その日は、みんな一度休息を取りませう、て事で。

やっぱりというか何というか。公爵家に泊まる事になった。





・・・・・・いえね、報告の為に先にダアト戻りますよ、とか言ったんだけどねあたし。

鳩飛ばしたから大丈夫、てどキッパリ却下された。

しかも、コレも報告だから、て公爵サマと公爵夫人の前にやっぱりアッシュが被験者だったーてお坊ちゃんに引っ張り出された。

更にはその時に、仮面引っぺがされた・・・・・・・・・・・・うん。コレで誤魔化しは出来なくなったワケです。





あたしの、親なんて覚えてなきゃあかの他人も同然だ宣言をある程度聞いてたのか、公爵サマも夫人も複雑な顔してました。

記憶が無くとも貴方は確かに私達の子供だ、とか言われたけどね。

んで、夫人にはぎゅーとかされたけどね。





「・・・・・・申し訳ありません・・・・・・其れでも、私は貴方方を父上母上とお呼びする事は・・・・・・出来ません」





だってあたしホントにアナタ達の子供じゃない・・・・・・身体は確かにアナタ達から生まれたモノだけど。

むしろこの人達の一人息子を殺したかもしんない可能性が大だ。

この身体の中に、本来いるハズだった『アッシュ』の魂を追い出して。あたしが、乗っ取っちゃったかもしれないんだから。





その時の空気ったらなかったよホント。





公爵サマは「・・・・・・そうか・・・・・・」て項垂れるし。

お坊ちゃんは「なんで、んな事言うんだよ・・・・・・!!」て怒るし。

夫人は「・・・・・・私達の方こそ、ごめんなさいね・・・・・・今まで助けてあげられなくて・・・・・・」て泣くし。

ソレだけじゃない。

ギャラリーと化していた導師達やお屋敷警護の騎士達やメイドさん達から。非難とか哀願とかいろいろグサグサ視線が突き刺さった。

・・・・・・・・・・・・あたしにコレ以外のどんな反応をしろと。





そんなギクシャクした空気を引き摺ったまま晩餐が開かれて。

ギクシャクしたまんま夜は更けて。

ギクシャクした執事さんに客間に通されて。

――――――ソレで何故ナニどーして使用人さんと少将さんと一緒に酒飲むハメに。





「どうしたんだ、アッシュ?さっきから全然減ってないじゃないか」

あたしの持つグラスを見て使用人さんが言う。けど減ってなくて当然です。まだ2、3口しか飲んでないから。

「・・・・・・というか・・・・・・私はまだ未成年・・・・・・」

「ああ、そういえば・・・・・・落ち付いているから、つい忘れてました」

いやいやいやいや。忘れないで少将さん。あたし17。肉体年齢17歳だから。

「でも、飲んだ事無い、って事は無いよな?」

「・・・・・・・・・・・・ええ」

あります。エルとかサルバスとかに引き摺られて酒場出入りした事あります。しかも片手で収まらん回数。何度ツブされた事か。

「なら大丈夫ですね」

いえいえいえいえ。何が大丈夫なんですか少将さん。

「だな・・・・・・ほら、遠慮せずにぐいーっといけって。コレ結構年代物なんだぞ」

ああああ、使用人さん注ぎ足さないで下さい遠慮なんかしてませんから。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はあ。」

てゆーか年代物ってどーやってパチってきたんだアンタ。





進められて、渋々グラスを口に運ぶ。

赤ワインだというその液体は適度に冷やされて、だけどあたしは味が解らない。

でも目の前で使用人さんと少将さんがスイスイ飲んでるあたり、ホントにイイお酒みたいだ。二日酔いにはならなそうな。





「そういやさ、アッシュ。お前何で仮面なんて着けてるんだ?」

チーズをつまみながら、使用人さんがあたしを見た・・・・・・うん。また何かロクデモナイ事聞かれそうて思ったらなんて今更な。

「あ、私も気になってました。魔物討伐の折に負った傷を隠す為、と聞いた事はありますけど」

・・・・・・・・・・・・ソレもあるけど、お坊ちゃんと同じ顔隠す為、とは言えない。

「傷なんて無いよなあ?」

「無いですよねえ?」

いやいやそんな。じっくり見ないでくれますか。





あたしは、はふ、と息を吐いた。

「・・・・・・・・・・・・傷は、消えました。『エリキシル』で」

「『エリキシル』、か・・・・・・導師に渡したヤツだろ?確か、肉体を最良で正常の状態にする薬だって」

「アリエッタさんやアイビィさんに使用した、あの紅い薬ですよね」

2人の視線が訝しげに細められる。





そりゃそうだろうなぁ。2人はあの薬の効きの良さを知ってる。目の前で見たんだし。

何と言っても死にかけだった被験者イオンはアレのお陰でピンシャンしてるもんね。





だけどあたしは目が悪い。

最初は色が解らなくなっただけなのに、何時の間にかホントに視力も落ちた。

文字なんて、もはや眼鏡を掛けても見辛い。





「傷しか、消えませんでした」





あの時飲んだのは、コッチに来て初めて作ったヤツだから。だから効力が悪いのかな、とか思ってたけど。

だけど、本当に。色が戻って来る事はなかった。

毒にやられて味が無くなった時も。いちおーこっそり飲んだんだよ?しかもその時はポーチの中の限定品の方。でも、効かなかった。

ソレ以来。イロイロ身体にガタがきてても、無駄に消費されるだけだからって飲もうとも思わなかった。





「『エリキシル』を使って。其れでも私の目も味覚も、治らなかった」





はふ、と溜息混じりに言った先。

使用人さんと少将さんは、何だかしょっぱそうな顔をした。






























おねにーさまの持つ便利グッズ。

その中の薬品類は、何故か『アッシュ』になってから、おねにーさま自身には効き目が薄かったりまったく効かなかったり。






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