にいさんの隣にいたのは、夢みたいに綺麗な人だった。

濡れた様な艶やかな黒髪に、透き通った様な白い肌。落ち着いた、藍色のアオザイみたいな服を着てる。

真っ黒な右目は優しい闇で。左目は、太陽みたいな赤味がかった金だった。





その人は、カカシにいさんのにいさん、なんだという。

ナルトの父さん・・・・・・4代目と一緒に、カカシにいさんの保護者をしていた人、なんだと。





「初めまして。私が『影』の隊長を務めております、、と申します――――――、と。呼んで下さいね」





ナルトを見るなり固まって。かと思ったら行き成り抱き締めたその人は。

泣いてしまいそうな顔で、でも精一杯笑って。震える声で、俺達にそう言った。





その後、立ち話も何ですし、って案内されたのは。

「・・・・・・・・・・・・うーわー・・・・・・・・・・・・すっげぇー・・・・・・・・・・・・」

さんに抱き上げられたナルトが、思わず、って感じで呟く。





・・・・・・・・・・・・うん。あんなに細いのに軽々ナルト抱き上げて涼しい顔してるさんも凄いってさっき思ったばかりだけど。

――――――・・・・・・・・・・・・まさか森のど真ん中で、自分の家より大きな家を見るなんて思ってもみなかった。

ココまできたら、もう屋敷だ。豪邸だ。火影様の家より、大きいんじゃないか。





「・・・・・・・・・・・・『影』の人達は、殆んど無償で依頼を請け負ってるって聞いてたんだけど・・・・・・・・・・・・」

サクラが首を傾げるのも最もだと思う。

だってこんな大きな家を、しかもこんな場所にだなんて。

普通に暗部の仕事で給料貰ってても、何十年ローンとかしないと建てられなさそうだと思う。





だけどさんは、ちらり、と意味深にカカシにいさんに目を向けて。

「いえ、私は管理しているだけです。本来の持ち主が物臭で・・・・・・ねえ、カカシ?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?





思わず振り仰いで見たら。カカシにいさんはぽりぽりと。人差し指で覆面の上から頬を掻いて聞いてないフリ。

・・・・・・・・・・・・目がうろうろしてるんだけど。





「もしかしなくても、この家って、カカシさんの家なんですね?」

視線を泳がせてるカカシにいさんに、イルカにいさんが半眼で訊ね、ていうか、もう断定なイキオイだ。

「えっマジで!?この家カカシにーちゃんが建てたのか!?こんな無駄にでっけぇの!?」

「・・・・・・カカシおにぃちゃん。家って住まなきゃ痛むのよ?知ってる?」

さんの腕の中からびっくりと。ナルトが目を瞬かせて、サクラなんか、溜息吐いて呆れた声だ。





そんな皆にううって呻いてたカカシにいさんは。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺が建てたんじゃないよ。建てたのは俺のとーさん・・・・・・まあ、確かに名義は俺だけど」

なんだかじとーっとした目でさんを見て、ソレからぼそぼそと反論してきた。





――――――カカシにいさん、の。お父さん、って・・・・・・・・・・・・





首を傾げて、サクラと顔を見合せて。ナルトと、目を合わせて。

イルカにいさんを、見上げたら。イルカにいさんだけが、しまった、という様な顔を、してて。





――――――あ。

そう、だ。確か。

カカシにいさんの、お父さん、は。





「てゆーか。なんだってとーさんは俺の8歳の誕生日プレゼントをコレにしたんだか」

「確かに8歳の子供には過ぎた贈り物ですよね。ミナトも呆れてましたものねぇ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?

「でも。あって良かったと思うよ、この家。とーさんの養生にもなったし。結局病気治らなかったケド」

「そうですね・・・・・・笑って、穏やかに逝ってくれた事は。私も本当に良かったと思います」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え、と?





静かに静かに。

家を見上げながら。柔らかに、懐かしそうに、さんとカカシにいさんは、笑う。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ね、カカシにいさん」

「ん?なーにかな、サスケ?」





くい、と袖を引っ張ってみたら、カカシにいさんは俺をよいしょっと抱き上げた。

細められた目は笑みの形。

だから、思い切って。気になる事を、聞いてみようと、思う。





「・・・・・・にいさんの、お父さんって。じさつ、したんじゃ。ないのか・・・・・・?」





俺の質問に、イルカにいさんがサクラがナルトが。ひゅ、と息を呑んだ。

そんな3人の雰囲気に。さんとカカシにいさんは、今度は苦笑を、浮かべて。





「――――――ああ。そういえば、世間一般では、そうなってます、ね」

「せけん、いっぱん・・・・・・?じゃあ、違う、のか?」

「ゼンゼン。まったく。これっぽっちも違います」





きっぱりはっきり。

言い切ったカカシにいさんに、目を丸くした。





「・・・・・・まあ、とーさん一回自殺未遂やらかして、死んだのってその直ぐ後だったからね。勘違いされても仕方ないんだけど」

「その未遂の原因も、実は任務失敗云々でなくて、余命数ヶ月です、と医者に宣告されてつい衝動的に、だったりするんですよね」

「癌だったんだ、とーさん。しかも末期でね。色んなトコに転移してて・・・・・・手遅れだった」

「仙掌術でも、痛みを散らすのがやっとでした・・・・・・眠る様に、逝きましたよ。サクモは」





ふわり。ふわふわ。

話す2人はどこまでも柔らかくて。





「・・・・・・・・・・・・そ、か・・・・・・・・・・・・」

ぽつりと。零れた。





そうか。良かった。

カカシにいさんのお父さん、自殺じゃなかったんだ。

そりゃ、死んだのは、事実、だけど。哀しいのは、当たり前だけど。

にいさんは、こんなに穏やかで。





その事実が。カカシにいさんの。心の瑕になってなくて、良かった。

そう、思った。










 





 













我が家のカカシ父は一流の忍だけど生活能力皆無でものっそい親バカで世間一般からちょっとズレた人でした。
 





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