第二印象は、上々。

コレで今後むやみやたらと首筋にナイフよりも鋭いトランプを投げられる事はなくなるだろう、と機嫌良く2次試験会場に着いたは。

目の前の建物から鳴り響く獣の唸り声の様な音よりも。

端っこの方で青地に白の縦線背負うのどん底雰囲気っぷりに、ひき、と顔を引き攣らせた。





「・・・・・・・・・・・・そんなムツカシイ事言った覚えないんだけどなー・・・・・・・・・・・・」





ただ今≠見ろ、って言っただけだ。

昔のままの色眼鏡のままでなく、と離れた後、1人で生きてきただろう今のヒソカ≠見ろ、と。





そりゃ、にしてみればほんの数ヶ月前までアレは守るべき子供≠ナ。

なのに頑張って戻って≠ォてみれば6年経ってた上に立派に成長してて。

しかもバッサリ「大嫌い」なんて言われれば、ショックもでかいだろうとは思うし。

イキナリ険悪になった息子に、うろたえる気持ちもまぁ解らないではない。





解らないではない、んだが。





「まだ考えてんの。てゆーか考えるホドのモンなの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」





溜息混じりのの声に、が顔を上げた。

その顔には苦さと辛さと、哀しさと寂しさが混在してて。





「・・・・・・・・・・・・俺、に言われるまで、忘れてた」





ぽつ、とが小さく零す。

「忘れてた。気付かなかった。・・・・・・気付きたく、なかったんかもしんねぇ」

「何を。」

「流れる事。止まらねぇって、事。変わる、って事が」

ぽつり、ぽつ。静かに、小さく、そして平坦に。





「俺、俺の育てたヒソカは、変わらねぇって、思ってた。素直で可愛くて、ちいさなまんまだって」

「うん。」

「俺がずっと。ずっと守ってやるんだって。一緒に、ずっといるんだって・・・・・・そんなの、有り得ねぇのに」

「・・・・・・うん。」

「アイツが年とって変わってくのは当たり前だ。俺とは違うんだから。当たり前なのに、忘れてた」





痛い、言葉だ。

正直、はそう思う。





の本来の器、肉の身体は、結構前に失われてしまった。何処ぞの世界≠フ阿呆な支柱のお陰で。

代わりに、人の器を仮宿として、転生を繰り返す術を手に入れた。と言ってもまだ3回しか転生してないが。

1回目は。イキナリ解放させた力に器の強化すら追い付かず、人の身体はほろほろ崩れ去った。

けれど2回目の転生先では。まあ普通とは言い難い人生であったものの、67歳で老衰で大往生、だったりする。

つまりは、人の姿で。人の器で。人として。ひとつの生を全うしたのだ。





けれどはそうはいかない。

彼の今の器は元々神様≠フモノで、今や彼自身がその神様≠ノカウントされる。

しかもの力を得て、世界≠フ遷し身からの眷属になったという変わり種だ。

前世≠フの様に、器がタダの人のモノであればまだ何とかなったかもしれないのだが、完全なる人外。

人間との寿命の差は歴然としている。





だから。

「・・・・・・・・・・・・俺、戻って@なかった方が、良かったのかもしんねぇ」

ついて出てきた言葉は、の本心だった。





ずっと一緒に、なんて無理だ。今考えて漸く思い知った。

前は軽い、ホントに軽い気持ちであの子がヨボヨボのおじいちゃんになっても傍にいよう、って思ってたけど。

きっと、その前に。辛くなる。

だって大切なのだ。大切だから、一緒にいる時間が長ければ長いほど、きっと別れは辛くなる。

しかも自分は変わらない。変わらないまま、あの子を見送って。取り残されて。

そしてあの子は歳老いて。自分を独り残して逝く辛さに、心を痛める。

あの子も自分も、止められない無情な時間の流れが刻む変化に、辛くなってしまうだろうから。

そうなるくらいなら、いっそ。





「あのまま。俺は事故で死にました、で済ませといたら。まだ」

「止めれ。」

げしいっっ!!

「い゛っっ!?」





の背中を踏み付けた。容赦無く。

ぐきっと腰から折れたは、べちゃ!!っと地面に抱擁を交わす。

そんなの背中をふみふみと。力いっぱい体重込めて踏み付けたまま。





「そーゆー事考えろなんてひとっことも言ってないよ俺。」

「いだだだっっ!!!!いでぇ!!いでぇって!!」

「俺は。お前が覚えてるアイツの事を踏まえた上で。今のアイツをお前がどー思ってんのか考えろったんだよ。」

「だっから考え・・・・・・ぐえっ!!ギブ!!うででででっっ!!!!





バンバン地面を叩くに、周りの受験者達がまたアイツラか・・・・・・と遠巻きにしている。

誰も近付いて来ないのは、さっきまでのの言動に問題があったからだろう。

間違っても自分が原因ではない、とは考える。





――――――と一緒にいる時点で、もまた周囲に変態の仲間として認識されているのだが。

気付いてないのは、幸か不幸か。





まあソレはさておき。

ふみふみ、を。ぎゅむぎゅむ、に変えて。は腕組みながらを見下ろす。





「時間がどーの種族がどーの、そんな建前考えてどーすんのってんだよ。」

「た、建前っておま、そんなアッサリ・・・・・・い!!いででで!!

「今のお前の気持ちと、今のアイツの気持ち考えろってんだよ。」

ぎゃあ!!今!!今捻り入れただろ!?うぐっ、ぐぎぎぎ!!!」

「お前がどーしたいのか。アイツがお前にどーして欲しいって思ってるのか。ソレを考えろってんだよ俺は。」





だけどお前のソレって結局は逃げだろ、と。続けられたの言葉は音にはなっていなくて。

けれど正確にソレを聞き取ったの腕が、ぱた、と落ちた。

周囲の受験者達は、もしかして死んだのか!?と2人を凝視する。

しん、と静まり返る試験会場前。

見下ろすと、動かない





がばぁっっ!!





勢い良く身を起こしたに、周囲はびくぅうっっ!!と引いた。

妙に据わった目で、を見上げるその目の険呑さに、ごくり、と何処からか息を呑む音もちらほらで。

けれど当のは飄々と。

「ま、頑張って悩めや青少年。」

ぺむぺむと。の頭を撫でてふらりと踵を返した。

人ごみに紛れて、黒と銀の子供達を見つけて其方に向かっていく。

そんなの背中を、はじっと見詰め。





「・・・・・・・・・・・・カンタンに言ってくれる・・・・・・・・・・・・」





けれど逃げ。言われてみればそうかもしれない。

今のあの子と正面から向き合う事を、自分は避けているのかも、しれない。

だってまさか。あんなに変わってたなんて思ってもみなかったし。

――――――あの子は、確かにあの地下で自分に憎しみと絶望を見せたから。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ほんっと、カンタンに言ってくれちゃってまぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」





多分また、ソレを向けられるのが怖いんだろう、と。

はソレだけが、理由なんだろうと思う事にした。





視界の端。

動くがあの子に声を掛けて、気安く肩に触れるのを見た瞬間。

ざわりと動いた、心の奥底のナニかを強く強く押し込んで。




















 





 













・・・・・・くらっ。
 





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