振り向いた先。あたしを見下ろしてたのは長い髪のシルエット。

ソレが、誰か解った途端。あたしは頭を抱えたくなった。





「・・・・・・ルーク、様・・・・・・何故、こんな処に・・・・・・」

ココってけっこー奥だよね?みんなから離れてるよね?なのに何で1人なの?

・・・・・・って、あ。1人じゃない。感覚鋭くしてみれば、お坊ちゃんの背後、ちょっと離れたトコロに使用人さんの気配が。





そんなお坊ちゃんが、ガシガシと頭を掻いた。だるそうに明後日の方に視線を飛ばして、あー、とひとつ、ぼやき。

「ああ、ちょっと用足しで――――――アンタは、どう見ても頭冷やしてる、て感じじゃねぇよな」

少しばかり眉をしかめて、あたしがさっきまで吐いてた残骸を流し見・・・・・・げげっ、目敏いねキミっ。





「っ、夜の林は危険です。早く導師様達の処へお戻り下さい・・・・・・後ろの方と共に」

吐いた残骸を隠す様に立ち上がって。言い当てられた使用人の気配が揺れたけど、気にせず促す。

「危険、て。だったらアンタにとっても危険だろ」

だけどお坊ちゃんは呆れた様に。説得力ぬぇーな、と鼻で嗤う。むむむ。ナマイキな。あたしとオタクを一緒にしないでくれたまい。





「此れでも、兵士ですから。危機回避能力は人より・・・・・・」

「さっきは俺達に気付かなかったのに?」

――――――・・・・・・・・・・・・また、イタいトコを。

イヤでもね?さっきはちょっと気ぃ緩んでただけだから。今はもう大丈夫だから。

吐き気も治まったし、震えも止まった。触られたトコ切り落としてー、なんて衝動もなくなった。うん。もう大丈夫。





「・・・・・・・・・・・・お戻り下さい、ルーク様」

「アンタも戻れよ」

「いえ、私はもう少し――――――」

「ああもうっ、じれってぇなっ」





がしがしがしっっ。頭を掻いたお坊ちゃんがギンッとあたしを睨み付ける。

その手が伸びて。あたしに向かって、伸びて。

――――――ぱんっ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ。やっちまったよぱぁとつー。





「貴様!!ルーク様に何をっっ!!」

茂みから飛び出してきた使用人が、お坊ちゃんを庇う様に割り込こんで・・・・・・ヤメテ下さい剣の柄に手ぇかけんの。

そんな使用人の肩に手を置いて下がらせて、お坊ちゃんはあたしを見据える。





「・・・・・・驚いたな。マジで人に触られんの、ダメなんだ、アンタ」

にやり、と口元が歪んで。

「敵に紅い華を咲かせる特務師団長、『紅華』のアッシュが」

紡がれるのは、悪意のこもった言葉。

「身体売って今の地位を手に入れた、男狂いの『紅い華』が」





――――――・・・・・・・・・・・・あたしの噂はドコまで尾ヒレ背ビレ着いてドコまで轟いてんだ一体。

でも、なんか。あたしの心はソレ聞いてみょーにすとんと落ち着いた・・・・・・いや、てゆーか冷めた。

随分久しぶりな感覚。もう、何もかもが全部、どうでもいい。そんな。





「申し訳ありません、何分急な事でしたので・・・・・・ご命令ならば、ルーク様の夜のお世話も致しますが?」

どーせソッチ関係であたしを護衛に推したんだろこの坊ちゃん。この年頃って、性行為にゃ興味津々だもんね。

ああ、この子ドコまで知ってんだろう、て色々考えてた自分がバカバカしい。

だけどお坊ちゃんは、浮かべてたイヤな笑みのまま目を細めて、あたしを見据えた。





「・・・・・・俺の夜伽の相手?出来んのかよ?」

「其れがご命令であれば」

「・・・・・・・・・・・・シンクにちょっと触られたくらいで、さっきまで盛大に吐いてたくせに?」

「身体から意識を切り離せば大丈夫です」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」





・・・・・・・・・・・・うん。何かなその沈黙は。見れば使用人さんも、ビミョーな顔してるし。

つか何その反応。オタク等の想像通り、男狂いならコレッくらい言っても変じゃないっしょ?・・・・・・あたしも半ばヤケクソだったけど。





お坊ちゃんが俯いた。とってもでっかい溜息付きで。

「・・・・・・・・・・・・前に。アリエッタが、泣いた事あんだよ。アンタが怖ぇって」

で、何を言うかと思えば・・・・・・でも、あー。うん。解ります。あの子あたし怖がってんの知ってます。でも泣くホドとは。

「自分の命ガリガリ削って。すげぇ沢山、体も心も怪我して痛ぇハズなのに。本人ソレに全然気ぃ付いてねぇどころかソレが当然、て感じで」

解ってるから今更再確認なんてさせないで。コレでもへこむから・・・・・・・・・・・・って、え?

「ソレがすっげぇ怖くて・・・・・・痛くて。悲しい、て」

予想外な言葉に、あたしは目をぱちくりさせた・・・・・・いえ2人には解らないだろうけど。





「シンクも、さ。アイツ口は悪ぃけど、アレで本当にアンタの事心配してんだぜ」

え。何ソレ。全然解らなかった・・・・・・ああ、ツンデレだっけあの子。でもにぶちんなあたしにツンデレのデレ部分をどーやって看破しろと。

「アンタ、前にアイツ庇って障害残ったんだろ?痛み感じねぇって聞くけどさ。だからこそ、どんな小さな傷も油断は出来ねぇって」

いえいえ味覚障害は気付かなかったあたし自身が悪いんですし。

「・・・・・・さっきの、俺の暴言だって。アンタ、怒っても良いんだぜ?俺が王族だから、とかそんなん関係無ぇ。アンタは、怒って、良いんだ」

・・・・・・・・・・・・えー。て事はさっきのワザと?ワザとですかあたし怒らそうとしたんですかこのお坊ちゃん。





「アンタ、もっと自分を大切にして、もっと周りを見た方が良い――――――あんな事言って、悪かったな。戻ろうぜ、一緒に」





・・・・・・・・・・・・何だろう。この子。ホントになんなんだろう。

あたしを見下して嘲って。怒らせようと、して?あたしを試した?何で?何で試す必要があんの?

あたしの何をドコまで知ってる?・・・・・・もしかしたら、この世界の逝く先まで、知ってる?

――――――この子、多分あたしよりもイレギュラーなんじゃなかろうか。





思ったあたしは、だから差し出されたお坊ちゃんの手を、取る事が出来なかった。






























るぅく様は、実は『アッシュ』の事をだいぶん気にかけてます。

誘拐される前は、ホント絵に描いた様な公爵家の嫡子で鼻に付く様な態度だった、て周りから聞いてて、イケ好かねーとか思ってましたが。

てゆーか、某集合体さんの見せる夢で、アイツの代わりに俺は死ぬのか、てイケ好かないどころか大っ嫌いでしたが。

イオンに薬あげたのもシンク庇ったのもアリエッタの故郷再生したのも彼だって聞いてるし。しかもディストは、彼は死にたがり、て評価したし。

実際会ってみると、夢や話に聞いたのと全然違ってて、ああ確かにコイツ死にたがりだ、て思っちゃって。

イオン達から、過去の彼の境遇も噂の真相も聞いてるから、今のコイツって随分と可哀想なヤツなんだよなー、て思ってるんですよ。






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