おとぎ話や言い伝えの全てが、作り話しという訳では無い。 ああいうモノには、大なり小なりの、真実が練り込まれている。 山より大きな大海蛇に。化け狸とか。人を食う鬼や妖怪など。 ――――――そして。春しか訪れぬ、幻の森。 ソレは雨眷馭の、森の民の言い伝えだ。 此の世の何処かに、花も萎れぬ樹も枯れぬ、鳥が虫が獣が穏やかに暮らす永遠の春の森が在るという。 そしてその森の最奥には。森に囲まれ春に包まれ、永遠に咲く美しい華がある、という。 その華を見つけ愛でる者は、幸せを手に入れるとされ。 手折り森から奪った者は、此の世のありとあらゆる災厄を、身に受けるのだと。 この森を見た瞬間。おれはその幻の森を思い出した。 そして。カカシさんの後ろで微笑む彼を見た時。 何故か、その永遠の華を、思い出した。 「確かに。華、ってカンジだよな。にーちゃんって」 「綺麗、だもんな。にいさん」 「見てるだけで眼福ものだものね。おにぃちゃんは」 アレから数週間経って。子供達は、彼の事を兄と呼ぶ様になった。 この森や、屋敷にも。随分と慣れもした。 「・・・・・・えー。綺麗?眼福?兄ぃが?」 広い居間でのんびりまったりと。 カカシさんは、何時もの覆面も額当ても取って。膝の上に乗せていた、サスケの頭の上に顎を乗せる。 何時もは半数、酷い時には全員。夜の闇に潜まなければ出来ない様な仕事を請け負っているが。 今日は珍しく、夜の任務がさんだけに入った日だった。 「カカシにいさんは思わないのか?」 「・・・・・・まー確かにソレナリに整った顔してるとは思うけどー」 「ソレナリどころか最上級だとわたしは思うわ」 「カカシにーちゃんはにーちゃん見慣れてっからな」 きょとん、と視線だけを上げたサスケの質問にも納得いかない様子で。 ナルトとサクラは、苦笑を見せた。 おれも、あの人は華だと思う。 4代目や、カカシさんの父親と懇意だったのだ。彼はおれやカカシさんよりもだいぶ年上なんだろうと思う。 なのに見た目は20代の前半と、おれ達と全く変わらず。 何時も穏やかで。ソレでいて鮮やかな、彼の纏う気配は麗しく咲き誇る華だ。 「――――――いや、寧ろ吾奴は番人じゃろう」 そんなおれの考えを。否定したのは鈴を転がす様な声だった。 「森に足を踏み入れし者を見定める番人。華に近付く者を選別する、守人よ」 その言葉に振り向けば。白い巫女服を纏った長い長い金の髪の、ほんの少し釣り目の、美しい女性がいた。 「葛葉」 同じ様に振り向いたナルトが呼べば。彼女――――――九尾に堕ちた狐神は、ナルトの隣に腰を下ろし。 「彼れは華守。華に害成す者を喰らい屠る、守護の獣じゃ――――――のう。違うかえ、カカシ坊?」 ひたり、とカカシさんに向けられた琥珀色の目は射る様に強く。 カカシさんは、僅かに眉をひそめた。 「・・・・・・・・・・・・あのー。俺コレでももーすぐ23になるんですケド」 「ほほ。妾にとっては坊も同じじゃ」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ソーデスネ。ウン。ソノトーリデスヨ。」 ころころと笑う葛葉様に、カカシさんの肩ががくりと落ちた。 その拍子に体重が掛かったんだろう。サスケがにいさん重い、と小さくぼやき。 そんなサスケの頭を撫でながら、カカシさんは言う。 「・・・・・・まあ。確かに兄ぃは、守られるより守る人だ。間違っても愛でられるだけの華じゃないナイ。」 俺も今までさんざん守られてきたし、今も子供達守る気満々だしね、と。 ああ、確かに。彼は戦う者、でもあるな。 木の葉最強の称号は伊達では無いし、ソレだけの力を有している。 華の様に美しくはあるが、その見た目だけで油断すれば、手酷い竹箆返しを受ける様な棘も毒も持つ。 ソレは、解る。解るんだが・・・・・・ 「憶えておおき、子供達。彼れの性質は盾にして牙。お主等に、愛し子等に害成す者は容赦無く血祭りに上げるであろうよ」 ナルトの髪を梳き、葛葉様は穏やかに微笑んで。 「時と場合に依れば、九尾である妾よりも酷くなろうし、更には鬼にも成りかねん・・・・・・故に、彼れを決して、怒らせては成らぬよ」 だがサラリ、と言っているのは。結構恐ろしい内容だ。 「・・・・・・・・・・・・あー、なんか解る。にーちゃん怒るとすっげ怖そう」 「・・・・・・・・・・・・だけど鬼、って・・・・・・・・・・・・まさかそんな」 思わず、正気を失って暴れていた葛葉様を思い出し。 ソレより酷いさん、を思い浮かべてしまって慌てて首を振ってその想像を消し去ったおれだが。 「や。葛葉さんの言うとーり。兄ぃすっごい過保護。今まで何回かプチ切れたトコ見た事あるケド、鬼なんてモンじゃないよアレは」 さっくり言ったカカシさんのセリフに。 おれは。子供達やカカシさんには、危ない仕事からは出来るだけ外れて貰おうと、心に誓った。 |
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おねにーさまは(前世?の自分)の顔を人並みだとしか思ってない。 | ||
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