「奈良シカマル。鹿の角より幾多の妙薬を作成する名家、奈良家の嫡子」

つらつらと、オレのプロフィールを紡いでその人は言う。

「小耳に挟んだ事があるんですけど・・・・・・貴方、IQ200を超える天才児、らしいですね?」





その言葉に、他のヤツ等が見せるのは多種多様な反応。

マジで?と純粋に目を丸くする、オレと同じ様に連れて来られたヤツ。

あ、やっぱり。と納得する金と桃色と黒と教師。

へーふーんあっそうだから何?と気にすらしてない銀と金の女。





確かに。生まれた時から、オレは言葉を理解した。

ひとつになる頃には、オヤジと将棋や囲碁を打っていた。

みっつになる頃には、おふくろの目を盗んで暗号だらけの巻物をオヤジの部屋からかっぱらってた。

・・・・・・普通じゃねぇよな。そんなん。

・・・・・・・・・・・・なのになんでコイツ等、こんなリアクション低いんだ。約一名を除いて。





「あ。安心していーよ。世間一般の『普通』なんて、俺達には通用しないから」

「・・・・・・またそんなアッサリとカカシさんは・・・・・・」

「じゃが事実であろ?イルカ」

「・・・・・・・・・・・・まあ、そうですけどね・・・・・・・・・・・・」





ひらひら〜と手を振って笑う銀髪と金の女に、教師が苦笑する。

・・・・・・・・・・・・何で、こんなアッサリしてんだろうこの人等。

普通じゃない、ってのは。そんな珍しくも気に留める事でもない、ってか?

・・・・・・・・・・・・まあ、確かに。俺もちょっと前まではそう、思ってたけどな。





だってオレはオレが普通だと思ってた。オヤジもおふくろも、幼馴染達も、そんなオレに普通に接してたから。

だけど違った。オレは普通じゃ、なかった。

ソレを知ったのは、アカデミーに通う事になった第1日目。他の子供を知った時。ヤツ等に『変』だと、言われた時だ。





そりゃあ、自分でも解ってたさ。自分の頭の出来が、他の同年代の子供と比べて、良いって事は。

ソレに、オレの話に幼馴染の2人がついていけない事だって多々あった。

けどあの2人は、決して『変』とは言わなかったから。

解らない、とか。もっと解り易く話してくれとかはさんざん言われたけど、『オレが変』だとは一度も言わなかったから。






けど、ココまで。こんなに差があるなんて、思ってもみなかった。

だからその事を知ってから、オレは極力、幼馴染の2人以外の子供との接触を避けた。





面倒だったからだ。自分に理解出来ねぇからって、オレを排除しオレに敵意を向けるのが。

面倒、だったんだ。そんなヤツ等の相手をする事が。

――――――・・・・・・・・・・・・んでもって。ほんの、少しだけ。

嫌、だったんだ。





オレだって人間だ。じじくせー考え方すっけど実際は生まれて10しか生きてねぇ餓鬼だ。

仲良くなるつもりも興味もねぇヤツ等だけど、頭っから否定されりゃ少しくらいは傷付いたりも、するんだ。





だから、いっつもいっつもやる気の無い感じで。口癖は「メンドくせー」で。

元が不精なタチだったから、すんなりソレで丸く収まって、そうこうしてるうちにオレは『普通』に埋没した。

・・・・・・・・・・・・なのに。何で知ってんだその事を。何処からソレを小耳に挟んだってんだ。左右の目の色が違うこの男は。





「あんまり気にすんなよシカマル」

にいさんの情報収集能力って半端じゃないから」

「その気になれば、1時間かそこらであなたの全部を調べ尽くすくらいワケないわ」





顔に疑問が出てたんだろう。うずまきとうちは、ソレから春野がくすくす笑いながら言う。

・・・・・・そうか。たった1時間で調べ尽くされたのか。って、どんな情報ソース持ってんだ。





「ソレは秘密です。――――――で。そんな天才児な貴方にお伺いしたい事がひとつ。」

オレの考えを読んだ様ににっこり笑って。

「さて――――――貴方はこの本に、見覚えありますね?」

煌めいて見据えた黒と朱金。そしてひょい、と持ち上げられた一冊の本に、俺は息を呑んだ。





ソレは、ついこの間まで。

俺が借りてたアカデミーの図書室にあった本。





図書室には良く入り浸ってた。

アカデミー生向けの本なんざ読み応えねえな、とは思ってたが、まあ暇潰しにはなったからな。

そんな暇潰し、で選んだ一冊の本だ。異国のお伽噺、タダの童話だった。

誰でも知ってる様な内容。読み書きも出来ない幼い子供に、寝物語に聞かせる様な。





けど、おかしかった。

改行の使い方。文字から文字の間に開いた空白。

『君』と『キミ』と『きみ』。同じ意味なのに平仮名と漢字と片仮名で使い分けたり。





ぴん、ときた。

コレは暗号だ、と思った。





オレの年で読む様なモンでもねぇのに、借りて家に持って帰って。

時間があればその本と格闘して。

貸し出し期間が終われば返して。すかざずまた借りて。





本は、読み通り暗号だった。まるっと全部最初から最後の文章が。

――――――解くんじゃなかった、なんてガラにもねぇ事を思ったりもした。





「単刀直入に、申し上げましょう」

黒と朱金が煌めく。

「貴方が殺されかけたのは、コレの所為です。何故か、は――――――もう、解りますよね?」





ああ、そうか。

やっぱり、か。





彼の。その言葉に、オレは。

かつてこの木の葉の里を襲った狐の物語が隠されたその本を、視界の端に留めた。










 





 













何回も一冊の本を借りて返してしてたらそりゃ足も付く。
 





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