耳鳴りは、音に無らない声を伝える。

揺さぶられる衝撃は、言葉よりも鮮明な意志を。





――――――開放せよ――――――

――――――我を、解放、せよ――――――





・・・・・・・・・・・・そうだった。ついうっかりしていた。

ココはラジエイトゲート。星を巡り大地に戻った音素が、再び空へと昇る、場所。

アイツに、最も近い、場所。





――――――我が分け身 我が愛し子よ――――――





片手で頭を押さえる。

揺れて回る視界、込み上げてくる吐き気。

まるで、車酔いしたみたいな。





「アッシュ!!大丈夫ですか、アッシュ!?」

がしり、と。腕を取られる感触に。目を上げて見ればすぐ傍にアリエッタがいて。

「・・・・・・・・・・・・貧血、怪我、体力の限界、術の使用過多による消耗。ドレでも無いですね」

あたしの傍らに膝を着いたイオンが、そっとあたしを覗き込んでる。





「ルーク様!!今、回復術を・・・・・・!!」

離れたトコロで、ティアの焦った声が聞こえる。

「・・・・・・っ、いや、良い・・・・・・」

ソレを止めた、小さな声はお坊ちゃんだ。





「ですが・・・・・・!!」

「・・・・・・大丈夫だ、ティア。今のは――――――ローレライからの通信だ」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やっぱり。





ぐわんぐわん廻る頭の中で思う。

お坊ちゃんの方はもう何でもなかったみたいに立ち上がってる・・・・・・なのになんであたしは未だにぐるぐる吐き気が収まんないんだ。

贔屓か。贔屓なのかあんの某音素集合体め。





「・・・・・・・・・・・・アッシュ」

よろり、と。使用人さんに支えられながら、お坊ちゃんがあたしに近付いてくる。

「お前にも、聞こえたんだ、な」

その、手には。光る宝玉を埋め込まれた両刃の剣、が。





――――――ローレライの、鍵。が。

完全な、形で。





どうして、と。浮かんだ疑問は直ぐに四散した。

シャッフルされる脳みそはいよいよ我慢ならなくて、あたしは咄嗟に口元を手で覆う。

さっきからずっと。バカのひとつ覚えみたいに。くり返しくり返し。





――――――解放せよ――――――





「大丈夫ですかアッシュ響士っ?・・・・・・すいませんっ、触りますよ!・・・・・・っっ!?」

少将さんが、ぐらりと傾いだあたしの身体を支えて。

「アッシュ、パナシーアボトルです。飲めますか?」

死神さんが、薬の入った小瓶を出してくる。





男の人に、触られて。でも気にならないなんて随分とヒサシブリ。

気になる以前にすでに吐きそうなんだから、当たり前かもだけど・・・・・・うっぷ。

しかもこの状態で飲み薬。飲めると思うんですか思うなよ。





――――――我を――――――





だあああっっ。もーうっとーしいっ。

オタクがしゃべるたんびに脳みそ揺れんのっ。ちったぁ黙れやをいっ。





「だあああっっ!!うっとーしいっ!!」





・・・・・・・・・・・・あれ。なんか被った。

ぐるぐるする視線を無理矢理上げたら、なんか髪の毛掻き毟ってますお坊ちゃん。





「わーったよ解放するよすりゃーいーんだろっっ!!」





・・・・・・・・・・・・ああ。お坊ちゃんにも、まだ聞こえてんのかこの『声』。

――――――・・・・・・・・・・・・なのにこの差ってコレ如何に。





肩を怒らせてどしどしと部屋の中心へ歩くお坊ちゃんの背中を眺めながら。

あたしはやっぱり贔屓かと、ちょっとグレそーになった。





ぅえっ、っぷ。






























完全同位体の間で起こる同調フォンスロット。

お坊ちゃんが軽いのにおねにーさまがヒドイのは、贔屓です。

ウチの第7音素集合体はお坊ちゃん溺愛ですから。






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