――――――慣れ、ってモンは恐ろしい。 くるりと手の中で回転させた苦無を放つ。 ソレは吸い込まれる様に敵の額にさっくり刺さった。 ――――――アレだけ、会いたい会いたい連呼してた私なのに。 飛んできた手裏剣を跳んで避け、千本を暗闇の中に投げ付ければ。呻きと何かが倒れる音がして。 抜き放った忍刀――――――そう、『双牙』でなく、タダの忍刀を。目の前の相手の腹に埋め、返す刀で背後の奴の腕を、斬り落とす。 しばらく会えない日が続いたら、ソレが日常になってしまった――――――あの子に会いに行く日常が、人を殺す日常へと。 周囲の生き物の気配が無くなって。ようやく私は、動きを止めて。自分の手を、見下ろす。 血と脂でぎとぎとで、ソレ等が体温に温められて異臭を放つ、自分の手を。 「・・・・・・会いたくっても、コレじゃ会いに行けないよー、ね」 こんな汚い手じゃ、あの子に触れない。 こんな腐臭の纏わり付く身体じゃ、あの子のトコロに行けない。 ――――――こんな弱った自分の顔、見せられない。あの子に。 「おや、もう終わってしまったのかい?」 「・・・・・・・・・・・・もうって何さもうって20分以上も前からソコにいてずっと見てたクセに」 「いやぁ、勝手に手を出すのも如何か、と思ってね」 「別にいーよ出してくれてってゆーか高見の見物するくらいなら手ぇ貸そーよ是非に」 「出そうとは思ったよ?あの程度の輩に、君が手古摺る様だったら」 ・・・・・・ソレって手ぇ出す気なんてゼンッゼン無かったって事ですかっ。なんて性悪なっっ。 コッチは1人忙しく仕事してるってのに、頭の上で見物なんてされてたらこんちくせうってなるでしょーがっっ。 せっかく私シリアスモード入ってたのにっっ!! 「・・・・・・・・・・・・で。何でココにいんの風主」 「うん?そりゃあ、君に会いにさ」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ホントのトコは?」 「ホントだって。・・・・・・まあ、任務先が近かった、事もあるけどね」 くすくすと零しながら、ふありと私の前に降り立ったのは藤色の。目も髪も着物すらが藤色の青年。 「・・・・・・・・・・・・って、ナニそのカッコ・・・・・・・・・・・・」 「そりゃあ、僕も今は『影』だから、ねぇ」 だからって揃えたのかもしかして。着物揃えたのかアンタ達まぢで。 思わずでっかい溜息吐いた私に、風主は楽しそーに笑って。 だけど、その顔はすぐに真剣に、まっすぐ私の顔を、見る。 「――――――ああ。の言っていた通りだ、ね・・・・・・大丈夫、かい?」 「・・・・・・・・・・・・何、が?」 「追い付いてないって、言っていた・・・・・・大丈夫、なのかい?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぢつはちょっと、ヤバい」 何がヤバいって、私の体調。 弱ってます。疲れが出てきてます――――――耐えられなく、なってきています。 今日の仕事なんか、ソレがものごっつい出てる。 『』、ならココまで汚れる戦い方は、しない。 『』、でもあの紫を穢す様な戦い方など、しない。 『カカシ』、だって。いくら普通の暗部に毛が生えた程度の実力を設定したとはいえ、ココまで雑じゃ、ない。 『私』の力を扱うには、『カカシの身体』は未だ未発達だ。 だから掛かる。負荷が。 なのにその負荷を、抱えきれなくなってきて、る。 「・・・・・・・・・・・・壊れる、ワケには。いかないんだけど、ね」 新しい身体探すにしても、死産確定の胎児、なんてそう簡単に見つけられるかと言ったら、答えはNOだし。 おしめ生活、やり直すのもイヤだし。ソレに15年ちょっとこの『身体』で過ごしてきた。愛着だって湧いてる。 何より『カカシ』は、あの子に近い。そう簡単に捨てられると思うかこのポジション。いや思うな。 「とも話したんだけど、ね。明日にでも、3代目に休暇を入れる様直談判しに行くつもりなんだ」 「あー。イイねーソレ」 「その時に君の休暇ももぎ取って来るから、ソレまで頑張れるかい?」 「・・・・・・・・・・・・ん。がんば――――――」 ぽんぽん、と頭を撫でながら私の顔を覗き込んできた風主に頷こうとして。 だけどソレに。気が付いてしまって言葉を切った。 「――――――ソコにいるのは、誰」 私の呟きに。鋭く目を眇めた風主の視線の先で、確かに反応したのは。 暗い茂みの中で息を殺した――――――弱々しい、小さな命の気配。 |
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おねにーさまだって不眠不休は疲れるんです。 | ||
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