うちはが謀反を企てている、と。その言葉をそして抹殺の任を告げられた時。

とうとう。この日が来てしまった、と。俺は、絶望にも似た思いで、その言葉を反芻した。





うちはの始祖は、初代火影と共にこの木の葉を造り上げた。そして、意見の相違で初代と戦い敗れ木の葉を去った。

だから、という訳では無いが。薄々勘付いては、いた。

父が。今の木の葉に不満を持っている事を。上層部の転覆を。図ろうとしていた事を。





切欠は、狐のもたらした災事。

あれでうちはは里の上層部の腐敗具合を知った。此れ以上木の葉には付いていけぬ、と判断を下した。

――――――・・・・・・・・・・・・澱み倦んでしまっているのは、うちはも同じだろうに。





「・・・・・・・・・・・・イタチ。本当に、良いのか」





気遣わしげな声に、ふ、と。視線を上げる。

其処には。俺の手から渡った俺の弟を抱きながら。右足に金の髪の子を。左足に桃色の髪の子を張り付ける。

不安そうな心配そうな。泣きそうな目で俺を見る、顔に傷持つ1人の忍。





「何なら俺が、代わりに行こうか」





寧ろそうしてくれ、と。お前が独りで負う事では無い、と。親殺し、裏切り者、と。お前独りが汚名を被る事は、無いのだと。

優しいやさしい、俺の親友。

そう言ってくれる。其れだけで。俺はこの苦渋と呼べる選択に、決断を下せる。





「――――――いや。俺が、行く」





戦乱は鎮火しつつあるとはいえ、未だに今は、混迷の時代だ。

木の葉は比較的、安定している。だが里を一歩出れば、其処彼処で戦の火の手が上がっている。

俺は幼い頃から暗部として活動してきたから。其の中で、戦争の凄惨さを何度も目の当たりにする機会も多かった。

だから、想像出来るのだ。もしも、うちは一族がクーデターを起こせば、と。

其れが成功を収めようが、失敗に終わろうが。木の葉が、其の凄惨な事態に陥る事を。

其れこそ、あの狐の災事の比では無い程に。





しかも。其れを切っ掛けとして、忍の世界の微妙な均衡も崩壊するだろう。

木ノ葉の滅亡はおろか、新たな忍界大戦の引き金となるやも知れない。

だから、俺は決断した。生まれ育った里の平和を守る、と。万の人間を生かす為に。血を分けた、実の親を殺すと、決意を。





「サスケを、頼む――――――イルカ」

「――――――ああ」





抱き上げられていた弟の頭をひとつ。軽く撫でて、俺は腰にさげていた面を取り上げる。

弟は。サスケは大人しく抱き上げられたまま。泣くのを堪えて俺を見る。

そんな俺達を見上げていた、サクラの小さな手が動いた。

イルカのズボンを握り締めていた、手。其れが縋る様に、今度は俺のズボンを、握り締める。





「・・・・・・・・・・・・いや」

「サクラ」

「・・・・・・いっちゃ、いや・・・・・・イタチおにぃちゃん・・・・・・!!」





サクラは、泣いていた。

ぼろぼろと、大きな雫を。其の大きな翠の目から、零していた。





「サクラ――――――会いに来る、から」





其れがどれだけ困難か、解っている。

3代目の懐内。嘗ての空狐を宿した子供と、鏡櫻の子供は厳重な結界の中心に何時もいる。

近付けるのはほんの、ひと握り。閃はその、ひと握りの人間で。この子供達の護衛を教育を一手に担う、凛と共に子供達を育てて。





――――――だが。今から抜け忍になる、うちはイタチに。其れは適用、されなくて。





「会いに、来る。今までの様に、毎日は無理だが・・・・・・其れでも、必ず会いに、来るよ」

「・・・・・・ほん、っとう、に・・・・・・?」

「ああ――――――本当、だ」

「嘘だ!!」





宥めようと桃色の頭に手を置いた矢先。

強く強く否定の声を発したのは、金の子供、だった。





「嘘なんか吐くな!!出来ねぇ事言うな!!期待なんか、持たせんな!!」





掴んでいたイルカの服から手を離し。鋭い声は身を切り刻む様に。

肩を怒らせ。俺を見据える蒼の目は、突き刺さりそうな程、強く。





「どーせイタチにーちゃんも!!ぎんいろのにーちゃんみてぇに一度も来なくなんのに!!」





言い捨てた其の科白は悲鳴じみて。

身を翻し。奥の部屋へと駆け込んでいった金色の子供に。

再び、泣き出してしまったサクラとサスケを宥めながら。

俺は、思い出したぎんいろに、泣きたくなった。










 





 













会いたくなくなったから会いに来なくなった、ワケじゃない。

ソレを知ってるから、ほむらはこどももぎんいろも、かわいそーだと思う。
 





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