――――――・・・・・・・・・・・・フザケんな。

ふざけんなふざけんなふざけんなふざけんな!!!!





ぎり、とあたしは手に力を込める。

掴んだ箇所。剣術ではなく剣舞を習っていただろうお貴族サマの、折れそうなほどに細い首。

「・・・・・・かっ、は・・・・・・っっ、ッシュ・・・・・・っっ!?」

気管が圧迫されて狭まって。ひゅーひゅーと変な呼吸音を吐き出す、お坊ちゃんの口。





耳鳴りも揺れも吐き気も吹き飛んだ。

「アッシュ!?お前っ、何を!!」

後ろから、剣を抜く音走り出す音。





あたしは、倒れた拍子に手から零れ落ちた。お坊ちゃんの持ってた鍵を掴む。

そして、ソレをお坊ちゃんの首の真横に、がきんっと突き立てて。





「誰も、何もするなよ――――――コイツを殺されたくなかったら」





脅しは、最大限の効果を発揮した。

何故ならあたしの声は、明らかに本気だったから。





固まった空気の中、ほんの少し首を絞める力を緩める。

ソレでも、イキナリ量の増した酸素に咽て、お坊ちゃんは涙目になりながら咳をした。

「・・・・・・あ、ッシュ・・・・・・なんっ、で・・・・・・っっ!?」

何で?ソレはあたしが聞きたい。

なんで、ソコまで。全くカンケーのないあたしがソコまでしにゃならんのだ。





「――――――何かを得る為には、同等の何かを手放す」





お坊ちゃんの首を掴んだまま。

あたしは据わった目で人型を睨む。





「多くても少なくてもダメ。願いを叶える為には、それ相応の対価を支払わないといけないんだ」





首に押し付けた剣の刃を、微妙に傾ける。

ほんの少し切れて流れた血に、緊張が走って空気に混じった。





「あんたは何を手放した。被験者の代わりに俺を無理矢理連れて来て。俺から家族も友達も生活も、俺自身すら全部奪うだけ奪って」





刺さる視線。刺さる、殺気。

だけどそんなのにあたしの心は揺らがない。罪悪感すら感じない。





「挙句にゃ自分の大切な子供の為に死ねってか?はっ、人様から奪ってばっかで自分は何もせずに。あんたは一体何を対価に支払ったんだ」





人型が。瞠目、した様な気がした。

――――――汝は・・・・・・何故、心が。確かに、封じた筈ぞ――――――

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そーかあの呪縛にゃそんな効果もあったんか。

赦し難いね。余計に。ええもう。





「俺がこの7年、何もしなかったと思うか?」





試せる事は全部試した。

エーテルにアーグ。召喚術。契約者に『舞扇』えとせとら。

全ては。戻る為に。あたしが、還る、為に。





「俺は充分以上に対価を支払った。知りもしないヤツの為に俺とは何の関わりも無い事で支払う意味も見出せない対価をソレでも!!さあロー

レライ!!あんたが俺に掛けた呪縛を解け!!『アッシュ』を戻せ!!『俺』を返せ!!・・・・・・でないと本当にこいつ殺すぞ」





ぐ、と。更にお坊ちゃんの首筋に、突き付けた剣先に力を込める。

揺れる人型は動かない。ただただじっと。静かにあたしの視線を受け止めるだけ。





「・・・・・・っ、ど、いう、事だよっ、ソレ・・・・・・っ!?」





掌の下の、喉が震えた。

ふ、と見下ろせば。

「・・・・・・『アッシュ』を、戻せ、って・・・・・・『俺』を返せって、どういう、事だよ、アッシュ・・・・・・!!」

痛みと恐怖と困惑と。

苦しそうに眉をひそめて、お坊ちゃんがあたしを見上げていた。





――――――・・・・・・・・・・・・ああ。そうだったね。この子は、何も知らなかったんだね。

「――――――なら。改めて自己紹介しようか」

頭に血が昇って、忘れてた。

「俺は・・・・・・・・・・・・ 

この子が、悪いワケじゃないんだ。





「7年前、ソコの阿呆に無理矢理連れ去られてきて無理矢理『アッシュ』にされた、異世界の人間だ」





あたしの言葉を。平然と聞いていたのは、揺れる人型だけだった。






























とーとーおねにーさま暴露です。






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