「・・・・・・ん、だよ・・・・・・ソレ・・・・・・?」

見下ろした先。お坊ちゃんの目は大きく見開かれて。

「・・・・・・アッシュじゃ、ねぇ・・・・・・?異世界、の人間・・・・・・?」

首を絞めるあたしの腕を、引き剥がそうともがいていた手から、力が抜ける。

「・・・・・・意味、解んねぇよ・・・・・・!!」





――――――・・・・・・・・・・・・そーだろーね。

こんなマユツバ、イキナリ信じろってのは、ふつー無理だ。

ソレでも。





「理解不能だろうが何だろうが事実だ――――――俺は、アッシュじゃない」

「・・・・・・けど・・・・・・っっ!!だったらっ、何で!!お前俺と、同じ顔・・・・・・!!」

ふ、ん。ソコですか疑問は。

「この身体は、『アッシュ』のもの・・・・・・だけど中身が。魂が、違う」

「・・・・・・・・・・・・たま、しい・・・・・・・・・・・・?」

「俺にはちゃんと『俺』の身体があった。なのにソコから中身だけ引き摺り出された。そして中身だけ、この身体に入れられた」





だからあたしは『アッシュ』じゃない。

7年間、『アッシュ』と呼ばれ『アッシュ』として生きてきたけれど。

たったソレだけで、あたしが『あたし』でなくなるハズが、ない。





お坊ちゃんが、ギリ、と唇を噛む。

「・・・・・・じゃあ、本物のアッシュは。ドコいったんだ」

そんなの、あたしの方こそ知りたい。

「ローレライ・・・・・・てめぇアッシュをどうした!!一体何をやったんだ!!」

怒鳴り上げた、視線の先は揺れる人型。





――――――『灰』は、消えた――――――





お坊ちゃんの声に、ほろり、と人型の思念が零す。

――――――回復など、見込めぬ程に。弱っていたのは、好都合だった――――――

お坊ちゃんから人型へ。向け直した視線。

――――――彼れは我が愛し子を蝕む。喰い荒らし、侵し殺す――――――

人型は淡々と。何でもない事の様に淡々と。

――――――故に。我が、消した――――――

ひゅ、と。掌の下でお坊ちゃんの喉が息を呑んだ。





・・・・・・・・・・・・ソレは、アレか。

「大爆発現象、か」

ぽつり、と漏らしたら。視界の端で死神さんがハッと顔を上げた。





「ディスト、何ですか大爆発現象って」

導師の質問に、死神さんは苦々しい顔をする。

「・・・・・・完全同位体の被験体と複製の間で起こる現象です」





複製の情報を回収しようとして、被験体が音素乖離を起こした上に。

コンタミネーション現象によって複製が被験体として再構成されて。

被験体と複製、両方の記憶が残る・・・・・・要は『アッシュ』と『ルーク』がひとつになる、てヤツ。





成り行きを見守っていた誰もが。息を呑んだ。

お坊ちゃんが、あたしの腕を掴む手に再び力を込める。





ああ確かに言い得て妙だ。

『アッシュ』はお坊ちゃんを殺す。

蝕んで喰らって侵して、最後にはお坊ちゃんを死に繋げるんだろうよ。





だから、殺される前に。殺したと。そう言うのか。

人から『化け物』と呼ばれていた『アッシュ』の完全同位体であるあんたが。

他でもない、『アッシュ』の唯一の同胞だったあんたが。

――――――・・・・・・・・・・・・そう言うのかローレライ!!





「・・・・・・・・・・・・だったら、何で。何で俺を『アッシュ』にした」

ぐつぐつと。腹の中で煮え滾る様な感情を抑え込んで。

「死んで欲しかったんだろう『アッシュ』に――――――だったら何で、俺を無理矢理この身体に縛り付けた。この身体を、生かそうとした」

低く低く、声を落として。あたしは視線に力を込める。





――――――代わりに、する為だ――――――

震えた。目に見えて解るくらいに。お坊ちゃんの首を掴むあたしの、腕が。

――――――愛し子を預言から逸脱させる為。詠まれた死を其の器に被せる為――――――

するり。あたしの腕からお坊ちゃんの手が落ちる。

――――――故に、其の器は。器、だけは。時来るまで、生きていなければ、ならなかった――――――

視線を落とした先のお坊ちゃんの顔は。人形みたいに感情が、無かった。

――――――彼れ以外の。其の器に収まり生かす魂であれば、何でも良かったのだ――――――





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もう、良い。

あんたが『アッシュ』の事を、あんたの大事な大事なお坊ちゃんを守る為の道具としか見てない事は、良く解った。

だったら、あたしも?――――――当然、あたし、も。





「・・・・・・・・・・・・俺の、身体は」

――――――魂無き器は生きるに当わず。あの日あの時、土へと還った――――――





予想通りの、返答。

あたしは、お坊ちゃんの首を掴んでいた腕から、完全に。力を抜いた。






























音素集合体にとって、自分の同位体はお坊ちゃんのみ。






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