達がウマウマとおこげの八宝菜あんかけを食べてる間、メンチはずっとイライラしていた。

理由なんて言わずもがな。

いくら試験とはいえ、マズそうなモンばっかり持って来られる傍で美味そうなモン食われてたら、誰だってイライラするだろう。

アレは近いウチに爆発するだろーなー、なんて思ったは、ちょこちょこと魚を捌くに近寄った。





、アラくれ、アラ」

「うんそっち。・・・・・・なんか作んの?」

「うんまーちょっと。」





笑いながら、はぺいっと流しの中に捨てられていた魚のアラを掬い上げ、綺麗に鱗を取って洗い流してと処理をしていく。

程ではないものの、も料理は手慣れている様だ。見ていたブハラもサトツも、意外や意外、な視線でを見た。





一方、はといえば大根のけんと大葉と、綺麗に切られた魚の切り身を、上品に皿の上に盛っている。

魚は透き通る様な色をしていた。端っこちょっと味見してみたが、蕩ける様な味だった。

サスガは(<だから狼だっつの!!)、美味いモンを嗅ぎ分ける嗅覚は並ではない。





、鍋くれ、鍋。出来れば圧力」

「ん。」

「さんきゅ」





ガサガサと豪快に、鍋にアラを入れ昆布を入れ水を張って。目分量で酒をとぽとぽ注ぎ、火に掛ける。

そして水が沸騰しかけたトコで、しんなりとした昆布を掬い上げて蓋をした。





「5分くらい、か?」

「や。2分でじゅーぶんじゃないの?」

「らじゃ。」





鍋を目の前にするの背後では、メンチとドコぞの上忍が言い合いをしている。

「あーもお!怒鳴ったらますますハラ減ったわ!」

・・・・・・・・・・・・どうやらメンチ圧勝したみたいだ。





かぱ、と蓋を開けると、ふあん、と昆布の良い香りが漂った。

浮いていたアクをサクサク取り除いて、見えてきたのはホド良く火の通ったアラと透明度の高い汁。

ちょこっとお玉ですくって、小さな皿に取ってみた。





「・・・・・・・・・・・・うわ、淡白。」

一口。味を見てみた感想はそんなモン。

そのまま小皿をに押し付け、塩と薄口の醤油を目分量、鍋の中に投下。

「やっぱ淡水魚だから、ねぇ。塩気がないのはアタリマエ?でもイイ出汁だ。」

同じ様に味見したから返ってきた小皿を受け取って、再びお玉で汁を取る。

そして、また一口。





「――――――っし。」





思わず拳を握った。

そして再び小皿をに差し出し、はお椀を持ち出してアラと出汁・・・・・・いわゆる潮汁、をよそう。

「あ。おいし。」

横から聞こえたの合格も頂いて、ザクザク、と切った三つ葉を散らして、完成。

は出来あがった潮汁を盆に載せ、でっかい声でダメ出しばっかり出してるメンチの元へ――――――





「ちょっと待って。コレも持ってって。」

「ってコレお前俺の刺身じゃねーの!?」

「だいじょぶ。お前のはコッチ。」

「・・・・・・なんか見た目コッチのが高級そうなんだけど・・・・・・」

「お前が食うモンに気合入れたって張り合いないじゃんか。」

「・・・・・・・・・・・・あーはいはいそーですねどーせ食えりゃ何でもいー人ですよ俺は」





もとい、の捌いた刺身と潮汁をメンチの元へ持ってった。





「コレもダメ!!コレもやり直し!!」

「しけんかーん。」

「シャリが硬い!!やり直しよ!!」

「し・け・ん・か・んっ」

「何よ!!・・・・・・って、あら?アンタ・・・・・・」

「寿司ばっかで飽きるだろ。取り敢えず口直し持ってきた」





俺等ソレナリに舌肥えてっから多分不味くはないぞ、と言われながら膳の上に置かれたソレに、メンチはぱちくり。

「あ、あら、そう。メニューとは違うけど、良いわ。食べてあげる」

でもその一瞬後には、とってもキラキラした目になった。





綺麗な箸使いで、メンチはまず刺身をつまむ。まじまじと見てるのは切り口だろうか。

そのまま、何もつけずにパクリ――――――瞬間、じぃぃん、とした顔をした。

そしてもう一度。今度はワサビ醤油につけてぱくん――――――くぅぅう、と震えた。





「――――――・・・・・・・・・・・・コレ、誰が捌いたの?」

「ああ、刺身は。潮汁は俺が」

「ウシオジル?以外と難しいのよ?・・・・・・でも、うん。生臭くはないし、お汁もかなり澄んでるわね」





ほう、と一息吐きながら、メンチはお椀を持ち上げる。

そしてまずはずず、と汁を一口――――――そのまま、ぴきん、と固まった。

あれ、不味かったんだろーか、と思わずも顔がひきつった。周りの受験者達も、興味津々でメンチを見てる。

けれどメンチはそろそろと動いて。潮汁の具をぱくりと口に持っていき、ちょっと目を丸くしたあと、を見上げた。





「・・・・・・・・・・・・アンタといいあっちの赤毛といいあのピエロといい・・・・・・・・・・・・」

しかもぼやかれた。

「・・・・・・あー。なんか、悪ぃ。俺等ほんっと一般家庭で作れる程度のモンしか作れねぇから、その」

イイワケじみたセリフが出るも、じとー、と睨まれて。

「や、寿司ってホント板前修業しねーと美味いの作れねーし。けどどーせ食ってもらうならさ、美味いって言ってくれる方のが、えと」

更にでっかい溜息吐かれた。





「・・・・・・・・・・・・アンタ達、さぁ・・・・・・・・・・・・」

「はっ、はいぃ!?!?」

「なんで料理人目指さないの」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」





の目が点になる。

けれどメンチは、ぱくぱく、ずずず、と。刺身と潮汁を食べながら。





「コレだけの腕、コレだけの味覚センス・・・・・・勿体無いわとっても勿体無いわ!

「いやいやいやいや。んな大袈裟な」

「何より料理に対する真摯な姿勢!試験の合否より味の質を選ぶなんて!さっきのハゲとは大違い!!





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・しかもなんか熱く語り出した。





困ったはうろうろと周囲を見回して。目が合ったブハラにコレ何とかしてくれ、と視線で訴える。

けれどブハラは、こーなったメンチは止められない、と力無く首を横に振って。





「今からでも遅くはないわ!!アンタ料理人目指しなさいよ!!」

「・・・・・・・・・・・・や。すんません。ホントすんません。俺料理人よりやりたい事あるんで」





キラキラした目でそう進めてくるメンチに。

は引き攣った笑みを浮かべながら、引け腰でその提案を辞退申し上げた。




















 





 













わんこもおねーさまもけっこー料理上級者。
 





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