わたしのお母さんは、何時も怯えた目でわたしを見たわ。

わたしの髪が、桃色をしていたから。

わたしの目が、翠色をしていたから。

お母さんもお父さんも茶色い髪と目をしてたのに、わたしがそんな色彩を持って生まれてきたから。





わたしのお父さんは。何時もわたしが触る事を、恐れたの。

わたしが摘んだ花は、必ずわたしの手の中で枯れたから。

わたしが撫でた動物は、必ず直ぐに死んだから。

わたしが触った人達は、病気になったり事故に遭ったり、必ず悪い事が起こったから。





だからわたし、捨てられたの。





とても、天気の良い日だったわ。

お母さんがね、お出かけしましょう、って言ったの。

ちょっと遠いところだけど、とっても良いところだから、行きましょう、って。

ぎこちない笑みを浮かべて。わたしから目を反らして――――――わたしに、触ろうともしないで。





薄々、気付いてはいたのよ。

だけど初めてのお出かけだったから。お母さんと一緒の、お出かけだったから。

だからわたし、せいいっぱい笑って、うん、て元気に返事をしたの。





わたしはお母さんと家を出た。

手、なんて。繋いで貰えなかったけど。だけど並んで。横に並んで歩いた。

いっぱい。いっぱい歩いて――――――そして、森に入ったの。





お母さんは森に入ってしばらくして。村が見えないところまで来て、一度足を止めたわ。

そして、わたしに言ったの。忘れ物をしてしまった、って。

ちょっと取りに帰って来るから、少しだけココで、待ってて頂戴、って。

必ず、直ぐに戻って来るから、って。





わたしは、早く戻ってきてね、と言って。引き返していくお母さんの背中をずっと見送ったわ。

見えなくなるまで・・・・・・見えなく、なっても。

ずっとずっと、その方角を見続けていた。

だけどお母さんは、少し急ぐ様に。そして一度も――――――後ろを。わたしを、振り返らなかったわ。





わたしは待った。お母さんを待った。日が暮れて雨が降り出して。其れでもずっと其処から動かずに。

だけど戻って来なかった。1割くらいあった希望は、アッサリわたしの中で溶けて消えた。

だから、日が昇って朝が来て。其処でわたしはまた、歩き始める事にしたの。





村がどっちにあったか、なんて解らない。

もしかしたら、もっともっと森の奥に、迷い込んでしまうかもしれない。

でも、其れで良かった――――――もう、如何でも良かったの。





お母さんはわたしを置いて行った。3歳の誕生日をついこの間迎えたばかりの、わたしを。

野犬や狼や猪や、もしかしたらもっと凶暴な獣がいる森の中に。

其れはつまり、わたしに死ね、って事なんでしょう?

そういう、事なんでしょう?





歩いて歩いて。足の裏に肉刺が出来て。潰れて血が出て。痛くて痛くて。

咽喉が乾いて、お腹も空いて。また日が落ちて真っ暗になって。それでもわたしは歩き続けた。





だけど、もう。体力すらも底を潰いて。

座り込んだ、茂みの中で。わたしは、とうとう死ぬのか。そう思った。

だったら早く死なないかな。そう、思った。





痛いのもしんどいのも、もう嫌。

辛いのも苦しいのも、もう嫌。

――――――あんな目で見られるのも、もう、嫌。





だから早く。早く早く死ねれば良い。

わたしだって要らない。こんな不気味なこんな恐ろしいこんな化け物。

わたしなんて、死んでしまえば良いのよ。





とろり、と思考が溶ける。寒さも感じなくなってきて、眠くなってきて瞼が落ちてくる。

なのに、がさり、と。耳が草を掻き分ける様な音を拾ったの。





もしかして、獣かしら。

わたし、食われるのかしら。

最後の最期まで、わたしは痛いままなのかしら。





そう、思ったわ。そしてこうも思った。

神様はなんて意地悪なのかしら、って。





だけど、そんなわたしの耳に。次に届いたのは。





「え?・・・・・・ぅえぇえっっ!?ちょっと何故ナニどーしてこんなトコに子供!?」

「へぇ。こんな危ない夜の森の奥に。良く今まで生きてたね」

「ナニ感心してんだバカっっ!!ちょっとおじょーちゃん、だいじょーぶ!?」

「え。何もしかして君、ソレ拾うの?」

「〜〜〜〜っっ!!あったり前でしょーがっっ!!死に掛けてんだよこの子!!」





そんな、飄々としたひとつの声と。

喧騒にも似た、もうひとつの声だった。










 





 













・・・・・・よもやこの子にまで捏造入るとは・・・・・・
 





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