鳥が持ってきた報せに、駆け付けた先。

其処に、あったのは。





幾重もの人の熟れの果てと、呆けて座り込む上忍師と子供達と。

泣いて親友に縋る黒と金。

其れから、血塗れの桃色を抱き締める、銀色。





「イルカ」

「っさんっっ!!」





呼ばれた声に、振り向く。

其処には、暗い紫の混じる黒を纏った男と、白にも見紛う水色を纏った男を従える、『影』の束。





「何が・・・・・・何があったんですかっ、こん、こんな・・・・・・!!」

「私と閃が駆け付けた時には、既にカカシ達と侵入者達は事を構えていましたよ・・・・・・サクラも、あの状態でした」

とつとつと、静かに語られるその声音。

思わずカッと、血が昇る。

「・・・・・・随分と、冷静ですね、あんた・・・・・・っっ」

「――――――冷静?私が?」





次の瞬間には、ひゅ、と喉が鳴った。

静かに面を外した彼の、おれを見据える左の眸は。

煌煌しく燃え上がる、太陽の様な、朱金。





「八つ裂きにしてもし足りない・・・・・・コイツ等の里に乗り込んで皆殺しにしてやろうとすら思う・・・・・・そんな俺が、冷静だと?」





艶やかに。華やかに咲く大輪の笑顔。

理性の下、感情を。怒りを憎しみを、支配下に置いて。

――――――彼なら、本当に。たった1人でも里ひとつを滅ぼせる。





「・・・・・・・・・・・・す、みません」

そう。この人だって。冷静なんかじゃ、ない。そんなふうにいられる筈がないのに。おれ、は。

「・・・・・・・・・・・・いえ、私こそ。つい、当たってしまいました」

吐息混じりの謝罪。その気遣いが、とても重くて。





「闇主、後の始末を。氷主、お前はソレをイビキに引き渡して来い」

「「了解した」」





さんの声に、綺麗に揃ったふたつの声が動く。

白殺色は、虫の息の黒装束と共に姿を消し。

紫黒色は、ずぶずぶと己の影の中に躯を沈め。





さんは静かに歩き出した。サクラを抱き抱えて座り込む、カカシさんの元へ。

おれも倣って、後に続く。

「っ、い、いる、かに、ぃさ」

気付いたサスケがイタチの腕から顔を上げた。

「にー、ちゃ、さく、ら、さくら、が」

イタチの腕の中から手を伸ばしてきたナルトを、抱き上げて。

イタチは。呆然、と、サクラを見ていた。現実を理解出来ない、したくないという目でサクラを。





「――――――カカシ。傷を治してあげなさい。でないとサクラが痛いままでしょう」





カカシさんの背後に立ったさんが、静かに静かに声をかける。

びくり、と大きく戦慄いた背に、そろりそろりと振り向かれた顔は、涙に濡れて、泣き腫らして。





「・・・・・・・・・・・・でもっ、サクラッ、さくら、しんぞう、止まってっ、もうっ、もっ」

「お前が止めてんだから当たり前だろがさっさと動かせホレ治せ」





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?(×14)」





固まった。

そのセリフの、意味が解らなかった。

言われた当のカカシさんですら、ほけん、とさんを見上げるばかり。

さんは盛大な溜息を吐いて、すとん、とその場にしゃがみ込む。そしてがしがし、己の頭を掻いて。





ちゃーん。もーしかして覚えてないのかにゃー?」

――――――・・・・・・・・・・・・え?

「時の事象に干渉してサクラの時間止めただろお前。エーテルビミョーに動いたぞ」





固まったままのおれ達に、さんは初めて見せる砕けた物言いで、呆れた様な眼差しで。

聞いた事も、無い。名前で。カカシさんを、呼んで。





「・・・・・・もしかして・・・・・・」

ぽつり、零したのはナルトだった。

「・・・・・・ときの、はぐるま、さび、おびて・・・・・・」

カカシさんを呆然と見ながら、呟くのはサスケ。

「『見得ざる機構は停止しろ』・・・・・・なあ、カカ兄ぃ。カカ兄ぃがキレた時、確かそんなん呟いてたんだけどよ」

シカマルが、不安そうに応えを望む。





けれど固まったまま。ほけん、と。覆面が無ければ大口を開けているだろうカカシさんは。

「――――――・・・・・・・・・・・・ああ!!」

一拍後には、思い出したかの様に素っ頓狂な声を上げた。





ソレに、素早く反応したのは子供達である。





「カカシ兄貴!!マジか!?」

「止まってる!?止まってるだけなのねぇ!?」

「じゃあまだサクラ生きてるのねカカシ先生!?」

キバが駆け寄りチョウジが喚きいのが詰め寄って。

「・・・・・・サクラ、ちゃ・・・・・・ふぅ・・・・・・」

「ヒ、ヒナタっ?」

「・・・・・・あー、びっくりした。心臓に悪いぜ、ったく・・・・・・」

気が抜けて足元から崩れたヒナタを、シノが支えるその傍で、ほ、と胸を撫で下ろすのはシカマルだ。

「カカシにーちゃん!!何時までもボケっとしてねぇで!!さくっとサクラ治してくれ早く早く早くっっっ!!」

俺の腕から飛び降りたナルトがべしべしカカシさんの腕を叩きながら促し。

「さくら、いき、いきて、ぅえぇぇぇええええんっっ」

サスケは再び盛大に、イタチにしがみ付き泣き出す始末。





「ほら、アーグは俺がサポートしてやる。さっさと謡うなり治癒魔術唱えるなりしろ。この際だからお前達の傷も一緒に治せ」





ぺむ、と音がしそうな手付きで。さんがカカシさんの頭に手を乗せる。

そして、まだまだ呆然としていたカカシさんは。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へーいへいへい。りょーかいですーぅ。」

一度、ふ、と息を吐いて。ソレから微苦笑を滲ませ。

家の中以外では決して降ろそうとしなかった覆面を、引き摺り降ろす。





「「「カカシさん(兄さん)!?」」」





素顔を晒した事に驚いて、おれや子供達が声を上げれば。

ふわり、と笑った銀色は。





更に驚くべき光景を、おれ達の前で披露した。










 





 













キレてる間の事はすっかりでした。
 





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