血相を変えた皆さんの中で、一番反応が早かったのはお坊ちゃんだった。

一番前を使用人さんと並んで歩いてたのに、イキナリくるっと方向転換してずかずかとあたしに向かってくる。





「・・・・・・お前っ、自分の事を如きなんて言うな!!命に高いも安いもねぇだろ!?」





しかもあたしの胸ぐら掴んで噛み付いてきた。

まあこの反応は予想してたから掴み上げてきた手を叩き落とすなんてしないけど。

・・・・・・誰か引き剥がしてくれないかな・・・・・・くれない、よな。うん。





オヒメサマも導師も、お坊ちゃんと同じ様な顔であたしを見てる。

少将さんも使用人さんも眉を顰めてて、シンクはなんかイラッとした感じだし。

アリエッタは人形、綿飛び出るんじゃないかってくらいめいっぱいぎゅうってしてるし。

ティアとアニスはなんか悲しそうだし。





あたしは、はふ、と溜息ひとつ。

確かにお坊ちゃんの言う通り、命に高いも安いも、無い。あたしだってそう思ってる。

――――――ただし。本当なら、という前置きが必要だけど。





「・・・・・・ソレが哀しいかな、あるんですよルーク様。人の世の仕組みには」





そう。後にも先にも、人、の世の仕組みにだけ。

一番強いモノが群れの長となる、シンプルな獣なんかの世界とは違って。

ややこしく複雑に、その上感情や慾なんかも折り重なって絡み合って。複雑に、確立された。





「規律と身分は重要視される。王族ならば尚更です。貴方は、ご自分の命が一兵士の命よりも貴いものだという自覚がありますか?」

静かに。諭す様に。ひたり、とお坊ちゃんの目を見据えた。

「・・・・・・っ、ソレを言うならお前こそ!!本物のルーク・フォン・ファブレはお前なんだから、お前の命だって貴いんじゃねーのかよ!?」

ぐ、と息を呑んだお坊ちゃんは、ソレでも果敢にあたしにモノ申してくる。





――――――てゆーか、この子。やっぱりまだ引き摺ってる。あたしに、負い目感じてる。

だから、奪った奪られた本物偽物って、気にすんなっつってんのに。

「――――――いいえ、ルーク様は貴方でしょう。私はアッシュ。ダアトは信託の盾騎士団に所属する、只の一兵士です」

「だからっ!!」

「昔がどうであろうが今の私は兵士です――――――申し上げた筈ですよ。私と貴方は違う、と」

個を見ない。ソレはあたしに対する侮辱だ。

そして、オタクがオタク自身を卑下するのと同意語だ。





昨日の事を引っ張り出して、にぃっこり、と笑って言ったら。お坊ちゃんは俯いてぎり、と唇を噛み締めた。

しかも、誰も動かず口を出さず。しん、と落ちる静寂。

・・・・・・・・・・・・うん。なんかヤだこの沈黙。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・で・・・・・・・・・・・・よ・・・・・・・・・・・・」

うん?何お坊ちゃん。

声小さくて聞こえなかった。

「・・・・・・・・・・・・なんで、そんな・・・・・・・・・・・・死んでも良い、みたいな言い方すんだよ・・・・・・・・・・・・!!」





――――――あ。爆発した。

て、ゆーか。えええ?そんなふうに捉えられてんの?

えー。今までのアレのドコが?・・・・・・まあ確かに笑えない冗談として言った事だってあるけども。





「・・・・・・・・・・・・いえ、別に死にたいとは思ってませんが・・・・・・・・・・・・」

「アレで?・・・・・・無理。信じらんないね絶対」

うをう横からチャチャ入れないでくれますか。てゆーか。

「・・・・・・・・・・・・はっきりと言い切りましたね、シンク謡士」

「・・・・・・アッシュ響士の今までの言動を振り返れば、当然だと思う」

ええええ??今ボソッと小さくアニスまで??

「・・・・・・・・・・・・しかも何故泣くんですか、ルーク様」

「なっ泣いてぬぇー!!」

いや泣いてる。泣いてるからソレ。





ババッ!!と手を離して目元ごしごしするお坊ちゃんに、あたしは溜息吐いてその頭をぽんぽん撫でる。

「――――――確かに私は生への執着が薄いのかもしれません・・・・・・が、自ら生を捨てる様な馬鹿馬鹿しい事をする気もありません」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ。何ですかお坊ちゃんそのぽけんとした顔は。

「・・・・・・本当ですよ?その為に、水主にもギリギリまで頑張って貰ったんですし」

ぽむぽむ、なでり。なんでかたまってんのかにゃー?





「・・・・・・あの、アッシュ響士・・・・・・私からも、ひとつ。質問宜しいですか?」

はいな。何でせう少将さん。

「・・・・・・その、貴方が水主と呼んでいるのは・・・・・・ワルター・デルクェス謡手の事、ですよね・・・・・・?・・・・・・彼は・・・・・・」

・・・・・・・・・・・・うをう。すっかり忘れてた。ポロッと出しちゃったよどおしよーう。





「・・・・・・・・・・・・水主は元々、魔物です。人型に化ける事の出来る、水の魔物」

渋々言ったら、皆さんすっ飛んだ。





でもコレはホントなのですよ。

ふつーの海蛇だったのに、なっがい時間掛けて大海蛇なんつーモンになって。

ソレからまたまたなっがい時間掛かって、魂の階梯昇って霊獣にまで昇化した。





「私が助け、私と契約を交わし、故郷の海を捨て私の力と成る事を誓った――――――私の、大切な使役獣です」





誇らしく愛おしく。あの、美しい水の生き物を思い浮かべながら。

あたしは、胸を張って高らかと宣言した。






























水主はおねにーさまに惚れ込んで、自分の世界捨てておねにーさまにくっ付いてきた霊獣。

ぢつはそんなヤツ等が全部で12体、おねにーさまと契約をかわしているゆーウラ設定アリ。

・・・どっかで出せれば・・・イイなぁ・・・






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