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コレで。一応は納得してくれるかな、と思ったんだ。納得しなくても逃げ切るつもりだったけどね。 だけど、そう事は上手く運ばないワケで。 「・・・・・・・・・・・・アッ、シュ・・・・・・・・・・・・」 ずっと、あたしを見たまま会話に入らなかったお坊ちゃんがぽつっと零した。 「・・・・・・・・・・・・アッシュ・・・・・・・・・・・・アーシュ、兄、上・・・・・・・・・・・・?」 ってイキナリ何言い出すのかなぁこの子は!?!? 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」 思わず間抜けた声も出るってモンさ。あたしだけじゃない。シンクも少将さんも、ぽけーん、な顔ぱーとつーだ。 使用人さんや導師だって・・・・・・あれ。導師ナニそのビミョーな顔。 「・・・・・・あの、さ。その・・・・・・俺、にはさ。兄上、が・・・・・・いたんだ」 「・・・・・・はあ」 ソレがどーかしましたか。てゆーかオタク、レプリカでしょ。厳密的に言えば親兄弟なんていないっしょ。 「7年前、俺と2人一緒に誘拐されて、俺1人だけが救出された。ずっと、探してるんだ。でも、今もまだ見付かってない、双子の兄上が」 「・・・・・・・・・・・・そうなんですか」 ゆうかい。誘拐、ねぇ。確かに『アッシュ』はヒゲ・・・・・・いやいや、てんてーに誘拐されたけども。 「な、名前がさ、アーシュって、言って」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん。なんかこの後の展開が見える。 「・・・・・・お前じゃ、ねぇの・・・・・・?」 ほ ぅ ら や っ ぱ り ! ! 「・・・・・・でも、ルーク・・・・・・貴方のお兄様は、アーシュは、病で亡くなられたと・・・・・・」 しかも何ソコで導師便乗!? 「・・・・・・いや、死んでねぇ・・・・・・死んで、ねぇんだ。病気で、なんか」 ナニソレもしかしてまぢ話!?まぢ話なの!?ソレがホントならドコまで原作とかけ離れてんのこの世界!! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ。なんか頭痛くなってきた。 てんてーの話がホントなら、お坊ちゃんのこの話は嘘で。逆にお坊ちゃんの話がホントなら、てんてーの話が嘘。 てんてーの話がホントなら、この子は『アッシュ』の数日違いの弟で。 お坊ちゃんの話がホントなら、『アッシュ』はこの子の双子の兄。レプリカじゃない、て事で。 原作はもはやアテにならない。何を基準に何を信じていけばイイのか解らない。 解らないあたしに出来る事なんて、もう、ひとつだけ、しかない。 「違います」 キッパリさっくりハッキリ全否定。頭ン中ぐるぐるしながらも、いや、してるからこそ、かな。 「何で!!俺と同じ顔で兄上と殆んど同じ名前で!!10歳から前の記憶が無い!!これだけ揃ってて、何でそう言い切れるんだ!!」 うんやっぱ食い下がるか。 「私はとある貴族の妾の子で、父は私達母子を捨てたそうです。そして母は、私を庇って魔物に殺されたとか。ですから違いますよ」 取り敢えずてんてーから聞かされた身の上話転用。 しかもてんてー、そのとある貴族とやらがファブレ公爵だとは今まで一度も言ってないかんね。 「その父親や母親の事も他人から聞いた話だろ!?ソレだって絶対だと言い切れる要素はねーじゃねーか!!」 うんまあそーなんですが。 「何故総長がそんな嘘を吐かなくてはならないのですか――――――其れに、」 ふ、と息を吐いて、あたしは1度顔を下げた後、再びお坊ちゃんを見据える。 「総長から聞いた話が嘘で、貴方の言う事が正しいとして。だから何だと言うのです」 半ば投げやり気味に吐き捨てた。 その言葉は、皆さんの声を奪うには充分な威力を持っていて。 「・・・・・・だから何だ、ってそんな言い方・・・・・・!!」 「なら、貴方は私に如何しろと言うのですか」 歯噛みする様に、絞り出す少将さんの言葉も何のその。 「ご両親と兄弟のいる事が分かったんですよ。嬉しくないんですか!?」 「いえ、全く」 批難じみた導師の声にも、動じずに。 「ま、まったくって・・・・・・!!帰る場所が解った。また家族で暮らせるんだぞ!?」 「家族を覚えていない私が?今更?」 言い聞かせる様な使用さんのセリフすら、切り捨てて。 「憶えてなければ他人も同じ。今更親が解っても何の感慨も湧きません。そもそも、私は本当に貴方の言うアーシュなのですか、ルーク様?」 見据える先は『アッシュ』と同じ顔の。同じ声の。長い髪の。あたしが今までレプリカだと思ってた、子。 ――――――この子だって、ホントは。シュザンヌ様の生んだホントの人間かもしれない、なんて。 「昔を覚えていない私には、総長と貴方の話、どちらが正しいのかなど判断出来かねます・・・・・・要はどちらも信じられない」 何が真実で何が嘘。解らない。解らないから、信じない。 「そんなの!ルークの言ってる事の方が、本当に決まってる!!」 そりゃ、アンタはお坊ちゃんの味方だから・・・・・・だけどあたしの味方じゃない。あたしの味方じゃないんだよ、シンク。 「例えそうだとしても。私にはどうでも良い事です」 「どうでも良いだと!?」 ソコで何でアンタが怒るの使用人。アンタかんけーないでしょ。コレはあたしの話でしょ。 「ええ、どうでも良いです。私は既に親の庇護を必要とする年ではないし、親を恋しがる様な感情も持ち合わせてはいない」 「・・・・・・っ」 お坊ちゃんが息を呑んで、唇を噛んだ。その、傷付いた、みたいな顔に、ちょっと心が揺れたりもするけど。 「今更自分の出生が解ったところで、今の私が信託の盾騎士団特務師団長、紅華のアッシュと呼ばれている事実は変わらない。私は、其れ以 外の何者にも成り得ない」 あたしの口は止まらず。恐らく彼等にとっては刃の様な。辛辣な言葉を吐き続ける。 「それでも、今まで積み上げてきたもの全てを捨てて、貴方の兄になれ、と。貴方はそう仰るのですか、ルーク様」 |
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最後らへんの「私は、其れ以外の何者にも成り得ない」って言葉をおねにーさまに言わせたかった。 原作では、奪って奪われて、の言い合いでアッシュとルークの間にごっつい確執がありましたが。 「人」を形成するのは生まれた場所だけじゃない。周囲の環境、今まで見て来たモノ、出会った人。 レプリカはオリジナルにはなれないし、オリジナルがレプリカと違うのは当たり前。同一視する方がおかしいと思うのです。 |
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