アイビィはヒゲの脅しに屈した。

そりゃあ、ね。大切なおねぇちゃん達や兄弟の命が掛かってたら、そーするよね。

あたしだって、ゴンやキルアが人質に取られたら、『舞扇』だって放り投げる。

・・・・・・・・・・・・ドコまで腐ってやがんだこのヒゲヤロウ。





開いた封咒の扉の内に、ヒゲは笑いながら身を進ませる。

追い掛ける様に慎重に、お坊ちゃん達は後を追って。

「――――――アリエッタ」

あたしの横を、ぬいぐるみが通り過ぎる。その上の、ツインテールが支える桃色に、あたしは声を掛けた。





「アニスに先程渡したケースの中。丸い蓋、緑色の液体。『ポーション』という、体力を回復させる薬です。飲んでおきなさい」

「・・・・・・っ、解り、ました、です」

「ソレからアニス。導師イオンを奪還、保護したら、直ぐに『エリキシル』を。良いですね?」

「・・・・・・うん。解った。ちなみに青は何の薬?」

「ソレは『キュアリス』。あらゆる毒素を中和します」





説明しながら、ぬいぐるみの影に隠れる様に。あたしは先行く彼女等の後に続く。

そして、扉をくぐった先では。

なんとヒゲ、今度はアイビィを人質に、お坊ちゃんに超振動使えと脅してた。





――――――・・・・・・・・・・・・ほんっと、いくら目的の為には手段を選ばないってゆっても、ココまで非ぃ人道的な事するか。





アイビィはすでにぐったりしてる。

首絞められて痛め付けられて、挙句の果てにゃ体力使うダアト式譜術。

気力で何とかまだオチてはいないけど、意識がある方がまさに奇跡だ。

そしてお坊ちゃん達は手も足も出ない。

譜術ぶっ放そうモノならモロにアイビィも巻き添えだし。

隙を付いて飛び道具を放とうにも、ヒゲはアイビィを盾にする。





悔しそうに唇を噛み締めながら、お坊ちゃんが一歩前に出た。

後ろで小さくオヒメサマや守護剣士が彼の名前を呼ぶけど、ソレ以上言えなくて。





あたしは、そっとその場に屈み込む。

ヒゲの注意はお坊ちゃんにいって、ギャラリーの注意はお坊ちゃんにいってる。

水主が、念を込めてさりげなくあたしをヒゲから隠した。

今が、チャンスだ。





――――――手も足も出ないんなら、あたしは他を出すもんね。





「・・・・・・『三千世界の復元』」

小さく小さく。誰の耳にも聞き咎められない様に。口の中で呟いて。

と、と。両手を地面に・・・・・・自分の影の上に、着けて。

「――――――『影縛り』」





音は、無かった。

ただ、足元から指の先一本に至るまで、幾重もの黒い帯が、一瞬にしてヒゲの身体を締め付ける。

「ぐっ、う!?何だ、コレは・・・・・・!?」

驚き呻くヒゲと同時に、あたしの目の前にいた水主の姿が消え。

――――――その、瞬間後には。アイビィを横抱きにして、あたしの隣に姿を現した。





「アイビィ!!大丈夫、です!?」

「ほら、お薬だよ!!飲んで、アイビィ!!」

アリエッタとアニスが駆け寄って、水主からぐったりと力の無い細い身体を受け取って。





「紐!?・・・・・・いや、違う・・・・・・!!」

「まさか・・・・・・影だって言うの、コレ!?」

帯の先を追って。シンクとガイの視線が、ヒゲの足元から、あたしの手元へと動く。





ぎり、と歯を食い縛ったヒゲが。憤怒の形相であたしを睨み付け。

「・・・・・・何だ、アッシュ・・・・・・その、技は・・・・・・!!私は知らんぞ、アーッシュ!!」

「――――――言ってませんから。知らなくて当然でしょう」

あたしは、にぃ、と口元を歪ませた。





「私が貴方に話すとでも思っていたんですか。私の知り得る術、持ち得る技、思考や感情想いすら。あらゆる全て――――――貴方などに」

もしそうだとしたら、コイツはなんてアホウなんだろう。

「私が犯されても暴行に遭っても。見て見ぬ振りをするどころか、影で煽動すらしていた貴方に」

お礼まいりした水主がね、聞き出してくれたんだよ・・・・・・そん時のあたしの気持ち解る?解らないだろうね、アンタなんかにゃ。

「そうして私を孤立させて。己に忠実な駒にする為に。自分に依存させようとしていた貴方に」

何時でも何度も繰り返された、自分だけがあたしの味方だと。あたしはそんなの信じるほど子供じゃないんだよ。





「・・・・・・・・・・・・アッシュ・・・・・・・・・・・・お前、何を・・・・・・・・・・・・」

「子供はね、総長。言葉が拙い分、空気にはとても敏感なんですよ?――――――気付かない方がおかしい」





イマサラ。今更取り繕うとしたって無駄ムダむだ。

アンタはホントに原作に忠実な。預言に縛られないレプリカ世界を作ると言いながら、その実レプリカの事を生き物とも認めない。

故郷を奪われた憎しみと。故郷を滅ぼした罪悪感とに縛られる。

とても愚かで――――――そして、とても毅く。毅いが故に、憐れな。





「貴方は私を見ようとしなかった。タダの道具、タダの駒。そんな目でしか私を見なかった。その貴方に、如何して私が心を開くとお思いですか」





ひたすら静かに穏やかに。

告げた言葉に、彼――――――ヴァン・グランツは、愕然とした表情を見せた。






























おねにーさまにはホントに道具程度の興味しか持ってなかったヒゲてんてー。

だから土壇場でこんな事になるのさ。






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