オレは、匂いには敏感だ・・・・・・いや、敏感なんてモンじゃねぇ。ケタ外れに鼻が利く。

ソレは。ウチが元々、犬忍の育成をしてるから、ってだけじゃなく。





「――――――一先ず、状況を整理させて下さい」





風呂に入ってたんだろう。鼻がひん曲がるかと思うくらいの血の匂いを落として、こざっぱりした格好で戻ってきてそう言ったのは。

アカデミーで毎日。オレ等に忍の事を教えてた教師、だった。

間違えるワケがねぇ。この匂い。

石鹸でも消せねぇ、優しい森と、水の匂い。





「あのね。わたし達が慰霊碑近くで鬼ごっこしてる時にね。その子がどこかの暗部に抱えられてて」

「額当てが霧、だったから。もしかして誘拐かな?って思ったんだ」

「だから、その暗部のヤツけっちょんけちょんにして、ソイツ連れ帰ってきちまったんだよ」





答える3人のガキの言葉に、そん時の事を思い出す。

・・・・・・・・・・・・なんでオレと同じ年なのに、あんな強ぇんだコイツ等。こーして見てると、ホント、オレとおんなじガキなのに。





この、3人の事もオレは知ってる。

みんな、同じアカデミーの同じクラスだ。





桃色の髪のヤツは、春野サクラ、っつったか。

頭が良くって、でも引っ込み思案で、良く他の女子にいじめられて泣いてたのを見た事がある。

ソイツはいつも、今と同じかすかに甘い華とあったけぇ土の匂いをさしてて。





黒髪のヤツはあのうちはサスケだ。

いつもいつもすかしてて。オレは優秀なんだてめぇらと一緒にすんなって一匹狼気取ってやがっててイケ好かねぇヤツ。

ソイツは今、黒かった眼を鮮やかな紅に変えて。けど変わらねぇ鋼と火の匂いをさせて。





んでもって、金髪頭は万年ドベのうずまきナルト。

いっつもぎゃーぎゃー騒いでて、イタズラ仕掛けて怒られてゲンコツ喰らっても、へこたれずにまたイタズラ仕掛ける大のアホ。

ソイツはいつもと違う笑い方で、なのにいつもと同じ空と風の匂い。





同じ。同じ匂いだ。だから、別人って事はありえねぇ。

なのに。





「そして私は。丁度任務を終えて此処へ帰る途中、暗殺現場に遭遇しまして・・・・・・タダの暗殺ならスルーしたんですがね」

続けて口を開いたのは、今は森の匂いのするイルカ先生と同じくらいの年の姿をした兄ちゃんだった。

「木の葉の暗部が里の中で。しかも里の子供を殺そうとしてたので。つい暗部の方昏倒させてその子お持ち帰りしちゃいましたvv」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ、うん。先生が脱力すんの、解る気がするわ。

言ってる事自体はなんかすっげぇとんでもねぇ事のハズなのに、言い方がすっげぇあっさりお気軽だ。

しかも言ってんのが、この。真っ黒い右目と太陽みたいな左目をした兄ちゃんなモンだから。





その兄ちゃんは、すっげぇキレイな顔をしてた・・・・・・や、私、って言ってるからもしかしたら姉ちゃん、なのかもしんねぇ。

けど、すっげぇ背が高いから、やっぱ兄ちゃんなんだろうって思う・・・・・・けど、今まで見た事ねぇくらいすっげぇキレイな人で。





この兄ちゃんからも。このでっけぇウチで鉢合わせした時、鼻が曲がりそうなくれぇの血の匂いがした。

その、血の匂いを。落とした兄ちゃんからは、ぽわぽわした匂いがした。

なんつーんだろ・・・・・・あ、そうそう。お日さんにあてた布団、みてぇな匂いだ。





「――――――ソレは、また・・・・・・・・・・・・確かに可笑しいですね」

眉間にシワ寄せて、イルカ先生が俺ともう1人を見る。

「と、思って。私もさっき式を飛ばしました――――――お爺様は何もご存じ無い様でしたよ」

お日さんの兄ちゃんも、笑顔を困った様な笑みに変えた。





オレと似た様な境遇で、しかも有無を言わさず連れて来られたんだろうもう1人のソイツは、さっきからメンドくさそーにしてる。

さっき殺されかけたっていうのに、そんなんでいーのかってくらいメンドそーだ。

・・・・・・コイツは、確か。奈良シカマル、だっけ。

万年ドベのナルトと張るくれぇの、これまたドベだったハズだ。

ナルトとは違って、いっつもジジくせーけどな。

ソイツからは、何故かさっき手当されてた時のとは違う、身体に沁み込んだみてぇな、強い薬の匂いがした。





「あの霧の者、胸糞悪い匂いが付いておった・・・・・・そっちの赤目の坊は、どうやら何処ぞの阿呆に目を付けられた様じゃの」





・・・・・・赤目の坊・・・・・・ソレって、オレの事か?オレの事だよな?

思いながら、こん中で唯一の『女の人』に目を向ける。

ちょっとキツめだけど、コッチもけっこーな美人。なのになんかすっげぇ時代錯誤なしゃべり方で、変な姉ちゃんだ。

・・・・・・って、思ってたのは。実はこの姉ちゃんを見た一瞬だけ、だったりする。





――――――だってこの姉ちゃん、人間じゃねぇ。





人間の姿してるけど。美人だけど。姉ちゃんの匂いは、まんま獣だ。

しかも狐だ。10年くらい前、木の葉を襲ったっていう化け狐の眷属だ・・・・・・この姉ちゃんもきっと、化け狐だ。





「犬使いの血筋の子供・・・・・・しかもその坊、おおがみ憑きじゃ。里を抜ける為の手土産にするには、持ってこいじゃろうて」





――――――ほら、な。

家族の中の誰よりも、オレの鼻が良いワケ。タダの犬の言葉をも、オレが理解するワケ。

姉ちゃんや母ちゃん、父ちゃんが立派に育てた犬忍達ですらが、オレに絶対の服従をするワケ。

普通の人間には解りもしねぇ。暗部でもまず気付かねぇ。オレの家族ですら知らねぇ事に、気付いたこの姉ちゃんはやっぱ人間じゃねぇ。





おおがみ、は。漢字で書いたら『狼』、もしくは『大神』、になる。

里の裏のでっかい山の奥。遊んでる最中に迷子になって、泣いてたオレを。

山神の依代として見染めたのは、その山に住むでっけぇ黒い金目の狼だった。





「・・・・・・おおがみ・・・・・・ああ、じゃあこの子に付いてる印、黒牙様のなんですね」

「?にいさん、黒牙様ってだれ?」

「そういえば、サスケとサクラは会った事がなかったな――――――木の葉の裏に山があるだろう。あそこの守神様だよ」

「まもりがみさま?じゃあその子、えっと、キバ?は、ナルトと同じなの、イルカおにいゃん?」

「そうさのう、まあ確かに加護を受けている、という点では同じであろうよ・・・・・・アレは滅多に山からは出て来ぬがな」





・・・・・・・・・・・・おなじ?

その単語に、ちらり、とナルトのヤツを見る。ソイツは「ふーん」て顔をしながら、銀髪の兄ちゃんを座椅子代わりにしてた。

で、座椅子にされた銀髪の兄ちゃんは、といえば、イヤな顔するどころかすっげぇニコニコしてた。





不思議な、兄ちゃんだ。





この兄ちゃんも、キレイな顔してる。青い右目と紅い左目も、キレイな色だ。

雰囲気も似てっから、もしかしたらお日さんの兄ちゃんと兄弟なんかも知んねぇ。

月の光みてぇなキラキラな髪の毛してて、しっとりした冷たい夜の匂いがする。

なのに、何でか柔らかくて。気持ちよくて。思わず寝ちまいそうになるくれぇ安心するんだ。この兄ちゃんの匂い。





「そっかー。サスケとサクラ会った事ないのかー。じゃあ、今度みんなで黒牙様んトコ遊びに行こっか。おべんと持って」





そう言って。

ニッコリ笑った兄ちゃんに、金髪共がきゃーきゃーはしゃぐ。

・・・・・・・・・・・・てーか、なんかその『みんな』の中に、オレも入ってる様なきがすんのって・・・・・・・・・・・・

き、気の所為、だよな。うん。










 





 













ウチのキバは山神様の依り代。

原作より鼻は良いしイヌ科の動物自由自在に操るけど本人そんなに強くは無い。

ただし今この段階では、とゆー但し書き付き。
 





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