カイツールから定期船――――――キャツベルトに乗って。

船の上ではすんごいギクシャクした空気が充満してた。

まあ、あたしが男性陣を突っぱねたのは昨日の事なので、彼等がびみょーな顔であたしを見るのは解る。

近付いて来ようとしないのだって、コチラとしても万々歳だ。





だってあたし、未だにぐるぐるしてるからね。

昨日言ってたお坊ちゃんの話。ホントは、完全否定するだけの理由も証拠も、無いから。





ココは、『あたし』の知ってる深淵の世界じゃ、ない。

『アッシュ』として目覚めた時点で、気付くべきだった。

『あたし』がココにいるという時点で、全く違った世界なのだと、気付くべきだったんだ。





『アッシュ』は一体誰なんだろう。今更になって、そう思う。

妾の子か。双子の兄か。捨てられた子か今も探されている子なのか。





水主にソレとなく確かめてもらった。主に一般のキムラスカやマクルトの兵士さんに。

7年前の大事件。知らない人はいなかったけど、今となっては忘れてた人が多かった、王族誘拐。





――――――その話題の、影に隠れる様に。

身体の弱い公爵夫人が生んだ双子の、やはり身体の弱かった兄。

その病弱さ故に、世間ではいた事すら忘れ掛けられていた、存在。

その子が、弟の誘拐から数日後に亡くなった、のだと。





1人のキムラスカ兵士がぽつりと言って。

え、そーだっけ?うんそうそう。そーいやあったなそんな事。なんて声が上がっていき。

あの年はホントに色々あったよな、なんて何時しか聞いてない彼等自身の思い出話にまで花が咲いたそーですが。





・・・・・・・・・・・・そんな事聞かされた日にゃ、悩むなって方が無理ってもんでしょ。





一般兵さん達が思い出す程度には、信憑性のあるお坊ちゃまの話。

あたしは、コレを信じてイイのか。

・・・・・・信じた、として。あたしはコレからどうすればイイのか。





だって、お坊ちゃまの兄上の『アーシュ』はいない。

『アッシュ』が『アーシュ』だったとしても。彼等が捜しているのはいない。

中身が『あたし』だから。あたしは『あたし』以外の何者でもなく、『アッシュ』じゃないから。

――――――それとも。見た目が『アーシュ』なら、中身は何だってイイの?





ソレはいくら何でもナイでせう、と。あたしはでっかい溜息を吐く。

7年経つのに、未だに探し続けているってくらいだ。

何だってイイっていうなら、ソレこそ人形でも何でも、作って置いておけばイイんだから。

・・・・・・てゆーか、コレ『アッシュ』がお坊ちゃまのオニーサマ前提?前提で考えてんね。

いやいやいやいや。まだ確信したワケじゃないから。まだホントかどーかなんて解ってないから。





そんな事をぐるぐる。ホントにぐるぐる。9割ホントなんだろーなー、と思いながら、ソレでも残りの1割に縋ってぐるぐる。

ケセドニアに着いても護衛そっちのけでずっと考えてたから、何時の間にか隣に彼がいた事に、気付かなかった。





「・・・・・・えーと、アッシュ、響士?いえ、アーシュ様?お隣、宜しいですか?」

・・・・・・・・・・・・だから。昨日あんだけ言ったのに何故『アーシュ様』。

「・・・・・・・・・・・・アッシュ、と。呼び捨てで結構です。敬語もいりません」

「そうか。じゃあ遠慮無く」





へらり、と笑った使用人さんが、あたしの座ってるチェアーの隣に腰を降ろす。

そのまま、何をするでも口を開くでもなく・・・・・・何だあたしに用があるんじゃないのか。





「・・・・・・・・・・・・ルーク様のお傍に、控えていなくても宜しいので?」

あたしは替えのきく護衛だけど。おたく使用人でしょう。

「ああ。今は自由時間なんだ。ルークにはシンク達が付いてるし。あ、俺がルークを呼び捨てんの、ちゃんと本人から許可貰ってるからな?」

あっさり返ってきた。しかも聞いてない事まで。





ああそーなんですか、と対して興味も惹かれずに。

早くどっか行けー、と念じながら微動だにもしなかったら、使用人さんは小さく嘆息した。

「・・・・・・疲れないかい?」

疲れてるよーに見えますか・・・・・・いや実際疲れてますが。もー自分のベッドにとうっ!!てしてそのまま寝たいですが。





「ずっと、1人で。独りで、いようとして・・・・・・疲れないかい?」

――――――何か言いたい事があるんだろうって思ってたけど、オタクもソレですか。





ふ、と。ほんの僅かに顔を彼に向けた。

あたしの応えを待ってる使用人さんは、泣きたい様な困った様な。だけどあたしは揺らがない。揺らいでは、いけない。





「――――――私はとても臆病で、そしてとても卑怯な人間なんですよ、ガイ・セシル殿」





この世界は空想。『あたし』の存在しない物語。『あたし』が他人の身体の中で見てる、夢。

そしてあたしが『あたし』である為に。あたしは『アッシュ』を消す。

お坊ちゃまから『兄上』とやらを奪う。特務師団員達から『師団長』を取り上げる。

『アッシュ』の事が大切だと、そう言う人達はきっと恨むだろう。『あたし』を。『アッシュ』を殺すあたしを。だから。





「何時か裏切るものならば。最初から何も持っていない方が良い」

痛みは、少ない方が良いだろうから。






























原作3Gさんもなかなかに壮絶でしたよね幼少期が。誕生日に一家殺害。しかも自分は姉に庇われソレが高じて女性恐怖症。

でも公の場で一国の王様に剣を向ける。どんな理由があったってお縄頂戴モノですよね。

けどかっぱは3Gさんもけっこー好きなので。ビジュアル的に(をい)。ココでも捏造大炸裂。

ガルディオス家とファブレ家は奥方同士仲が良くて、その奥方達に付き合うウチに、旦那同士も仲良くなったとゆー設定。

彼の一家、ガルディオス家を襲撃したのは、預言遵守の為にキムラスカ兵に扮装したダアトの騎士団なのです。

3Gさんはソレを知ってて、ファブレに匿われたので、恨みどころか感謝してます。ルークともちゃんとした親友です。ココでは、ね。






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