一過性のモノかと思ってたけど、結局あたしの味覚は戻らなかった。

半ば諦めてはいた事だけど、そうと確定してしまってからのあたしは、それはそれはもう荒れに荒れまくった。

なんせこっちの世界にワケも解らず引き摺り込まれて『アッシュ』になってから、あたしには食べる事だけが唯一の楽しみだったから。





だってこの世界、ゲームもマンガもないんだもの。

娯楽小説はあるにはあったけど、そんなん軍部の書庫にあるわきゃないし。自分で買おうと思ってもけっこー高いし。

中身がもうイイ年したおばちゃん(おじちゃん?)だから、子供と混ざって遊ぶなんて選択も沸かなかったし。何より置かれた状況が状況だ。





リンチやレイプされない為に訓練訓練また訓練。一般教養覚える為に寝る間も惜しんでお勉強。

やっと落ち着いたと思ったら、走りたくもない出世街道まっしぐら。日々積み上げられる量が増していく書類の山。

食い気に走っても可笑しくないと思う。うん。

なのにその唯一の楽しみを楽しむ事が出来なくなって、荒れない方がおかしいってモンでしょ?





しかもソレだけじゃない。『ルーク』に関して、有力な情報が入って来ないってのもあたしの不機嫌に拍車をかけた。





あたしがダアトを離れられる理由は大抵任務。しかも何故かキムラスカ方面での任務は入って来ない。

たまに国境近くで任務があるけど、ちょっと誤魔化してバチカル行こうとしたら直ぐに新しい任務が入ってダアトに戻らざるを得なくなる。

3日を超える長期休暇の申請なんかは速攻で握り潰され。自由に行動できる時間は限られて動くに動けない現状だ。

・・・・・・ちくせう。あのヒゲどんだけあたしをダアトに詰めさせときたいんだ。





水主は水主で、一定以上あたしから離れると今の姿を保てなくなるし。

アレから続けて、水に潜んで緑っ子達の密会の様子なんかは窺ってもらってるけど、コレといった新しい事は出てこない。

多分あの子等も、ヒゲの事を警戒してるんだろーなぁ・・・・・・





そんなこんなで、あたしはイロイロ、ほんっとーにイロイロ、色んなトコで八つ当たり全開だった。





提出する書類の文面に皮肉が入るのはまだ序の口。

差し入れなんかされても味が解らない分見てるとムカつくだけだから、持ってきた本人ごとさっさと部屋から放り出す。

ずっとイライラしっぱなしだから、声とか掛けられても煩わしく感じてしまって自然と対応にも険が雑じる。

戦闘時には凶暴性アップだ。日頃の鬱憤ここぞとばかりに晴らそうとするから、容赦の欠片もない。

――――――周囲の人等があたしを避けて通る様になるのも解りますでしょ。





そんなこんなで何時の間にか、あたしは冷徹・冷酷・無慈悲と、三拍子揃った冷血漢だと影で囁かれる様になっていた。

ソレを耳にしたのは偶然。言っていたのは他の師団の団員達で、特務師団のヤツ等もあんなのが上司で可哀想に、と言ってた。

・・・・・・まあ確かに可哀想だねあの人達も。未だにあたしの辞退届受理されないし。





そんな事を思いながら歩いてたら、あたしに気付いた彼等は、壁際に寄ってそそくさと早足で逃げてった。

その姿にこめかみヒクリとさせながらも、あたしは目当ての人物を探す。

この時間帯なら多分この辺に――――――あ。いた。オマケも付いてるけど。





「・・・・・・アリエッタ響手」

渡り廊下から声を掛けたら、中庭でお供のライガとシンクと何やら楽しそうに喋ってた彼女は、びくり、と肩を震わせた。

同時にあたしを認めたライガが低く唸って、シンクから刺す様な敵意が向けられる。

しかもアリエッタはシンクの後ろに隠れた・・・・・・そんな警戒しなくてもイイぢゃないか。





「アリエッタに何の用さ、紅華」

・・・・・・うをうやめて。あたしけっこーそのあだ名キライ・・・・・・って、ワザとなんだろうけど。

「・・・・・・彼女の使役する魔物を、貸して頂きたいのですが」

「嫌だね。自分とこの部下を使いなよ」

うわ即答。つかアンタに聞いてんじゃないよシンク。

「・・・・・・・・・・・・ソレが出来ないので、頼みに来たんですが。一頭だけで良いんです。お願い出来ませんか」





溜息混じりに言ったら、じとっと黙られた・・・・・・いやんナニ今度は放置プレイ?

「・・・・・・どうして、部下たち、使えない、ですか」

あ。アリエッタやっと口開いた。あたしと視線合わせようとしないけど。





「彼等は今、それぞれ任務でダアトを離れています。ですが今し方、新しい任務が急遽入りまして」

コレほんと。動ける人達みんな出払って、残ってるの戦闘に自信のない団員だけ。んであたしは書類と奮闘する為水主と一緒にお留守番。

そんなトコロに舞い込んで来た新しい任務。気分を変えるには持ってこいなんだけど・・・・・・場所がちと遠いのさ。

「マクルト領の森で原因不明の火災が発生したので急ぎ調査を、という任務なのですが。向かおうにも何分足が無く」

だからアッシー代わりに一匹貸してクダサイ。・・・・・・て、サラッと事情を説明したつもりだったんだけど。

・・・・・・・・・・・・なにゆえソコで2人揃って固まる。





「――――――ちょっと待って・・・・・・・・・・・・火災?何処で?」

困惑気にシンクが聞いてきた。

「・・・・・・マクルト・・・・・・森・・・・・・?大森林・・・・・・?」

アリエッタがぶつぶつ呟く。その足元では、ライガも何故かぐるぐるしてる。





ワケ解んなくてしばらく2人と一匹を見てたら、何を思ったか2人は顔を見合せて。

「フレスベルク、で。いいです、か。いいです、ね」

キッ!!と。睨み付けんばかりの勢いで・・・・・・いえ実際睨み付けて、アリエッタが聞いてきた。てゆーか断定してきた。

「それで、何時行くの?直ぐ行くの?今から行くんだよね。僕等も着いて行くから」

急かす様に続けてシンクが言って・・・・・・って待て待て。何故そーなる。

「・・・・・・フレスベルクで構いませんし直ぐに発ちますが・・・・・・何故貴方方まで」

溜息混じりに言ってみたら、シンクとアリエッタは早く早くと急く気満載で。





「マクルトにある森と言えば北の大森林だろ?」

「そこ、アリエッタのママ、住んでる、です」





――――――ちょっと待て。





2人の言葉に、今度はあたしが固まる番だった。






























特務師団の任務って、主にローレライ教団の闇部分を担う様な任務の方が多いかと思う。預言通りに死ななかった人の暗殺とか。

でもおねにーさまは、預言に外れたから殺すっておかしくね?な考えの持ち主ですから。副師団長にお願いして誤魔化してます。

特務師団員達も預言至上じゃないし、おねにーさまと同じくおかしいんじゃね?と思ってるんでその辺は協力的。

日々暗殺せずに隠蔽工作とかに奔走してます。

あとなんかしょーもない雑務みたいなのも色々入ってくる。なんせ特務ですから。

だからダアトに居残りの特務師団員は休暇取ってる人と連絡係の人くらいしか常時いないんです。






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