奥へ奥へと進む途中、救助隊の兵士さんの死体を数体見つけた。ソレを見て、思わず出るのは舌打ちだ。

「――――――っ、邪魔だっっ!!」

鉢合わせした魔物を切り捨て吹き飛ばし、奥へ奥へと直走る。逸る気持ちが止められない。





――――――やがて、鉱山内部も深層手前まで進んだところで、視界に捉えた人物に、速度を緩める。

ソレは、背中の半ばまで垂れる長く硬い髪を高く結わえ。騎士団の法衣を身に纏って。

右手で、導師の姿をした子供を吊るし上げる――――――





「――――――総長」

「・・・・・・来たのか、アッシュ」





呼び掛けに、振り向いた彼は穏やかな表情で。

「――――――何を、なさっているのですか、総長」

「何、コレが私の命令に歯向かうのでな。躾をしていたのだ」

・・・・・・・・・・・・『コレ』?『躾』、だと?





「・・・・・・・・・・・・申し訳ありません総長。仰っている意味が良く解りません」

ぎり、と。握り締めた拳に力を入れて。低く低く、声を絞り出す。

「私の記憶が確かであれば、その方は導師イオン、ダアトの最高位。我ら信託の盾騎士団が命に変えてもお守りするべき、尊きお方では?」

だけど彼は、あたしのその問いに笑みを浮かべた――――――嘲りの、笑みを。

「いいや。コレは導師イオンでは無い。導師イオンの代わりとして作られたレプリカ・・・・・・導師イオンの形をした、人形だ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・『代わり』・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・『人形』・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?





――――――あ、ヤバい。

ココがセフィロトに近過ぎるとかそんなんすっぱり忘れて。

あたし、このヒゲに『ドラゴンも跨いで歩く』自称美少女な某魔導師の最強呪文、ブチかましてやりたい。





「――――――イオンさまぁあああっっ!!」





いや。ぶちかましてやりたいドコロか、思わず口の中で『三千世界の復元』て呟いた時だ。

後ろからバカでかい声が飛んできて、あたしは詠唱に入ろうとしてたトコ舌噛んだ・・・・・・うん正気戻った。誰だか知らんがありがとう。





後ろを振り返る。

バタバタ走って駆け付けて来たのは。





「イオン様を離して!!」

巨大化したぬいぐるみの上で、桃色っ子を支えながらヒゲを睨み付けるツインテール。

「主君に手を上げるなんて、正気ですの!?」

避難じみた声で、何時でも弓をつがえられる様に矢を持つオヒメサマと、何時でも飛び出す気満々の仮面の緑っ子。

「自分が何をしてるか、解ってるんですかヴァン師匠!!」

怒鳴り声を上げるお坊ちゃんに、今にも剣を抜きそうな感じの守護剣士とマクルト国少将。

「兄さん、お願い!!もう止めて!!」

そして、泣きそうな声でロッドを握り締める妹の後ろには、数人の兵士の姿。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うーわーぁ。ギャラリー多っっ。

思わず口元引き攣った。何で皆さん勢揃い。救助はどーした救助は。

なんて、気が抜けたのも束の間。ヒゲのくつくつ、っていう笑い声に、思わずあたし自分の目付き悪くなるのが解った。





「――――――正気?ええ正気ですともナタリア姫。私はこの上も無く正気です」

・・・・・・正気正気と繰り返しながら、その目に浮かんでんのは狂気じゃないかこんちくせう。

「コレは我が主君に在らず。人ですら在らず。導師の形を模した、只の人形」

人で無い?ああ確かに人じゃ無いね。だけど命だ。生きる、という権利を得た、ソレはひとつの命だ。人形なんかじゃないんだよ。

「自分が何をしているか、だと?勿論理解している。私の決意と望みは覆らん。故に止まる事も無い」

別にイイさ。アンタの決意が望みがどんなだって。だけどソレはアンタのモノだ。他の人間に押し付けんな。





言いたい事は山積みだ。

だけどヒゲは、何を誰が言ったって・・・・・・そう、例え妹や剣の主に言われたって、意志を曲げる事はしないだろう。

ソレが解っているからこそ、こーなる前にふんじばりたかったのに。





ヒゲの視線が、ぬいぐるみの上に向いた。向けられた少女達は、ビクリ、と身体を震わせる。

「お前達に知られるのはもう少し後、と思っていたが・・・・・・まあ、良い。そう言えば、アリエッタには致命傷を負わせたと聞いていたのだがな」

その声に、首を絞められて苦しそうにしてる導師は薄目を開けて。次には、アリエッタの姿を認めて、僅かに見開かれ。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・アリ、エッタ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・生きて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っっ」

零れた呟きには、安堵。ソレを聞き咎めたヒゲが、首を締める力を強くして、直ぐに苦痛の呻きへと変わる。





「・・・・・・っっ、アッシュの、お陰、です。ソレに、アリエッタ、イオン様達置いて、死なないもん!!イオン様返して!!」

「お前の導師イオンは2年も前に死んでいる。コレは偽物。レプリカだ。其れでも返せと言うのか」

歪む導師――――――アイビィの顔に、アリエッタが叫ぶ。だけどヒゲが返すのは、薄ら笑い。

「っっ!!偽物、ちがう!!アイビィはイオン様の弟だもん!!総長のばかぁあ!!」





・・・・・・・・・・・・いや、ソコで『バカ』ってこの人に言っても。

てゆーか、今ポロッとアリエッタ導師の事アイビィって呼んだよね?

ヒゲも気付いたみたいだ。目を眇めてしばらくアリエッタを見て。ソレからちろん、とアイビィを見て。にぃ、と。口角が上がる。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うわ。また何考え付いたこのヒゲ。





「そうか。お前は知っていたのか。そして、お前・・・・・・レプリカも。ならば――――――」

気味の悪い笑顔を浮かべたまま、ヒゲは開いていた左手を上げてあたし達に向ける。そして。

「ならば、レプリカイオン。アリエッタ達を死なせたくはなかろう?封咒を解くのだ」





――――――やっぱり。





ヒゲの足元に浮かんだ譜術の魔方陣に、あたしはやっぱりギガ・スレイブぶっ放してやりてぇ、て思った。






























こーしてみると、てんてーってすんごい悪党って感じが・・・






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