「導師イオンが誘拐された」

その言葉を聞いた時、あたしは。

ああ、とうとう動き出したんだ、と思った。





「――――――導師イオンは、本当に誘拐されたのですか」

溜息吐きそうになりながら、ソレでも何とか堪えて聞いたあたしに、同僚の金髪美人さんは踏ん反り返る。

「モース様の言だ。間違いはあるまい」

いやだから。

「・・・・・・・・・・・・書簡は残されていたのでしょう。和平の仲介役としてマクルトの使者と共にバチカルに赴く、と」

ソレで何故誘拐だと。

「筆跡の粗さから、モース様は無理矢理書かされたのだろうと仰っている」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ダメだこの人聞く耳持たずだ。





あたしは今度こそでっかい溜息を吐いた。

ソレ見て金髪美人さんと大男さんは機嫌悪そうに眉をしかめるけど、しかめたいのはあたしの方だ。

銀髪死神と緑っ子と桃色っ子は、この2人にゃ何言っても無駄だ、て感じで我関せずだし。





「・・・・・・・・・・・・もし仮に、導師イオンが本当に誘拐されたのだとして」

ああ、ヤだヤだ。なんであたしがこんな損な役回り。

「その任務内容は、明らかに外交問題に発展するでしょう。ソレともモース様は、マクルトと戦争したいんですか」





投げやり気味に言ってみたら、はい?て顔された。うわぁ。もしかして解ってないこの人達?

「如何してそうなる」

・・・・・・・・・・・・うん。やっぱり解ってないんだ大男。おたくちゃんと脳みそまで栄養いってる?





「誘拐なら、導師捜索、保護は解ります。ですが誘拐犯の殲滅?普通、誘拐した意図を聞き出す為に捕らえるのでは無いですか。しかも今回、

相手はマクルトの者だと判明している。であれば、まずマクルトに誘拐犯の身柄をダアトに受け渡して頂く様手順を踏まなければ。他国の者を

勝手に罰する事は、幾らダアトの最高位でも出来ません。違いますか」





半眼でさら〜と流し見たら、大男はたじろいだ。

「・・・・・・それは・・・・・・」

お。言い返すつもり?

「そしてもし。コレが誘拐では無く、本当に導師がご自分の意志で和平の使者と現在行動しているのであれば。どう言い訳をするつもりです?」

「む、う」

ふふん。言い返せまい。

てゆーかまだまだ畳み掛けちゃいますよあたしは。





「ダアトの信託の盾騎士団、六神将総出でマクルトの軍艦を襲撃、殲滅。間違えましたゴメンナサイ、で済まされる問題で無い事は確かですね。

見方によれば列記とした宣戦布告ですよ。あちらは和平、という大義名分を持っていますし。二国が手を結ぶ事を良しとしなかったが故の敵対

行動、と深読みされる可能性すらある。その場合、ダアトはマクルトだけでなく、キムラスカすら敵に回す事になるのですよ?」





反論なんて許す間もなく言い切ってやった。どうだ正論だろう。

言い返せずにギリギリしてる金髪美人と大男に、さあどーだ、とばかりに腕を組む。

・・・・・・つか何ソッチのコッチに我関せずな人達。何その意外そうなあたしへの視線。





「だ、だが、預言にはダアトとマクルトの間で戦争は起こらないと」

あ。金髪さん言い返してきた。てゆーかソレって。





「・・・・・・驚いた。総長が改革派だから貴女もそうだとばかり思っていたんですが、リグレット奏手は遵守派だったんですか」

「っ、何故そうなる!?私はっ」

「預言に無いから皆殺しにしてもダアト・マクルト間で戦争は起こらない。それは、裏を返せば預言を信じているという事でしょう?」





あたしの言葉に、金髪美人さんは目を見開いて、次には盛大に顔をしかめた。いやいや、美人が台無しですよ。

てゆーか、言われるまで気付かないなんて。この人も脳みそに行くハズの栄養、全部胸に行ってんじゃなかろーか。





「・・・・・・預言を尊重するローレライ教団の信徒であれば、預言を遵守するのは当たり前でしょうけど。同時に私達は兵士、でもあります」





深々と。ほんっとーに深々と溜息吐きながら、あたしは言い聞かせる様に声を吐き出した。

「兵士が守るのは国と人でしょう?・・・・・・令に背かず意志を持たず。只国の剣であり盾であれ、とは良く言われますが」

ソレが兵士の本当の姿だと、鑑だと。でもあたしはそうは思わないんだよね。

「国主とは国の歯車のひとつであって国そのものでは無い・・・・・・思考を放棄した剣や盾に、守れるモノなど、何も無い」

心無い、意志無き力はタダの暴力だ。誰も守らない。何も救わない。傷付けるだけの、力だ。

「貴方達は何故兵士になったのですか。守りたいのは預言ですか。ソレとも国ですか。人の意志ですか。想いですか」





しん、と沈黙が降りた。





あたしのこの質問は、随分と的外れなモノだと思う。

預言に弟を殺された彼女。預言に家族を奪われた彼。守りたいと思っていたモノを、預言によって既に失っている人達。

――――――だから、破壊してしまえと極端に奔った2人。





だけど。だからこそ。考えれば良い。

的外れだろうが何だろうが。何だってイイんだ。どんな小さな事でも。些細な事でも。考えて。自分の意志で、考えて。

――――――その上で、ソレでも憎しみを手放せないってんなら。ヴァンと共に行くってんなら。

ソレはソレで、構わないから。





「――――もう一度聞きます。預言に詠まれていないから、とマクルトの戦艦を襲撃し乗組員を全て殺害する。コレは本当に戦争問題にはなら

ないと貴方達は本当に思っているのですか。だとしたら総長の、貴方達の言う預言からの脱却とは一体何なのですか」





ひた、と見据えて訊ねた先。

リグレットとラルゴは、口を噤んだまま何も言わなかった。






























かっぱの言いたい事おねにーさま代弁。ホントにね。良く戦争にならないモンだと思いましたよゲームでは。

殲滅するならするで、せめて自分達の所属がドコか解らない様に変装くらいするのが普通だと思うのはかっぱの気のせいですか。

てゆーか、てんてーだってリグレットだってラルゴだって、預言憎んで憎んで仕方ない人達ですが。

無意識下で預言に詠まれてないから、て考えはあったと思う。でなきゃ用意整う前にあんなムボーな事しないでせう。






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