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顔の傷の話が、何だかビミョーな雲行きになってきて。 話題変えたいなぁ、と思ってたら。少将さんが先に振ってきた。 「あの、アッシュ響士。アッシュ響士は、コレからどうなさるんですか?」 「・・・・・・コレから、ですか?」 「ご両親が、生家が。判明したでしょう?戻られるのですか?」 ・・・・・・・・・・・・うん。コレまたビミョーな話を振ってきたね。 「――――――私は、信託の盾騎士団所属の兵士ですから。ダアトに、戻ります」 ハッキリ言わせてもらいませう。あたしの今のおうちは教団です。 「脱退、する気はないのか?」 だけど、横から使用人さんの横槍が入ってきた。 「旦那様も奥様も、ルークだってお前さんに戻ってきて欲しいって思ってる」 かろん、と。ブランデーと氷の入ったグラスを手の中で回しながら。 「バチカルに、この屋敷に。帰ってくる気は、ないのかい?」 ・・・・・・・・・・・・うん。なんでこー、お坊ちゃんといい使用人さんといい。 あたしがココにいる事を望んでんだろーね。 「ファブレ公爵様の事、お嫌いですか?」 赤ワインの入ったグラスを、かたん、と机の上に置きながら訊ねる少将さんに、ふるりと首を横にひと振り。 「・・・・・・・・・・・・いいえ、嫌いではありませんよ」 興味も無いけどね。 「奥様の事は、どう思う?」 伺う使用人さんには小さく苦笑して。 「・・・・・・・・・・・・お優しい、方だと思います」 ただ、優しいだけな気もするけど。 「――――――では、ルーク様の事は?」 手にしたグラスに、再びワインが注がれた。少将さんから。 「・・・・・・・・・・・・国を背負い導く指導者に、在れ程相応しい方もいらっしゃらないかと」 まだ若いけどね。公爵家の跡取りとしても次期国王としても。申し分ないと思うよあの子なら。 あたしの言葉に、使用人さんは、ふう、と溜息を吐いた。 「・・・・・・・・・・・・嫌いじゃないなら、如何して拒むんだ」 困った様にひそめられた眉。 「お前さんは、憶えてないから受け入れられないって言うが・・・・・・それでもあの方達は、間違い無くお前さんの家族だ」 その、眉の下の。青い目は理解できない、て物語っていて 「お前さんの・・・・・・家族、なんだよ。アッシュ」 ――――――うん。 うん。そうだねガイ。あの人達は家族だ。 『アッシュ』の、家族だ。 「・・・・・・・・・・・・其れでも。私は思わない。あの方々を、自分の家族とは――――――思え、ない」 あの人達だって。ホントの事を知ったら。 あたしが『あたし』だと知ったら。『アッシュ』じゃないと知ったら。 ――――――あたしが、『アッシュ』を殺したんだと、解ったら。 手元の、グラスの中の液体をじっと見る。 あたしが唯一とーさんと呼ぶのは、『あたし』のとーさんで。 唯一かーさんと呼ぶのは、『あたし』のかーさんで。 唯1人の弟は、『あたし』がいつも名前の頭ひと文字だけを伸ばして、よー、と呼んでたアイツだけで。 ・・・・・・・・・・・・今では、もう。二度と会う事は出来ないだろう、人達だけで。 笑って。幸せに、暮らしていれば良いと思う。 たとえ、ソコにあたしがいなくても。いない事に、気が付かなくても。 あたしの存在が消えた世界で――――――あたしの存在を、消した世界で。 あたしを、忘れたままで。 「――――――血の繋がりに、どれ程の意味があるのでしょうね」 今、あたしが家族と呼ぶのは、水主達。 そして、だけだ。 「親を殺した子供を知っています。親に捨てられた子供や、売られた子供だって。知っています」 かろん、と。使用人さんの持つグラスの中で、氷が音を立てた。 「孤児を拾って育てている人も知っています。本当の親子よりも親子らしい人達も、知っています」 じ、と。あたしを見詰める少将さんの視線を、感じる。 家族、なんて。血が繋がってるからとかDNA一致とか、いやソレも大事な要素のひとつかもしれないけど。 だけど、ソレだけで断言なんて、出来ないと思うんだよ。 一緒に過ごしてきた時間とか、環境とか、情とか。そんなのも、大切なんだよ。 ・・・・・・・・・・・・今のあたしは置かれた立場が複雑怪奇過ぎるんで、ソレすら突っぱねさせて頂きますが。 だから。 「血の繋がりに、どれ程の意味があるのでしょうね」 |
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おねにーさまの血の繋がったご家族は、ぢつはおねにーさまに関する記憶全部忘れてます。 ご家族だけじゃなく、友達とか仕事先の同僚とか。おねにーさまの事知ってる人全員。おねにーさまが存在していた事のすべて、抹消です。 コレは元々おねにーさまとして生まれる前に、『』が施した術。 事故に遭って死にかけなんかにならなくても、いつかきっとおねにーさまは覚醒してしまうだろうから。 残される人が悲しむ事を知っているが故に、残す者そのものを消し去りました。 |
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