聞こえないか、

一方的に命を刈り取られる者達の悲鳴が。

聞こえないのか、

優しいお前が修羅に成り行く様を目の当たりにした子供達の泣き声が。

・・・・・・お前が。もう二度と此方に戻って来なくなるんじゃないかと、怯える子供達の声が。





「――――――其処までですよ、カカシ」





ゆらりと上げられた、右の手首をそっと握る。

血に塗れた其処はべとりと感触悪く、感じられる筈の体温は無かった。





「――――――・・・・・・・・・・・・止めるな、

銀に染まり出した青い目は、目の前の敵を見据えたまま動かない。

「いいえ、止めます」

手首から手の甲へと、包み握る部位を移動して、そっと、上げられた腕を舞扇を下ろし。

「止めるな、と。言っているんだ――――――この、私が」

平坦だったの声に、波が出来た。





「――――――。私は、誰だ。お前に命じている、私は、誰だ――――――?」





・・・・・・・・・・・・ココで、言うか。ソレを。

随分と、頭に血が昇ったもんだ。

その言葉に、息を呑んだ子供達すら、見えてない。

――――――仕方が、無いのかも知れないが。





「なら俺は何だ、。お前は如何して、俺を作った」





背後から、華奢な身体を抱き締め。左手での目を覆って代わりに俺が敵を見据える。

さっきまでのへの恐怖。そして今の、俺の殺気に当てられた奴等はぴくりとも動けない。





「守る為に俺を作ったんだろう。お前を。お前の心を」

「・・・・・・・・・・・・

「――――――そして狂ったお前から。全てを守る為に、お前の暴走を止める為に、俺を作ったんだろう?」





人としての意識が強く心を変え切れないお前は、きっと永遠にも似た刻の長さに耐えられない。

解っているんだ。何時か完膚なきまでに壊れる事が。

実際、お前はもう、壊れ始めている。の始祖を思い出した、あの時から。

人を、殺す事を厭わなくなった。人が、徒に死に逝く事に躊躇いを見せなくなった。

お前はちゃんと、自分が壊れ始めている事を、解ってる。





だから、人の心を理解し得なかった頃の自分を。一度はひとつに戻した『俺』を、再び別けて作ったんだろう?





『俺』はがいる限り消えないモノで。ソレは裏を返せば、がいる限りずっとの傍にいるモノで。

大切なのはだけで。さえいれば後は基本如何でも良くて。が死を望むなら、ソレすら躊躇い無く叶えられる。

の為だけに作られたが故に、孤独を解せず、知ろうともしない『俺』を。だから作ったんだろう。





「お前が俺に言ったんだ、。命は重い。誰かが大切だと想うものを、紙の様に軽々しく扱うな、と」

「っっ、だけど!!アイツ等サクラを傷付けた!!私のサクラを!!私の娘を!!可愛い私の愛し子を!!」

「ソレでも。憎しみで人を殺すな。怒りで我を忘れるな――――――お前が狂気に堕ちれば、その俺達の愛し子が、泣く」





じわり、と左の掌が濡れた。

がらん、と舞扇が、の手から落ちる。





「――――――ほら。後は任せて。さっさとサクラんトコ行ってやれ」

「っ、サクラ!!」





目を覆っていた手を降ろし、緩い腕の戒めを解いて。

とんと指先で背中を押せば、ぼろぼろと泣きながらが子供達の元へ走り出す。

迎えたサスケも緊張が途切れた様に泣き出して、釣られてナルトも泣き始めるのが見えた。





――――――・・・・・・・・・・・・ああ。

程じゃないが、大切な子供達。

1人は瀕死で、後の2人があんなに泣いてんだ。

俺も、少しくらいキれたって、構わないよな?





「――――――さぁて。ドコのモンかは存じ上げませんが?今からはこの俺達、4代目の私兵『影』が、貴方方のお相手を致しましょう?」





の落とした舞扇を拾い、にぃ、と口元を歪める。

俺の名乗りに、動けない奴等がびくりと震え。





「殺して良いのか、長」

視界の端、俺の右後ろに音も無く降り立った白殺色が、情を押し殺した声で問う。

「良いも何も、当然だよなぁ、長?俺等の宝を泣かせたんだからよ」

同じく、左後ろに立った紫黒色が、酷薄も露わに。





「1人は残せ。後は好きにして良い」





途端に、俺の背後で膨れ上がる殺気。

俺は白緑の扇をしゃらりと広げ。

気に当てられて動けない雑魚共を、流し見。





「楽に死ねると、思うなよ?」





奴等の恐怖は、絶望へと取って替わった。










 





 













守護者が守るのはふたつ。

己の主と、主の狂気に侵されようとするモノ。
 





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