片方の男が口を開く。

「お前達2人にはコレから俺達と戦ってもらう。俺達2人が負けを宣言する、或いは戦闘不能になればお前達の勝ち」

もう片方の男が、引き継ぐ様に。

「そしてお前達2人が負けを宣言する、或いは戦闘不能になればお前達の負け」

がリングに上がった。男達の笑みが深まる。

「リングに上がったという事は、この試合を受けたと見做す。ああ、お前達の場合はどちらか一人が死んでもその時点で――――――」





「うるせぇ」





ひゅん、と。何かが空気を切る音が、した様な。

思わずイルミがに視線を向けるが、当のは佇んだまま動いた気配すらない。

気の所為か、と男達に再度視線を向け・・・・・・イルミは、気の所為では無かった事に、気が付いた。





男の片割れの。首から上が、ソコに無かった。

リングの上に、転がっていた。

ソレを見て目を大きく開かせたもう片方は、無様に尻もち着いてあわあわと後ずさる。





「今の俺はちょーぜつに機嫌が悪ぃ」





かつん。が一歩踏み出す。

その声は穏やかで、なのにとても冷たくて。





「災難だなぁ、お前――――――せめて痛みを感じる間もなく殺してやるよ





ひやり、と。

イルミですら空気の温度が下がった様な気がした。




















 





 













いくら元人間でも今は獣ですから。
 





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