「――――――来たか、アッシュ」





ラジエイトゲートの底の底。

吹き上がる記憶粒子を壁に、広く取られた部屋(?)の中。

お坊ちゃんでも無くイオンでも無く、ヒゲはあたしを見てそう言った。

・・・・・・・・・・・・てゆーかナゼあたし。さらに言うなら何故座禅。





「お前が此処に辿り着いたという事は――――――リグレットとラルゴは、死んだか」

「いえ死んでません」





感慨深げなトコ雰囲気ぶち壊す様で申し訳ありませんが。

あの2人ならあのまま放置してきました。

霜焼けくらいにはなってるだろうけど、完全氷漬けじゃないから生きてます。





そんなあたしの簡潔な返事に、ヒゲは器用に眉をはね上げ。

「ほう・・・・・・捕えた、というのか。あの2人を・・・・・・矢張り、お前は――――――素晴らしい」

・・・・・・・・・・・・うん。何かなその手。なんであたしに向けられてんのかな。

「私の元へ来い、アッシュ。私にはお前が必要だ――――――私と2人で、この預言に支配された愚かな世界を正そうではないか」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ナニこの人まだ勧誘すんのこの期に及んで。





あたしはでっかく溜息を吐き出した。

「・・・・・・・・・・・・リグレットにも言ったんですがね、総長。預言が人を支配している訳では無い。人が、預言に依存しているんです」

依存と支配を履き違えるなっての。





笑みを浮かべていたヒゲの口元がだんだん硬くなっていく。

あたしに差し伸べられていた手は、ゆるゆると下がって。





「そして世界はただ。人の意向などとは無縁に、ただ。過ぎ行くままに在るだけで、愚かなどでは無い」

人は世界のたったの一部。人間だけが、この世界に生きているワケじゃない。

現に、鳥や獣や魔物は、預言を必要としているかい?してないでしょう?

「貴方の見る世界が世界の全てとは限らない――――――世界を愚かというなら、そう思う心こそが、愚かでしょう」





ソレが、決定打。

望みなんてないくらい、違うヒゲとあたしの、考え。





ヒゲの腕が、ぱたりと完全に落ちた。

「――――――そうか」

目を閉じて、嘆息する様にひとつ、ふう、と息を落として。

「だが私は止まらん!!私の望んだ、世界の為に!!」

次の瞬間には、腰に佩いていた剣を、抜き放った。





――――――・・・・・・・・・・・・うーわーあ。やっぱりそーきますか。





あたしを抜いて躍り出た少将さんが使用人さんが、同じ様に剣を抜く。

後ろから聞こえるのはティアとアリエッタの詠唱。

・・・・・・・・・・・・ヤる気満々ですね皆さん。





ふ、と。小さく溜息吐いて視線を横にしたら・・・・・・・・・・・・うんどーしてイオン様やお坊ちゃんまで前線に。

ああそーいやダアト式譜術って確か体術取り入れてんだよね・・・・・・って。もしかしてこのお方達・・・・・・た、戦う気ですか?





ちょちょちょちょっと待って待った待った!!

オタク導師!!ダアトの最高位!!今はアイビィが導師やってるけどオタク元祖導師!!

アンタもアンタだお坊ちゃん!!王族がそーぽこぽこ前線に立つモンじゃないの!!





「お下がり下さい導師イオン、ルーク様」

言いながら、けど素直に聞いてくれなさそーなので2人の首根っこ掴んでずーるずーる後ろに引き摺る。

「ぐ、えっ!?」

「なっ、にするんですかアッシュ!?」

ええいウルサイ。





「上に立つ人間は、守られるのが仕事です。お下がり下さい」

「「だけど!!」」

「お・さ・が・り・く・だ・さ・い。」

「「・・・・・・・・・・・・はい・・・・・・・・・・・・」」





コレで聞かなきゃ実力行使、とばかりにしゃきんっ、と『舞扇』広げたら2人ともすごすごと下がってくれました。

ふっ。勝った。





あたしはくるりとヒゲに向き直る。

あたしの得物が剣でなく鉄扇な事に驚くでもなく、ヒゲはひそりと静かに、だけど大きな闘志を滾らせて。

――――――面倒だけど、やりますか。





あ。その前に。





「導師イオン、お願いがあるのですが」

「え。お願い、ですか?」

「はい――――――このゴタゴタが片付いたら。有休頂けますか。1週間程」





のほほーん、と聞いたあたしに。

皆さんズルッと肩を落としました。






























とーとーきましたラスボス戦。






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