俺ぁちょっと前まで暗部やってた。 紅も、助っ人として暗部の仕事を何度か手伝ってる。 だから、俺等は知っていた。 はたけカカシが、どんだけ強く賢しく容赦無く残酷な忍なのか。 敵に情けをかけ味方に慈悲を与え。殺さずに、死なせずに済むならその方が良いと。 ソレで例え隙を取られ窮地に立たされ。負傷したとしても。 敵に命乞いされ仲間に縋られれば、静かに笑って優しさを差し出す。 俺等は、知っている。 はたけカカシが、どれだけ弱く脆く愚かで甘い忍なのか。 任務であれば躊躇い無く敵を屠り、見せしめの為に女子供すら手に掛ける事を厭わない。 ソレで例え鬼だの悪魔だの罵られ恨まれ恐れられたとしても。 泣く子供をあやしていたその手で、平気でその子供の首の骨を折る。 恐ろしい程の二面性だ。 暗部やってりゃ心のどっかがイカレるなんてのぁザラにあるが。 アイツはイカレる以前の問題だ。 狂ってやがる。 その二面性を目の当たりにして、最初に思ったのはこの一言だ。 イカレてるんじゃねぇ。壊れたんじゃねぇ。 コイツは。暗部になって、いやもしかしたらソレよりも前から。きっと、コイツ、は。 狂って、いやがったんだ。 思い至った時には、鳥肌が立った。 俺も大概、任務とはいえ非道な事はやってきたし死にそうな目にも何度かあったが。 初めて、恐ろしいと感じた。 こんなヤツの、いる暗部という組織が。 狂っている事。壊れていく事こそが普通なんだというその場所が。 俺が暗部を抜けたのは、その後直ぐだ。 1年も籍を置かなかった。尻尾巻いて逃げたと取って貰って構わねぇ。事実、そうだ。 俺ぁ忍だが人間だ。その人間の部分を壊して捨てる、なんてとても恐ろしくて出来なかった。 アイツみてぇに、作りモンの優しさと紛いモンの残酷さを持つ狂った人形には、どうしてもなれなかった。 だから。 始めその事を聞いた時にゃ、耳を疑った。 実際に目の当たりにしても、まだ、疑ってる。 「やー、久しぶりーくまー」 「・・・・・・・・・・・・誰が熊だ、誰が」 相も変わらず眠そうな。青い目を細く笑みの形にしてのたまう覆面に、返した声は僅かばかり、震えて。 「紅ーも、久しぶりー」 「・・・・・・え、ええ。久しぶりね、カカシ」 気付かぬ訳ではなかったろうに飄々と。紅に顔を向けるヤツに、紅はぎこちない笑みを向ける。 そんな、はたけカカシ、の周りには子供がいた。 ヤツの背中に隠れる様に。ヤツの服の裾を掴んでコテンと首を左に傾げながら俺等を窺う桃色と。 ヤツの右手と手を繋いで。コレまたきょとん、としたでけぇ目で俺等を見上げる金色と。 ヤツの左手に頭を撫でられ。ほんの少し憮然とした顔で俺等を見据える黒色。 ――――――コイツ等が、例の『問題児』、達か。 あの人も、一体何を考えているんだろう、と。思う。 目の前で忍に親を殺された戦災孤児。 幼過ぎて記憶に無いとはいえ、血と闇に脅えるというトラウマはしっかり残っていると聞く。 実の兄に一族全てを惨殺された子供。 目の当たりにした惨劇に、一時は失語症にまで陥って、今や兄への殺意に燃える復讐者。 そして、災厄の狐を封じられた、器。 訳も解らぬ誹謗中傷を受け、なのに荒む事も歪む事も無かった、だがそれ事態が、異質な。 一癖どころじゃない。 どいつもこいつも、歪んでやがる。 なのに何故あの人は。 この哀しく歪んだ子供等と、狂っている事を自覚もしてねぇ哀しい人形を、一緒にしたのか。 「おい、カカシ。今日の任務は一体何だ」 「んー?今日はーね、みんなで薬草の採取だーよ」 「えー。オレってば、こーもっとバーンでギューンでドーンな任務がイイってばよカカシせんせー」 「ワガママ言わなーいの。コレも立派な任務だーよ?」 「そうよナルト。ソレに、イキナリばーんな任務は出来ないの。何事も、小さな事からこつこつと、が大切なんだから」 「ちぇー」 「・・・・・・ふん」 ふわふわへらへら。 笑う銀色は本当にタダの引率の先生だ。 諭す桃色も、拗ねる金色も、そっぽを向く黒色すらが。 本当に、タダの子供だ。 だが知ってる。俺等は・・・・・・俺、は。 コイツ等が普通じゃねぇ事を。 どんだけ忘れようとしようが隠そうとしようが、異常、でしかねぇ事を。 だから今見てるこの光景が。普通過ぎて、寒気が奔った。 ヤツ等が普通に見えるのが恐ろしくて。ヤツ等が、普通であろうとする事が哀しくて。 寒気が、奔った。 |
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くまの目には彼等は狂ってる。歪んでる。様に映る。 なのに狂ってない様に、歪んでない様に見せようとする。様に映る。 だから哀しい、そう思う。 |
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