「俺は『ルーク・フォン・ファブレ』のレプリカ。『聖なる焔の光』を模して生み出された、複製品だ」





その、響きに。

あたしは、今まさに開けようとしていた目の前の扉のドアノブから、手を離した。





「本物の『聖なる焔の光』は。7年前、『栄光を掴む者』が攫った。今は『灰』と名付けられ、信託の盾騎士団に所属している、そう」





ぎゅ、と。その腕の袖を、小さな手が掴む。

見下ろせば、不安そうにあたしを見上げるアニスがいる。

あたしは小さく笑みを浮かべて、再びドアノブに手を掛けて。





「信託の盾騎士団、特務師団師団長。六神将『紅華』のアッシュ――――――本物の『聖なる焔の光』は今、そう、呼ばれている」





扉の向こうで朗々と。力強く。コレが、真実だと。そんな響きで。

ドアノブを掴む手が震えた。

知ってはいたけど。解ってはいたけど。実際に、こうもはっきり聞いてしまうと、何だか。





「・・・・・・そんな・・・・・・そんな事、預言には無いぞ!!焔が2人に分たれるなど・・・・・・!!」





市長さんらしき人の動揺の声に、あたしは目を閉じて、深く深く、息を吐いた。

よたつくあたしに肩を貸してくれていたアリエッタが、ぎゅっと腰に腕を回して抱き付いてくる。

ぽんぽん、とその頭を撫でてやれば、ほんの少しだけ力を緩めて。

あたしは今度こそ。めいいっぱい扉を開け放った。





驚いた皆さんの視線が、あたしに注がれる。

「――――――アッシュ!?お前っ、目ぇ覚めたのか!?」

うん他人の心配より自分の心配しなさいねお坊ちゃん。今おたくズラッと剣とか槍とかに囲まれてるんだからね。

「・・・・・・おお・・・・・・!!確かに、同じ顔・・・・・・!!」

当たり前ですさっきもお坊ちゃんが言ってたでせう市長さん。

「アンタ、何で・・・・・・アリエッタ、アニス!!何で連れて来たのさ!?」

いえこの2人は悪くないから。あたしが勝手に動いてるだけだから。怒らないであげてシンク。





アリエッタの肩から手を放し。かつり、と一歩。室内に侵入した。

「――――――随分と、興味深い話をなさっていた様ですが・・・・・・申し訳ありません。失礼させて頂きます」

かつり、もう一歩。お坊ちゃま達が息を呑む。

「それにしても・・・・・・この街の方は、揃いも揃って国家反逆者の集まりなのですか。王族や名代、ダアト最高位に剣を向けるなど」

かつり、かつり。あたしの迫力に押されて、お坊ちゃん達を囲んでいた人達が次々と武器を下げる。

「ああ、そう言えば。預言から外れてしまった者は、例え王族でも存在を許さない。ココはそういう、預言を絶対視する監視者の街でしたね」

ひたり。歩みを止めて、市長さんを見れば。彼は戦慄く様に、後ずさりした。





「・・・・・・・・・・・・アッシュ・・・・・・・・・・・・お前、何時から・・・・・・・・・・・・」

不安そうな声で目で。問い掛けるお坊ちゃん。

「――――――『俺は『ルーク・フォン・ファブレ』のレプリカ。』という処からです」

正直に言った、その答えに。お坊ちゃんがグッと拳を握る。

「・・・・・・ならば、君は・・・・・・君が、アッシュ・・・・・・本物の、『聖なる焔の光』なのかね・・・・・・?」





――――――・・・・・・・・・・・・ひき、と。こめかみ付近がひくついた。

このじじぃ。あたし今けっこー不機嫌マックスなの気付かないの?





「――――――本物とは、何ですか」

低く低く。もう抑えに抑えた声は、ソレでも底辺を這うくらい低かった。

「預言に詠まれていたら本物ですか。『ルーク』と呼ばれていたら本物ですか。レプリカでなければ本物ですか」

怒気が室内に充満する。気の弱い誰かが、ひい、と小さく声を上げて尻もちを着く。

「ならばアッシュと呼ばれる私は。ソコにいらっしゃるルーク様は。どちらも預言に詠まれなかった、私達は偽物だとでも?」

あたしの怒気を最も多く受ける市長の、青ざめていく顔。

「名は個々を識別する為の記号。命は命でソレ以上でも以下でも無く。まして本物か偽物かなど。命には、本当はそんなものありはしないのに」





あたしはあたしだ。お坊ちゃんはお坊ちゃんだ。

ユリアだかローレライだか預言だか知らんけど、混同すんな。

あたしを。彼を。その存在を、否定すんな。





「私は預言を全否定するつもりは無い。だが預言を必要ともしていない。だから私に、貴方方の思想を、押し付けないで頂きたい」

吐き捨てたあたしに、市長さんはさっきまでのへっぴり腰も何のその。顔を真っ赤にして怒ってきた。

「な・・・・・・!!なんという!!預言は絶対のものだ!!世界の繁栄の為に、遵守せねばならぬものだぞ!?」

・・・・・・・・・・・・うん。ココまで妄信してるって、いっそ見事ですが。

「――――――繁栄の後に、滅びが待っている、としても?」





ざわり、とざわめきが奔った。

あたしはひとつ、息を吐き。すぅ、と吸う。





「――――――ND2020。要塞の町は堆く死体が積まれ、死臭と疫病に包まれる。ここで発生する病は新たな毒を生み、人々は悉く死に至るだろ

う。これこそがマルクトの最後なり。以後数十年に渡り栄光に包まれるキムラスカであるが、マルクトの病は勢いを増し、やがて一人の男によっ

て国内に持ち込まれるであろう。かくしてオールドラントは障気によって破壊され塵と化すであろう。これがオールドラントの最期である」





紡いでやったのは、秘預言。原作では、まだまだ先に明らかになるハズの、滅びの預言だ。

「・・・・・・・・・・・・アッシュ・・・・・・・・・・・・如何して、ソレ・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・其れは・・・・・・第7譜石の秘預言か・・・・・・!?何故、君が其れを・・・・・・!?」

案の定、お坊ちゃんが市長さんが驚いてあたしを凝視する。





そんな彼等に、あたしは。

「第7音素とは、人より相性が良い様でして。自分で、詠んだんですよ・・・・・・詠もうとは、思っていなかったんですがね」

うっすらと、口元に笑みを乗せた。






























・・・つ、詰め込み過ぎた・・・






<<バック42                   ネクスト44>>
<<バック>>