お坊ちゃんが差し出した手を、あたしは結局最後まで取れなかった。

動かないあたしに嘆息して、まあそんな簡単に打ち解けてくれるとは思ってなかったからイイけどな、なんて次には苦笑して。

お坊ちゃんは、早く戻ってこいよ、と言い残して使用人と先に戻ってった。





お坊ちゃん達が見えなくなってから、あたしは考える。





――――――『もっと自分を大切に』?

大切にしてる、つもりだ。あたしは。『あたし』を。『あたし自身』の想いを。願いを。

自分の意思に忠実に。好き勝手させてもらってる・・・・・・現状の、動ける範囲内で、だけど。

『アッシュ』の身体が、ソレについて来れないのは仕方ないって思ってる。





――――――『もっと周りを見た方が』?

見てる、つもりだ。その上で、全てを近寄らせない事を決めた。

だって『アッシュ』は消える・・・・・・あたしが、殺す。あたしが元に戻る為に、いつか絶対に消える存在。

そんな『アッシュ』に、アリエッタの悲しいだとかシンクの心配だとか、思ってもらったところで彼等のソレは全部報われないから。





――――――・・・・・・・・・・・・止めよう。気が滅入ってきた。





でっかい溜息吐いて思考を遮断する。

上を見上げたら夜もすっかり深まってて・・・・・・だいぶココで時間潰してたんだなーあたし。

そろそろ、戻らなきゃ。





ずーるずーると足取りも重く、野営地に戻ってみる。

したら、色んな視線がグサグサと、そりゃもうとんでもなく痛かった。





アリエッタとアニスちゃんなんかはソレが顕著だ。なんかもー納得いかんっっ!!てなくらいの眼力でコッチをジトッと睨み付けてくる。

・・・・・・うふふふ。いーさあたしキミ等に好印象持たれたいだなんて淡い望みは持ってないさ。

マクルト兵の皆さんは皆さんで、さっきのアレを誤解したまんま。人の好意をあんな無碍に、てしらじら〜とした目であたしを見るし。

ふ、ふふん。気にしないさあたし。誰にどんな目で見られたって。





皆さまの視線から無理矢理意識を引き剥がして、あたしはさっきまでいた位置に戻る。

お坊ちゃんが「痛けりゃ自分で治すだろ。アイツ治癒術使えんだから」てアニスに声掛けてるけど、ソレはフォローですかフォローなんですか。

今度は、誰もあたしに近付いてきそうにない――――――と、思ってたら。





「師団長」





ををう水主。眉間にシワ貼り付けたまんまだよ。せっかくの美形台無しだよ。

「コレだけでも、腹に入れておいて下さい」

言いながら、差し出してきたのは水筒・・・・・・やっぱ、吐いたのバレてたか。





あたしは、はふ、と小さく息を吐いて、ソレを受け取った。こくこく、と。ふた口だけ飲んで、ありがとうと言いつつ水主に返す。

味が解らなくなってからこっち、必要最低限しか飲み食いしなくなったあたしには、コレ一本まるまるは多過ぎる。

水主はまだモノ言いたげな顔だったけど、やがて諦めたのか溜息ひとつ吐いて自分の持ち場、あたしの対角の位置に戻ってった。





そんなあたし達を見てた一部のマクルト兵さん達がなんかコソコソ言ってる。

アイツ等ホントに上司と部下の関係?とか部下まで誑し込むなんてサスガ紅い華とか。

・・・・・・マクルトにもその噂いってんだ・・・・・・てゆーか邪推はヤメテ下さいホントに・・・・・・あああ、水主の眉間のシワが更に深くっ。





そんな感じで、眠れない夜を過ごしたあたしは、次の日も鬱憤晴らしの為に、有無を言わさず襲ってくる魔物達を吹っ飛ばしたりしていた。

いやぁ、ぜっこーちょーです。かなり溜まってましたねあたし。

・・・・・・・・・・・・後ろの皆さんがなんか怯えてる様な気がするのは気のせい気のせい。





そしてそしてっっ。やっと辿り着いたカイツール!!コレで!!今度こそやっと!!あたし帰れる!!

・・・・・・・・・・・・なんて、そうはトンヤがおろさなかった。

例の如く、『導師命令』が炸裂したんだよ!!しかも今度は導師の護衛でバチカルまで!!





すんごい渋ったものの、最高位の命令には背けない。ああ、組織の下っ端の悲しいサガ。

泣く泣く了承しましたよ。ええ、しましたとも。





だけど今日はもう定期船も出てないから、カイツールで一泊と相成りました。

あたしは六神将、特務師団の団長、だから、宿屋の1人部屋貸してくれるって事になった。

宿屋の警備は、マクルトやキムラスカの兵士さん達がしてくれるそうで。水主もその中に残してきた。万一の時の、あたしへの伝令役として。





待ちに待ったベッド!!ベッドだよ!!コレであたし寝れる!!

・・・・・・いえホントは自室のが一番だけど、この際文句なんか言ってらんないかんね。

でもその前に。まずはシャワーだ、シャワー。





セントビナーからココまで、出てくる魔物は先手必勝、譜術でふっ飛ばしたりしてほぼ返り血なんかは浴びてないけど。

ソレでもほぼ、だし。怪我はしたし。髪の毛アブラっぽいし。体中砂埃っぽいし。ちゃんとした布団で寝るならサッパリしてから寝たい。





んなワケで。あたしは法衣と仮面をベッドの上に放り投げ、タオル片手に備え付けの小さなシャワールームに入った。

・・・・・・・・・・・・この時、ちゃんと扉に鍵を掛けておくんだった、と後になって心底後悔した。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・後で悔やむから後悔、なんだども。





「あ、お邪魔してますアッ・・・・・・シュ・・・・・・」

「よっ、遅かっ・・・・・・た・・・・・・な・・・・・・」





シャワールームから出るなり、視界に飛び込んできたダアトの現最高位と王族その他モロモロに。

あたしはたっぷり数分間は固まった。と思う。うん。






























おねにーさまの知名度はソコソコ他国でも高いんじゃないか、と思う。

だっててんてーの養い子だし。若い身で響士(佐官)だし。六神将だし。いえソレ言うならシンクもですけど。

ただ、おねにーさまはシンクと違って7年間の間にイロイロありましたから。

冷血漢とか男狂いとか、色んな悪い噂もけっこー渡ってんだよ、て事で。






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