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柱が、壊れる。白く光る音素の粒子が弾けて。ばら撒かれて。ぼろぼろと。崩れる様に。 「まずい! 坑道が潰れます!」 大地が、死んで逝く。支えを失った大地が。バランスを崩して、軋みを上げて。脆く割れて命を零す。 「私の傍に!早く!」 少将さんの怒鳴り声の後、続いたティアの声に皆が言われるままに彼女の周りに集う。 そして、あたしは――――――あたし、は。 「おい、アッシュ!?」 「ちょっ、ドコ行くのさアンタ!?」 お坊ちゃんのシンクの声を一切無視して。ダンッ!!と地を蹴る。 割れて揺れる足場をソレでも進んで、見据える先はパッセージリング。柱の制御盤。 ・・・・・・勢い余って、突っ込む形になっちゃったけど。取り敢えずその制御盤の前に辿り着けて。 両手を着いて見下ろした先・・・・・・むうう、古代イスパニア語ですか。読めん事はないけど、読めない字もあるわ。 ええと、ココがこーなって、んで、コレがこう・・・・・・ああっもう!!この時間無いって時に!!めんどくさっっ!! 「『三千世界の復元』!!『コンセクト・コード』!!」 イラッとキてちゃっちゃと自分と制御盤を繋ぐ事にした。 某漫画の機械に愛された女の子の様に、モノホンのコードが制御盤から出てきてあたしの身体に繋がる事は無かったけど。 ん、よし。確かに意識が繋がった。 すう、と大きく息を吸い込む。 このままじゃホントに1万近い人がワケも解らず死んでいく。人だけじゃない。獣が鳥が植物が大地が、死ぬ。 崩落はもう止められない。ならせめて。せめて崩落でなく降下。そしてあたしはソレが出来る。そう出来るだけの知識が、ある。 問題は、ソレにあたしが耐えられるか・・・・・・いや、何もしない後悔よりしてからの後悔――――――いざ!! 「何をする気だマスター!!」 「アッシュ、戻る、です!!」 「時間がありませんの!!早く!!」 だけど突然両側からきた衝撃に、ガチッと舌噛んだ。・・・・・・いったい!!地味に痛いよ!! 「〜〜〜〜っっっ!!」 思わず涙目になって衝撃の原因を見れば。 あたしの右肩を掴む水主に、左腕を掴むオヒメサマと、真後ろからあたしにタックルかまして腰に腕回してかじり付く、アリエッタ。 「離しなさいアリエッタ!!ナタリア姫!!」 「や、です!!アッシュも、避難する、です!!」 「ティアの元へ参りましょう!!」 「姫!!アリエッタ!!――――――水主、お前も邪魔するな!!」 「今回ばかりは聞けん!!」 「このままだとホントに崩落するんだぞ!?何千という人が巻き込まれて死ぬんだ!!」 「だからと言って今のお前に何が出来る!?この土地は直に死ぬ!!もう止められないんだ!!」 ――――――解ってる。解ってるよ。止められない事くらい解ってるんだそんな事!! 死に逝くモノを留めようなんて出来ない事くらい誰に言われなくてもあたしだってちゃんと!!だからって!! 「だからといって納得出来るかこんな事!!」 ガンッ!!と操作盤を拳で叩いた。 「納得出来るか!!認められるか!!許せるか!!こんな理不尽!!誰が許すものか!!」 アリエッタがびっくりしてあたしから腕を離す。 「確かにあの男は哀れだ!!故郷を失い預言を憎悪し世界に絶望した!!だからといって何をしても良い訳では無い!!」 オヒメサマが息を呑んであたしを見上げた。 「この土地の人間も愚かだ!!預言に依存し危険を自ら避けようともしなかった!!だからといって見捨てて良い筈も無いだろう!!」 ぐるぐる、廻る。感情。あたしの中で。 「人だけじゃ無い!!獣が鳥が木々が大地が!!幾重もの命が!!こんなにも容易く、奪われて良い筈が、無いんだ!!」 死んだら終わり。還らない。戻らない――――――戻せ、ないんだ!! 「っ、其れでも我は!!万の人間より命より、汝の方が大事だ!!」 ――――――・・・・・・・・・・・・悲愴な、声だった。 「・・・・・・我等が愛し種子。我が唯一無二の御子。我は、我には。人より大地より世界より。何よりも、汝の方が、大事だ」 思わず見上げた先には。薄い淡い綺麗な蒼の。泣きそうに歪んだ。 ごめん。 「・・・・・・・・・・・・私は、世界の癒し手だ、水主」 ごめん、水主。 「人を愛した『彼女』の。心を知った『』の。そして私の、彼等の意思を継いだ私の、最早此れは・・・・・・性だ」 ホントに。ごめんね。 「変わらない。変えられない。変えたく、ないんだ。もしも変えてしまったら――――――私は『私』で、いられなく、なる」 あたしの言葉に、水主の顔がくしゃり、と歪んだ。 その歪みを隠す様に、顔が伏せられ。力が抜けて、ソレでもまだあたしの右肩に掛かってる手の上に、伏せられて。 「・・・・・・・・・・・・全く、其の頑固さは一体誰に似たのか・・・・・・・・・・・・フォローしよう。俺は何をすれば良い」 「なら音を。何処まで効果が期待出来るか解らないが・・・・・・ヒュムノスを、焔のメタファリカを直接叩き込む」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・本気・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、解った。もう何も言わん。音、だな」 「ああ・・・・・・悪い、水主」 「仕方無い・・・・・・変えたくないのだろう?お前が『お前』で在り続ける為に。俺も、お前が歪むのは厭だからな」 溜息混じりに耳元で零して。再び上げた水主の顔は苦笑。 その手が、すい、と流れる様にあたしから離れる。指先に、水が集って形を成す。 ソコから落ちた、しゃらん、という清涼な音に。 あたしは、今度こそ大きく息を吸い込んだ。 |
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おねにーさまは基本、どんなに無謀でも愚でも、他人のやってる事に共感する気は無いけど完全否定する事も無いヒトです。 誇りとか願いとか。譲れない失えないモノがあるなら。命よりも大切な決意、死をも恐れぬ覚悟なら。別にソレはソレで構わない、とか思うヒト。 誰に泣かれようが何を捨てようが何を残そうが。そんなもの、脇目も振らずに自分の決めた道を貫き逝けば良い。 その人が、その人自身で決めた事なら、悔いの無い様、思うが侭に生きて、死ねば良い、とか思うヒト。 だけどその決意や覚悟を、周りの人達に無理矢理押し付けようとするのは嫌いなヒト。 考え、そして選択する事をさせないのが、大嫌いなヒトです。 |
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