頭の中が一瞬真っ白になって。 ソレから、視界が紅く染まって。 思わず構えた苦無を投げ付け様とした、その時には。 既に、サクラを斬った黒装束は、事切れていた。 ――――――胸を、貫かれて。 背中から、兄さんの腕を、生やして。 「刻の歯車錆帯びて、見得ざる機構は停止しろ」 静かな声、だった。 とてもとても。無機質な音だった。 ずるりと黒装束の身体から腕が抜かれる。 どう、と死体が倒れる。 俺は、真っ赤に染まった腕を見て。落ちた死体を、見て。 兄さんの、横顔を見上げて――――――固、まった。 何も。何も無かった。 怒りも、悲しみも、何も。 ただ、冷たく冴えた綺麗な青い目だけが、あった。 「にい、さ、ん」 がたがたと、身体が震え出した。 さっきまで、兄さんが怪我をするたびにヤツ等への怒りで熱く滾っていた身体が。 サクラに怪我をさせた、その所為で沸点突破した身体が、今。 恐ろしさで。凍えそうな程のおそろしさで、震え出した。 「かか、にぃ」 「に、いちゃ、ん」 「あに、き」 キバが、ナルトが、シカマルが。俺と同じ様に震え出す。 ぽん、と俺の頭に置かれた、赤くない方の兄さんの手は何時もと同じ。 なのに。黒装束達を映す青色は、綺麗なだけの硝子玉、の様で。 ――――――その。兄さんの、姿が。消えた。 一瞬で。俺達の目の前、から。 次の、瞬間に、ぐしゃり、と。音。 目を、見開く。 俺達を囲む黒装束の群れ。一番近くにいた、ふたつの頭を。 掴み、地面に叩き付け、減り込ませて、潰した、音。 見え、なかった。 兄さんの動きが、全然見えなかった。 カカシ兄さんは強い。けどイルカ兄さんよりイタチ兄さんより、弱い。 イルカ兄さんに鍛えられた、俺達よりも、弱い。 弱い、ハズ、なのに。 突然の反撃に、黒装束の半数が兄さんに斬り掛かる。 残りが、血を流し過ぎて動きの鈍くなったアスマ先生に紅先生に。 ソレから、恐ろしさで動けない、俺達に。 なのに。 薙ぎ払われた。俺達に向かってきたヤツ等がみんな。 一番沢山の傷を負って、一番血を流して。 一番、敏捷には程遠い筈の、カカシ兄さんに。 一瞬で。 ゆらり、と。地面に静かに着地した兄さんが立ち上がる。 動けない俺達を背後に守る様に。吹き飛ばされた敵を前に殲滅せんと。 すい、と腕が持ち上がる。何かを描くかの様に優雅に、ゆたりと。 そしてその腕が翻った、後には。 「・・・・・・な、んで」 アレは。 あの白緑の輝き、は。 広げれば大人の身の丈程にもなる、鉄の扇は。 「、兄さんの、扇」 白にも見紛う薄い緑が広がった。 その、刹那のうちに。残像を残して、兄さんが消える。 次々と、声も無く倒れていく黒装束達。 喉元を裂かれ。心臓を、一突きにされて。 ヤツ等の合間を縫うのは、風。銀と白緑の色香を残す、一陣の風だ。 コレは、夢だろうか。 ソレとも幻、なんだろうか。 じり、と数人の黒装束が、逃げの姿勢を見せた。 捕まえられない風、静か過ぎるのに残虐な風に、恐れを抱いて。 だけど風は、逃げようとしたヤツ等を追い越し、再び人の姿を取って退路を断つ。 「だめ、だ」 やめて、兄さん。 コレ以上殺さないで。 そんな目で、人を、命を。 死神みたいに、狩らないで。 でないと、本当に。 本当に。 ――――――人ではないモノに兄さんがなってしまう―――――― 持ち上げた腕はガタガタ震えて。 とても、兄さんには届かない。 |
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ぷっつんキて自我自失で殺戮マシンなおねーさま。 やさしいトコしか知らなかったから、子供達は混乱。そして恐怖。 |
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