失敗したなぁ、と思った。

ソレは、野宿を決定してしばらく経った時。





「紅華。アンタ、怪我したでしょ」





中心に導師とお坊ちゃん。その周りにアスランさんと護衛組。更に周りを囲む様にマクルト兵士さん達。

そんな彼等の位置全体を把握出来る位置で、寝ずの番覚悟で佇んでいたあたしのトコに、ひょこ、とやってきたのはシンクだった。





「・・・・・・・・・・・・怪我、ですか?」

「左腕。アソコの兵士引っ張って魔物から遠ざけた時に。魔物の爪掠ったでしょ」





シンクに指されたマクルト兵さんがびっくり眼でコッチを見る・・・・・・だけじゃない。

いたたた。皆さん一斉にコッチ向かないで下さい。しかも水主。また眉間にシワ。怖いから。

・・・・・・てゆーか。誰も気付かなかったから黙っとこうと思ったのに。コレじゃ誤魔化すのもメンドウだ。





「――――――良く見てますね」

「僕を誰だと思ってるのさ」





溜息混じりに零したら呆れた様に言われた・・・・・・ハイハイ。情報命な参謀長官ですよねーどんな小さな事でも見逃しませんよねー。

でも見逃して欲しかったよあたし的には・・・・・・ああ。後で水主のお説教が。





「・・・・・・取り敢えず。手当するから来なよ」

気落ちしてたら重ねて声を掛けられた・・・・・・でも手当ってもね。止血は終わってるし痛くないし。

「いえ、この程度でしたら――――――」

だからご辞退申し上げようとしたんですが。

「良いから」





シンクの手が上がった。その手が、怪我をしてない方、あたしの右腕を、掴んで。

――――――ぞわり、と。背筋を何かが這い上がった。





ぱしんっ。





「っつ!」

「――――――あ・・・・・・・・・・・・」





気付いた時には既に遅し。目の前のシンクは、叩き落とされた手をもう片方の手で胸に引き寄せて、あたしを見上げていた。

ソレを見た導師が、アリエッタが、アニスが。慌ててシンクの名を呼びながら駆け寄ってくる。

お坊ちゃんが、ガイが。腰を浮かせてあたしを睨み付けて。

ティアが、アスランが。明らかにあたしを批難する様な視線を、向けてきて。





「シンク、だいじょうぶ、ですか」

「随分強い力で叩かれたみたいですね。赤くなってる」

「ちょっと何すんのよアンタ!!じゃない何するんですかアッシュ響士!!」





――――――や、ばい。

「・・・・・・も、うし、わけ・・・・・・」

触られた場所がぞわぞわする。

「・・・・・・つ、い・・・・・・」

生暖かい体温。他人の。





気持ち悪いきもちわるいイモチワルイ――――――!!





ぎゅう、と。触られた場所を掴む。ソコに留まり続ける嫌悪巻。切り落としてやりたくなる程の。

「・・・・・・ほん、当、に。申し訳、あり、ません、シ、ンク、謡士」

ぎりぎりと。力を込めて爪を立てて。手袋してて良かった。じゃなきゃ絶対掻き毟ってる。





睨み付けてくるいくつもの視線を真っ向から受け止めて、あたしは細く長く、息を吐き出した。

――――――ダメだ。もう・・・・・・・・・・・・ホントに、限界。

「・・・・・・・・・・・・頭を冷やしてきます・・・・・・・・・・・・ワルター、後の見張り頼みます」

くるり、と踵を返して、後ろで喚いてる声も右から左で。足早に、向かう先は茂みの中。

ドコでも良い。彼等が視界に入らない場所。1人に、なれる場所へ。





だかだかと。歩いて歩いて、競歩もかくや、て速さで歩き続けて。

ココまで来れば、とようやっと思ったトコで、近くにあった木に手を着いて。

「・・・・・・・・・・・・う、ぇ、っ」

――――――あたしは盛大に、吐いた。

元々、今日はあんまり食べてなかったから吐けるものなんかなくて。でも込み上げてくるままに吐き続けて。胃液まで、吐いて。

げほげほ咳き込んで。はあはあ肩で息をして。





「・・・・・・・・・・・・慣れ、た、んじゃ、なかっ、た、のか、よ・・・・・・・・・・・・」

ジャックにもエルにも、触られたってこんなふうにはならなかったのに。だから、慣れた、て思ってたのに。

「・・・・・・・・・・・・なん、で、わすれ、てない、んだ・・・・・・・・・・・・っっ」

シンクに。あんな子供に、触られたくらいで。殴られ蹴られ犯された時の感触を、思い出すなんて。

「・・・・・・・・・・・・な、さけ、な・・・・・・・・・・・・」

はう、と溜息吐いて。汚れた口元を手の甲で拭いながら。自嘲の笑みが浮かぶままに。





「――――――何が、情けねぇって?」





背後から掛けられた声に。

あたしは、驚いて振り返るしかなかった。






























おねにーさまは基本、他人とのスキンシップは極端に避けます。つか誰にも触らせないし自分から触るのも最低限。

何故なら・・・・・・ゴーカンされた記憶なんて、そう簡単に忘れられるワケがない。たとえおねにーさまでも。

物事あんまり深く考えない様にして忘れたフリしてても、奥の方では覚えてたんです。だから無意識に他人との接触を避けてた。

あ。水主は大丈夫ですよ。だって彼守護精霊ですし。

特務師団の皆さんも、彼等の頑張りとおねにーさまの慣れである程度は大丈夫。ガタイのイイ人相手は、構えますが。

でもソレ以外はダメ。だからシンクもダメだったんです。






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