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願いを込めた謳の効力の恐ろしさは、以前の世界で実証済みだ。 神々の愛し子と称される『あたし』の想いを、世界は受け止め叶えようとする・・・・・・ソレがどんな願いであっても。 まあ、ソコはあたしが変な願いを持たなきゃイイだけなんだけど。 そしてこの世界は、あたしを『あたし』と辛うじて認めたみたいで、音素ひっくるめ色んなモノが集ってきた。 けど、問題はやっぱり、あたしを縛る鎖だった。 コレが邪魔でロクに力を引き渡せなかった。願いを叶える為の対価――――――あたしの生命。その力を。 謳ってる最中凄かった。引っ張られる感じと押し込められる感じ。どっちも凄い強烈で、痛覚あったら多分あたしは絶叫してただろう。 「――――――れ?死んでない?」 だから、ぱかって目を開けて水主の顔を見て、一番最初に思ったのがソレだった。 しかも思わず声に出てたらしい。べしりと頭に一発頂いた・・・・・・・・・・・・イタイです。もーちょっと手加減してクダサイ。 その水主からの説明によると、無事に、とは言い難いけど、森は一応再生出来たそうだ。 何故一応、なのかというと、再生しきる前にあたしがぶっ倒れたから。 でも木々の成長速度は他の土地の比じゃないんで、後数年もすれば以前よりもワサワサとした大森林になるだろう、らしい。 驚きぶっ飛んで質問攻めしてきたアリエッタと(特に)シンクには、時間すら操るという第7音素の特性を上手く利用して誤魔化し。 倒れたあたしをダシに使って、サクッと逃げてきたそうな。 「だから嫌だったんだ。絶対こうなると解っていたのだから」 「・・・・・・・・・・・・ハイ・・・・・・・・・・・・」 「しかも俺は頑張ったぞ。ああ、頑張った。後先考えないお前の代わりに本性に戻りそうになるのを必死に堪えて今まで良く頑張った」 「・・・・・・・・・・・・重ね重ね、申し訳・・・・・・・・・・・・」 「全くだ・・・・・・今回ばかりは褒美を強請ってもバチは当たらないと思うが。ん?」 するり、と水主の手があたしの頬を撫でて、包む。 あたしは小さく苦笑すると、返事の代わりに、その手を口元まで引き寄せ、掌に唇を落として。 「――――――ちっ」 水主が舌打ちした。あたしから離れながら、険呑な目付きで睨め付けるのは、ドアの向こう。 きっと誰かがココに向かってるんだろう・・・・・・面倒ゴトにならなきゃイイんだけど。 あたしは溜息吐きつつサイドテーブルから仮面を取って、装着する。 ソレにタイミングを合わせた様に、こんこん、とドアが鳴った。 「――――――どうぞ」 ひっくい声で水主が促す・・・・・・うっわすっごい不機嫌。コワイコワイ。ヤミに怖いから。 ドアの向こうの人も感じたんだろう。しばらく躊躇う気配・・・・・・だけど結局、入る事を決意したみたいで。 細く開かれたドアの隙間からひょこりと出た顔の意外性に、あたしはちょっと目を丸くした。 「――――――アリエッタ響手・・・・・・ソレに、ディスト響士。どうか、なさったんですか?」 思わず聞くのも可笑しくないハズ。だってあたし副師団長さんかジャックかエル辺りだと思ってたのに。 ・・・・・・・・・・・・てゆーか、誰の気配か解らなかった、だなんて。まだちゃんと感覚戻ってないなぁ。 まあそんなのはココぞとばかりにがっつり休養取って体力気力元に戻せば治るだろうからおいとくとして。 あたしは背中を預けていたクッションから上体を起こそうとする。 「そのままで結構ですよ、アッシュ響士・・・・・・アリエッタの母親の住処を元に戻して下さった貴方に、お見舞いがてらお礼に来ました」 だけど片手を上げて止めたのはディスト。彼はそのまま、もう片方の腕、てゆーか背中にアリエッタをへばり付かせて静かにドアを閉めた。 「それにしても・・・・・・医師からカルテを見させて頂きましたが。無茶をしましたね、貴方」 ・・・・・・あー。アレ見たの。なんかフォンスロットがズタズタとか衰弱ものすごいとか書かれたアレを。でソレが何か。 「第7音素術師としての素養が人より高いと言っても、随分と過度な無茶だ・・・・・・貴方、一体何を考えてるんです」 あ。ディストの声が硬くなった。てゆーか、何を考えてる、て言われても。 「カルテは過去のものも全て拝見しましたが・・・・・・この7年間、フォンスロットが完治している期間が一度としてありませんでした」 「そうなんですか?ソレは知らなかった」 「・・・・・・貴方色盲だそうですね。視力自体、殆んど見えていないと聞きましたが」 「人と魔物の区別は着きますよ?」 「・・・・・・・・・・・・任務先で他者を庇って怪我をするのはもう恒例事項と」 「一応彼等の命を預かる身ですし。誰だって痛いのは嫌でしょう?ですが私には痛覚がありませんから」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・以前の第5師団と合同の魔物討伐から、毒の後遺症が神経に出て未だ治っていないんですってね」 「ああ。解らなくなったのは味覚だけですし。任務や日常生活に然程影響は出てませんよ」 「っ、貴方の肉体は酷使され過ぎて回復が追い付いていない。ココまで来ると異常だ。ワザと痛め付けているとしか思えないんですよ」 サラッ、と。質問のことごとくに返答を返していってたら、とうとうディストがイラッとした声を出した。 しかも、思えない、と言いながら、ソレは既に確信で断定だ。 そんなディストの背後に隠れる様に、ソレでもあたしを窺ってるアリエッタ・・・・・・ををう水主。シワ。眉間にシワ寄ってるよ。 「――――――死にたいんですか、貴方」 「――――――・・・・・・・・・・・・だったら?」 探る様に低く口にしたディストに、あたしは口角を引き上げた。 その答えに、ディストは目を瞠りアリエッタは息を呑みながらディストの服の裾を握る手に力を入れ。 ・・・・・・・・・・・・いや嘘ですからね水主。死にたいなんて思ってませんからね。 ピキンと凍ってしまった空気に、返答間違った、と思う。 「・・・・・・冗談です。別に好き好んで死にに逝こうとしている訳ではありませんよ・・・・・・生きていたいとも思ってませんけど」 ああああだから睨まないで水主。『アッシュ』として生きてく気が無いって意味だから。何時か絶対元に戻るつもりで言ってみただけだから。 「ただ私は。使えるモノが其処にあって、ソレにより助かるモノがあったから。だからただ使っただけに過ぎません」 だけどあたしの言葉は、凍った空気を元に戻す事は出来なかった。 「・・・・・・ソレが・・・・・・ご自分の、身体や――――――命、で。あっても、ですか」 震える様な声で。呟きながらディストは俯く。さらり、と銀の髪が表情を隠して、そーいやこの人今日ヒラヒラな服じゃないな、と思う。 思いながら、何を今更、とにっこり笑った。 「私が使えるものなど、元々ソレしかありませんよ」 |
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おねにーさまは今の姿にも生活にも執着してません。 どう転んだって周囲の人の目には『アッシュ』としか映りませんからね。だから、別に何時死んだってイイや、とか思ってます。 むしろ死んだら呪縛から逃れて元に戻れるかも、とか思ってます。だからどんな無茶もやってのけてしまう。 その行動は、事情を知らない人から見たら生き急いでいる様にしか見えないんですが、おねにーさまソレに気付いてないんです。 |
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