重苦しい空気が、場を支配する。





まさかあたしに見破られているとは微塵も思ってなかったのか、ヒゲはさっきからぽけんとしたまま・・・・・・あれ。そんな意外ですか。

でもオタクね。釣った魚にゃ餌を与えんってゆーか何てゆーか。

人心掌握術に長けてはいても、その後のフォローに関しては詰めが甘いんだよぶっちゃけ。





そしてお坊ちゃん達はといえば――――――何だか痛々しげな目であたしを見てた。

・・・・・・・・・・・・いえだから今こんなトコで同情的な目を向けられたってね。する事はたんまり残ってるでしょーが。





「――――――すみません。この術あまり長く保たないので、早いトコあの人捕縛してくれると有り難いのですが」

「はっ、はい!!申し訳御座いません!!」

「たっ、直ちに!!」





取り敢えず、そろそろ念を練り続けるのもしんどくなってきたんで言ってみたら。

ばたばた慌てて後ろの兵士さん達がロープ持ってヒゲに近付いてった。

「・・・・・・私に・・・・・・養父である私に、縄を掛けると言うのか、アッシュ!!」

・・・・・・・・・・・・うん。このオッサンこの期に及んでまだ言うか。





「私は信託の盾騎士団、ダアトの兵士ですから。誰よりも何よりも、最高位であるイオン様をお守りするのが、最優先事項でしょう?」

にぃっこり。口元に笑みを張り付けて言い返す。

「ソレに。貴方の事を義理でも父親だと思った事など、1度としてありませんよ」

てゆーかぶっちゃけあたしの方が精神年齢も人生経験も上ですし。





思わず出そうになった言葉は呑み込んで、ついでにバッサリ付け足してやったら、ヒゲはぐむむ、と口を閉ざした。

へっ、情に訴えかけようとしても無駄むだムダ―。大人しくお縄頂戴しろってんだい。





兵士さん2人がヒゲを抑え、もう1人が腕に縄を掛ける。

ソレ見てあたしも、徐々に徐々に、ヒゲを束縛する黒い帯――――――影を、ゆっくり下へと降ろしていって。

クッ、と。ヒゲの表情が歪んだ。

忌々しげに、左右に立って自分を抑える兵士さん達を睨み付けて。後ろで腕を縛る兵士さんを、ちらりと見て。

ソレから、俯いた――――――その、口元が。





「っ、総長の口を塞げ!!」

「ネガティブゲイト!!」





あたしの叫びと、ヒゲの譜術が炸裂したのは、同時だった。





「「「ぐわぁっっ!?!?」」」

薄い紫暗の球体が、ヒゲのすぐ近くにいた兵士さん達を呑み込む。

しかも・・・・・・まだでかくなるっての!?

「水よ壁と成れ!!」

だけど空かさず、身構えたお坊ちゃん達の前に躍り出て、水主が水の壁を発生させた!!





ばちぃっ!!と水と闇が接触する。

その所為か、水主の作った水の壁は消えたけど。闇の球体もコレで消えた。





――――――だけど、その時には。

ヒゲは既に、次の行動に移っていて。





「まさか――――――コレを使う事になるとは、なっ!!」

愉悦に歪んだ笑みを浮かべながら、ヒゲが何かを。小さな何かを懐から取り出して。

あたし達にとっては直ぐ目の前。ヒゲにとっては、直ぐ背後にあったセフィロト・ツリーに――――――投げ付けた。





どかぁん!!





爆風。爆発音。

洞を崩すほどの大きさではないけど、柱を破壊するには充分な。





「――――――なんて、事を!!」

大地が地響きを上げて震える中、背後で導師の悲痛な声がした。

あたしの目の前では、勝ち誇った様な笑みを浮かべるヒゲが、ぴゅい、と口笛を吹く。

ばさりばさり、と羽根の音。

見上げれば、フレスブルクが2匹、何処からか降下してくるトコロで。

――――――て、え、ちょっとナニなんでそのうちの1匹の鉤爪のターゲットがあたし!?





「レプリカイオンを連れていく為に用意していたが・・・・・・お前の力を今失うのは惜しい。着いてきて貰うぞ、アッシュ」

「させん!!撃ち落せ水!!」





迫る鉤爪に、あたしを背後へと匿って。水主が水の弾丸をフレスベルクに放った。

ソレが魔物の翼を数カ所貫通して、悲鳴を上げた魔物は墜落する。

ソレを見て舌打ちしたヒゲは、既に上空で。





「兄さん!!どうしてこんな事!!これじゃ、アクゼリュスの人達も救助隊の兵士達も皆死んでしまうわ!!」

泣きそうな声で、ティアがヒゲに喰ってかかった。

「・・・・・・メシュティアリカ。お前にもいずれ解る筈だ。この世の仕組みの愚かさと醜さが」

そんな唯一の肉親に、ヒゲの声がほんの少し優しく柔らかくなる。

「それを見届ける為にも、お前にだけは生きていて欲しい。お前には譜歌がある、それで――――――」





上へ上へと、昇って行くヒゲの声がだんだん小さくなる。

その姿が見えなくなるまで。揺れが徐々に酷くなっていく地面の上。あたしはずっと、睨み続けた。






























アクゼリュスはぶっちゃけ大地降下には邪魔。

ダアト式封咒には導師が、ユリア式封咒にはティアが対応できるけど、アルバート式封咒の解き方は解らないので。

解き方解らなければ、他のセフィロト・ツリーに関与出来ない。関与出来なかったら、耐用年数の過ぎたツリーは落ちる。

遅かれ早かれ、落とさなきゃならない場所、ソレがホドとアクゼリュス。

てかダアト上層部にユリアシティ、ツリーの耐久年数2000年て解ってたんですよね?んでもーすぐその2000年だって解ってんですよね?

なのに何の手も打たず、キムラスカが繁栄する、て。大地崩落したら繁栄も何もないでしょうに。

ソコまで頭回らなかったんだろうか。不思議でなりません。






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