困った、人だ――――――そう、思う。

彼といると、俺は疲れる。

呆れて。怒って。怒鳴って叱る。そんな事ばかりで、彼と一緒にいると俺は疲れるのだ。





俺は。要らない、と判断された人間だった。

下忍になった十二の時に、任務で大きな傷を負い。忍としてはもう使えぬ、と言われ。

故に人体実験に。差し出された、人間だった。





口惜しくなかった、筈が無い。

憎まなかった、筈が無い。





忍は道具。俺もその教えは否定しない。

だが忍も、生きている――――――生きた、人間だ。

道具で在れ。そう己に言い聞かせている時点で、押し殺しきらぬ心を持つ、人間なのだ。





だからこそ、恨む。

使えなくなったからと、あっさり俺を捨てた里を。

人を人として扱いもしなかった、あの蛇の様な男を。





幸か不幸かあの男の。人道を外れた実験は暴露され。

唯一生き残った俺は、あの非道な実験によって再び忍に返り咲く事が出来た。

だが、其れが如何した。其れが何だと、言うのだ。

忍に戻る事が出来ても。里が一度俺を捨てたのは間違い様も無い事実なのだから。





其れから俺は、表で無く。闇に生きる様になった。

里など信じぬ。仲間など、要らぬ。

けれど忍としてしか生きていけぬ。其れ以外の生き方を、知らぬ。

故に。憎みながら恨みながら、其れでも。影に生きる忍の更に闇へ。暗部の世界へ身を投じた。





其処で、この人と出会ったのだ。





「よーうこそ纏雜ー。六班へー。俺いちおーたいちょーの朧ってゆーの。仲良くしてねんvv」





第一印象は、なんて軽そうな。その一言に尽きた。

間の抜けた声音に眠そうな青い目。其れ以外を覆面と額宛で隠した。其の名の通り朧に翳む、真綿の様な、人だった。





仮名を使いながら。けれど隠さぬ髪の色彩に。其の正体は容易に知れた。

噂だけなら知っていた。コピー忍者。里一番の技師。千の術を持つ男。

伝説と謳われた忍者の息子。里を守り命を落とした英雄の、最後の弟子。





――――――実態が。あんなに華奢な人間、だなんて。思ってもみなかった。

そしてなんて。今にも壊れてしまいそうな人なのだろう、だなんて。

なんて哀しい、人なんだろう、だなんて。思ってしまった。





彼は俺よりふたつ程年かさで。十五で暗部入りしたというのに其の数ヶ月後には。既に部隊長を務め上げていた。

そして彼が率いる班は。とても優秀なのだと聞き及んだ。

任務での殉死者の確率は一パーセントを切り。しかし達成率はほぼ百パーセント。

彼の指揮の取り方を見ていたら、嫌でも其の理由は、良く解った。





彼は、難易度の高い仕事程、他者に任せない。

信じていない訳では、無い。只本当に、純粋に。危ないからやって欲しくない、と。

露見されてしまう確率の高い諜報や密偵。技量の高い敵の相手。

困難であればある程、分が悪ければ悪い程。彼は全て一手に引き受ける。

そして守ろうとするのだ。仲間を部下を全て全て。





「だぁって。俺のかわいーかわいー部下だもん。一緒に木の葉に帰りたいんだもん。置いてなんて、いけなーいよ」





何時だったか。

毒にやられてひゅーひゅーと。嫌な呼吸をする未だ若い。暗部になって間もない男を。

二日掛けて背負って歩いて。彼は男共々拠点にしていた隠し砦に帰ってきた。

・・・・・・彼自身は。男と全く同じ毒にやられ。そして脇腹に風穴を、開けていた。





「だぁめだよー、纏雜ー。俺よりもってもてになっちゃー。」





そしてまた、或る時には。

敵の手勢が多い中。捌き切れぬと振り上げられた忍刀に目を瞠った俺の前。

俺と凶器の間に手裏剣を投げ付け。敵の気を削ぎ。わざと僅かな隙を作って己へと引き寄せた。

・・・・・・彼は彼で、相対していた敵の数は俺よりも多かったのに。





「そりゃーねぇ。信用第一な商売だし任務は大切だけーど。仲間の命には、変えらんなーい、よ」





ふわふわと。何処までも軽くふざける様に。そんな事をサラリと言って。しかも本気で言っているから、性質が悪い。

俺だけじゃなく。他の仲間が同僚が。部下すら呆れて怒って叱っても。笑いながら聞き流して覚えもしない。





だから、疲れる。

まるで、幸せになどなりたくない様に自己犠牲の精神を貫き。

俺から部下から皆から。慕われているのに、気付きもしないで甘えもしない。





そんなあの人を見て俺は。疲れながらも離れられないと、思うのだ。










 





 













当て字ですが。雜(ま)じり纏(まと)う、と書いて纏(テン)雜(ゾウ)、と。

・・・・・・てゆーかまさかこの人まで出てくるとは思わんかったよ・・・・・・
 





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