「――――――さて、と。」 私は、きゅ、と着けていた手袋を引っ張って。 視界の端で旋回する、鳥の姿を一瞥した後駆け出した。 ――――――身に着けるのは、もう二度と着る事は無いだろう、と思ってた振袖。 動き易く改造して、原型も失くした暗部服の上に、羽織った鮮やかな紫色の。 私はミナト兄ぃの『私兵』だったから。 暗部じゃない、4代目火影の『影』だったから。 普通の暗部服を着る必要なんて無かったんだよ。 ミナト兄ぃが、私の実力を見抜くのは早かった。 自分よりも私の方が遥かに強い事を知るのは早かった。 だけどミナト兄ぃは何も聞いて来なかった。 知りたいだろうに。そっとしておいてくれた。 だから私から話した。 『生まれる前の、前世の記憶があります』 『前世でも忍者やってました』 この、ふたつを。 ミナト兄ぃは驚いて。それから私をぎゅーっと抱き締めて。 ありがとう――――――そう、言った。 話してくれてありがとう。僕を信じてくれて、ありがとう、て。 ソレからだ。 私がミナト兄ぃの『私兵』になったのは。 木の葉に舞い込んでくる依頼は、それはそれはもう、色んなモノがあった。 下忍が請け負うしょっぼいモノから、中忍上忍が請け負うソコソコのモノ。 暗部が請け負う暗殺に、ビンゴブックに載った抜け忍の始末とか、暗部であっても難易度の高いモノまで。 難易度の高い、S級任務なんて割り振れる忍は限られてる。 中には火影直々に出向かないといけない様なモノも、あったりして。 だから私、立候補したんだよね。 その任務、私がやってくるよ、って。 最初はすんごい反対してたミナト兄ぃだけど。押して引いて泣き落としまでして、無理矢理依頼書をゲットしました。 そしてサクッと片してやった。 あっけらかん、と無傷で帰ってきた私に、予想通りミナト兄ぃはあんぐりして。 次のオシゴトはー?なんて聞いてみたら、ハッと我に返っていやいやありがとでももーいーから。なんて返してくれちゃって。 そして再び、押して引いて泣き落とし。 そんなやり取りを何回もやって、とうとう諦めたのはミナト兄ぃの方。 私に、鮮やかな紫色の振袖渡して、こう言った。 「この着物を羽織って行って。――――――汚さず、破らず帰って来られる間は、もう何も言わないから」 思えばコレ、苦肉の策だったんだろうな。 ミナト兄ぃは、速攻で汚すなり破るなりして欲しかったんだろう。 だけど私は毎度毎度。 鮮やかな着物が鮮やかなままで帰って来た。 そんな私の夜の姿が。噂される様になるのも早かった。 白い能面に紫の、艶やかな着物を羽織った4代目の『影』。 誰も正体を知らない。4代目しか、知らない。 暗部にも何処にも属さない。4代目火影だけの、『私兵』。 その通りだ。私はミナト兄ぃだけの忍。 例え忍者でも、子供は子供らしく在るべきだよ、と。そう言ってくれたミナト兄ぃの。 片鱗だけど。私を受け入れて愛してくれたミナト兄ぃだけの。 だけど今日。コレを着たのは。 ミナト兄ぃから貰った、紫の着物に再び腕を通したのは。 「――――――お初にお目に掛かります。3代目火影殿」 「・・・・・・お主、は・・・・・・まさか」 「ご存じでしたらば何より。早速ですが――――――私にご用命は、ありませんか?」 にっこりと。被っていた白い面を横にずらして。 変化した、過去の自分の姿で声で、訊ねる。 ミナト兄ぃが命を掛けて守った里。 そして、愛しい愛しいあの子が生きるこの里を。今度は私が、守る為だ。 |
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おねにーさまは暗部じゃありません。 | ||
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