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ざくり、と。剣が床に突き刺される。 ソコを、中心に。淡い光が、譜陣を描いた。 「――――――音素が・・・・・・集束していく・・・・・・・・・・・・!!」 第7音素術師であるティアが、お坊ちゃんに視線を固定したまま呟く。 ・・・・・・・・・・・・うん。あたしにも、解る。 集まって、固まって。形を成そうとする、第7音素が。 記憶粒子が、舞い、踊り、爆ぜる。 キラキラと。光を反射する冷えた空気の塵芥の様な、目に見える程の音素の流れが発ち昇る。 ――――――そして。その中から。 ゆらり、と陽炎の様に。人の影の形をとったのは。 「――――――・・・・・・・・・・・・第7音素集合体、ローレライ・・・・・・・・・・・・!!」 「・・・・・・・・・・・・アレ、が・・・・・・・・・・・・!?」 「・・・・・・・・・・・・まさか、この目で実物を見る事になるなんて・・・・・・・・・・・・」 死神さんが少将さんがイオンが。驚きに支配されながら凝視する先で、ゆらり、と揺れる。 ソレを。あたしは見据えて――――――ただ、見据えて。 ――――――感謝する、愛し子よ―――――― 一際大きく響いた『声』。 心の底からお坊ちゃんが慕わしいと。愛しいと。そんな、滲み出る様な。 ソレに。ぐらり、と視界が歪んだ。 頭が揺れる。耳鳴りが酷い・・・・・・気持ち、悪い。 皆ほどでは無いにしても、それでもやっぱり驚いてるお坊ちゃんの周りを。光の影はくるりと1度廻って。 立ち昇る。昇って行こうと、する。キラキラと光りを撒き散らかして。 音譜帯。そう、音譜帯に。1度昇れば、恐らくもう2度と相見える事なんか出来ないだろう、高見へ。 この地に落とされこの器に縛り付けられたあたしが、多分一生、行けない場所へ。 ――――――させる、ものか。 「――――――・・・・・・・・・・・・待って、下さい。ローレライ」 膝に手を着いて。片足を立てて。ぐ、と力を込める。 「アッシュ!?」 慌てて横から出された使用人さんの手を叩き落とし。 「・・・・・・・・・・・・音譜帯へ、上がる前に。貴方に、お願いが、あります」 立ち上がろうとして。でも、よろけて。 「アッシュ!?・・・・・・っ、貴方何でこんなに軽いんですか!?」 倒れそうになったあたしを咄嗟に抱えた、死神さんががなり立てる。 あたしは揺れる頭を押さえながら。ひたり、と人型を見据えた。 宙に留まって振り向いたソレは、あたしを見る。 ――――――目など無いのに、冷たく睥睨している、と解るのは。その雰囲気の所為だろうか。 お坊ちゃんに向けた『声』とは全く違う、心からの、嫌悪を感じるのは。 ――――――何用か、燃滓―――――― ・・・・・・・・・・・・しかも、もえかす、ですか。 コイツにとって、あたしは・・・・・・『アッシュ』は。 ゴミにも等しい、存在だと、そういう事かソレは。 ぐっ、と拳を握り込む。 「・・・・・・・・・・・・私を、解放して、下さい」 あたしを抱えていた死神さんの腕を振り解き、震える脚に、力を込めて。 「貴方の、呪縛から。私を。解放、して、下さい」 ずる、と。引き摺りながらも一歩、進み出た。 ――――――其れは出来ぬ―――――― だけど、なんの音の変化も無く返された声に。 かちん、とキた。 「・・・・・・・・・・・・何故、ですか。貴方、の。望みは、叶えられた――――――私は、もう。必要無い、筈だ」 ――――――否、出来ぬ。汝を今、解放する事はならぬ―――――― 「・・・・・・・・・・・・瘴気、問題、ですか。今、命を失う、のも。瘴気に、よって。死ぬのも、同じだ、とでも?」 ――――――肯。故に、今汝を解放する事は出来ぬ―――――― ずるり、ずる。よろめきながら。揺れながら。一歩一歩、足を引き摺りながら。 ぎゅ、と唇を、噛む。廻る。まわる視界。ローレライの声が、響くたびに。 「アッシュ!!大丈夫かよ、おい!?」 ぐらり。バランスの崩れたあたしを、前から腕を伸ばしてお坊ちゃんが抱きかかえた。 あたしは、その。目の前で広がった、長い長い髪をひと房、軽く掴み。 「・・・・・・・・・・・・貴方、の。言い分、は、良く、解りま、した――――――ふざけんのも大概にしろよ、ローレライ」 その一瞬後、景気良くお坊ちゃんを地面に叩き付けた。 |
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とーとー出たよ諸悪の根源!! | ||
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