下忍が受ける依頼なんて、ほとんどが子供のお使いレベルだ。

庭の草むしり。落とした指輪の探索。赤ん坊の子守。どっかのでけぇ寺の大掃除。

裏で特位やってるオレ等には、かったりぃ事この上ない。





しかも、だ。

じぃちゃんや兄ちゃん達(主に兄ちゃん)が口うるさくて前より減ったとはいえ。

オレ等は未だに何だかんだと夜の仕事も続けてる。





だから、シカマルじゃねーけどメンドくせぇって思う下忍の仕事は、オレ等の睡眠時間とかを確保する為に最低限しか受けねぇ。

ソレでもやっぱメンドくせぇ。





「・・・・・・だったら何で下忍と特位を兼任、表と裏使い分けなきゃならない様な状態にしたんだ」





今日も朝から下忍の仕事かしかも合同かよかったりーなー、なんてぼやいてたオレに、イルカ兄ちゃんが聞いてきた。

ちなみにカカシ兄ちゃんは一足早く家を出てて、兄ちゃんは任務で今日の昼頃戻ってくる予定だ。





オレはずずずずと啜ってた味噌汁のお椀をテーブルに置いて、こてん、と首を傾げる。

「んー、だってそーでもしねーと余計メンドい事になりそーな気がしたんだよなぁ」

思い出すのは、里の人間共、だ。





アカデミーに通っている間。

『ドベのうずまきナルト』として振る舞ってる間。

解ったのは、葛葉の残した傷が未だに深く、残ってるって事。





や。

中にはちゃんと立ち直ってるヤツもオレを文字通り悪ガキとしてしか見てないヤツもいんだけどな?

八百屋のおばちゃんなんかは売りモンになんねぇ野菜たまにこっそりくれるし。

本屋のじっちゃんばっちゃんは良くオレん頭撫でてくるし。

一楽のおっちゃんなんか言わずもがな、だ。行くたんびに必ずギョウザのオマケがつく。

けど。





「オレん事未だに化け狐って言ってるヤツ等、すっげぇ多いかんなー」





イヤアレは驚いた。

もー11年経ってんだぜ?イイ加減しつけーっての。





あっけらかんとのたまったオレに、イルカ兄ちゃんとサスケの眉間にシワが寄る。

あ。おいサクラ今手ん中でなんかバキッて音したぞ。

しかもその笑顔がなんかコワイ怖い。





「・・・・・・ねぇ、ナル?」

「お、おう?」

「まだ、おバカな人種に絡まれたりする事って、多いのかしら?」

「い、いんや?ゼンッゼン」

「ホントに?」

「ほ、ほんとほんと。」

「そう、なら良いけれど・・・・・・何かあったら、直ぐに言ってね?」





にぃっこり。

華みてぇにカワイイ笑顔だとは思うけどよ。こーゆー笑い方するサクラって、すっげぇ怖ぇんだよ。

・・・・・・何も、そんなトコ兄ちゃんに似なくてもイイのに。





折れた箸を新しいのに取り替えて、食事を再開するサクラにこっそり溜息。

イルカ兄ちゃんもサスケも、若干顔色悪くしながらひっそり息を吐いてた。

・・・・・・うん。だよな。怖ぇって思ったのオレだけじゃねーよな。





「・・・・・・で。ソレの何が面倒なんだ?」

あ。イルカ兄ちゃん話覚えてた。

・・・・・・あー。や、だってさ。





「アイツ等オレん事なんも知らねぇバカだとしか思ってねぇだろ」

「腹立たしい事にな」

「そうね。腹立たしい事にね」

イヤお前等が機嫌悪くすんなってばサクラサスケ。

「殺したら封印した九尾がどーなるか解んねぇしじっちゃんの決め事もあるから下手に手出しもしてこねぇだろ」





オレが今まで生きて来れたのは。

じっちゃんや兄ちゃん達やサクラとサスケのお陰でもあるけど。

でっけぇ理由は、多分。里の殆んどが本当の俺を知らないからだ。





「そんなオレが実は特位でしたー、て万が一にもバレたら。うわやっぱコイツ化け物だった、っつって迫害されんのがオチだし」

「・・・・・・・・・・・・ああ、確かに。下手したら殺されるな、うん」

「だろ兄ちゃん。ソレに、任務とはいえアカデミー行っちまった以上、表で取れんのは卒業か退学の2択だろ?」

「・・・・・・・・・・・・退学は、ヤだ。落第も。ナルトが落ちるなら俺も落ちるからな」

「わたしだっていやよ。3人一緒でないと」

「さんきゅな2人とも。で。卒業しちまった以上はちゃんと下忍やってますって周りに見せなきゃだろ?」





指折り数えながら言ったら、お前もちゃんと考えてるんだな、ってイルカ兄ちゃんが笑った。

って、んだよオレだって考える事くらいするってばよ。





「ま、確かに現状では一番無難な選択肢だな」

「ん。根気と時間はかなり掛かるけど、徐々に表と裏の実力差を縮めていけば、万が一があっても何とかなる、だろ?」





まあ、そんな時間はかかんねぇだろうけどな。





暗部の大半はオレ等『白』の正体知ってて、ソレでもかなり友好的だ。

カカシ兄ちゃんの部下やってた纏雜兄ちゃんとか永久兄ちゃんとか。今も暗部に籍置いてる兄ちゃん達がそう動いてくれたらしい。

オレ等の弟子になって、今じゃ『白』の補欠要員でもあるシカマルとキバも、表裏関係無くオレとは悪友だ。

あの2人が受け入れてくれたんだ。他のヤツ等もそうなる可能性はあまりあるホドにある。

八百屋のおばちゃんとか本屋のじっちゃんばっちゃんとか。里の人間の中にはオレをオレとして見てくれる人等もいる。





そして、何より。





「うん。やっぱ訂正。そんな時間かかんねーよ絶対」

「あら、どうしてナルト?」

「だってオレ等にはカカシ兄ちゃんがいっだろ?」





に、と笑ったら。

サスケもサクラもイルカ兄ちゃんですら。ああ、とすんなり納得した。





カカシ兄ちゃんは万人に好かれる。

纏雜兄ちゃん達は当たり前の様に過保護だし、くのいち達はきゃーきゃー言ってっし。

下忍中忍果ては上忍の中にまで、カカシ兄ちゃんに憧れてるヤツは多い。

オレん事化け物って言うヤツ等も、オレがカカシ兄ちゃんといる時は絶対になんも仕掛けてこねぇ。





獣や鳥、虫に懐かれるのもハンパじゃねぇ。一度全身に生き物に群がられてた時あっけど、その格好には爆笑した。

だって熊を背凭れにして頭のてっぺんに雀乗せて、首に蛇ひっかけて狼や兎や猪や栗鼠を周りにはべらせて蝶々と戯れてたんだぜ?

もう、あり得なさ過ぎて笑うしかねーよ。





「さて、そろそろ時間だし、オレ等も支度すっか。ごっそーさんでした。」

「あ、俺も。ご馳走さまでした。」

「まってわたしも行くわ。ごちそうさまでした」

「3人とも、食器は水につけとくだけでいいぞ。後はおれがやっておくから」





ぱむ、と手を合わせて立ち上がったら、イルカ兄ちゃんが言ってきた。





「いいのか、兄さん?」

「ああ、今日の表のおれは休みだからな」

「じゃあ、お願いするわ」

「あんがとな、イルカ兄ちゃん!」





カチャカチャと食器を重ね、台所へと持って行って。桶に張られた水ん中にとぷんと落とす。

そして。





「んじゃあ、行ってきますイルカ兄ちゃん!!」

「お兄ちゃんいってきまーす。」

「行ってきます、兄さん」

「おー。合同任務がんばれよー」





ぱたぱたと玄関に向かいながら挨拶すれば、背後から飛んできたのはサラッとした声で。

・・・・・・・・・・・・うわ。思い出しちまった。





「・・・・・・・・・・・・かーったるー・・・・・・・・・・・・」

思わずぼやいたオレに、サクラとサスケが小さく笑った。










 





 













子供が2重生活を受け入れたワケ。
 





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