討伐任務は、いちおう、完遂した。負傷者はたんまりだったけど、水主を筆頭に治癒師が頑張ってくれたから、死者は出なかった。

・・・・・・・・・・・・あたしはあの後寝込んで3日3晩生死の狭間を彷徨ったけどね。





だってふつー思わないじゃん!?あの時掠った蜘蛛もどきの脚が猛毒まみれだったなんて!!

しかもアレ、イレギュラーっしょ!?予想なんてできないっしょ!?

今のあたしだってある程度身体を毒に慣らしてはいたけど、ソレよりも強い毒性持ってたなんてあの時点じゃ解らないじゃん!?





「倒れた原因はソレだけじゃない。お前があの時使った技、何処ぞの戦士のものかは知らないが、可也の大技だろう」

「・・・・・・あー。うん。とある世界にいると思われる死神の、隊長格のヒトが使ってた奥儀だから」

「発動にオーラを根こそぎ毟り取られていたぞ」

「・・・・・・・・・・・・げ。まぢ?」

「本当だ。お陰で俺まで一瞬本性に戻り掛けた。配分が上手く出来ないのなら『三千世界の復元』はもう使うな」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ご、ごめんなさい。」





水主の絶対零度の視線がそりゃもお怖かった。

しかも水主、あたしが目を覚ますまで、誰もあたしに近付けさせずに一人っきりであたしを看病してたらしい。

見られて困るモノあるからね。例えばあるハズの顔の傷が無いとか無いとか。

サスガにてんてーが見舞いに来た時は断り切れなかったから、あたしに幻術掛けてやり過ごしたらしいけど。

ソレに、『舞扇』の事ものらりくらりと誤魔化してくれたそうな・・・・・・うう、ホントに頭が上がりません。





そんなふうに、起きて早々説教をされたあたしは、お医者様の問診の最中に特務師団員達の怒涛の突撃を受けた。





いやもおジャックはイノシシみたいに突進してきてがつんとあたしのお腹に頭突き喰らわすし。

師団内の頭脳と呼ばれて参謀を務めてるアレクセイ・リーザルさんにはくどくどくどくど、お説教第2弾を受けるし。

エルにはぎうぎう抱き付かれて窒息しそうになるし。サルバスやビル副師団長に至っては男泣きされるし。

先生が、彼はまだ病み上がりなんですから!!て注意するまで、彼等はぎゃいぎゃい五月蠅かった。





んで。あたしがまだ病み上がりだから、て事で早々に退散した彼等の次には、ちょーどダアトに戻って来てたらしいカンタビレさんが来て。

また無茶をしたねとか言われて何か欲しいものはあるかいと聞かれて、いえいえご好意だけで充分ですと丁寧に辞退して。

やっと帰ったと思ったら今度はてんてー。任務中に折れた剣の代わりに、て新しい剣とお見舞いの定番果物籠を持ってきて。

やっぱりてんてーも短く無理はするなとだけ言って、だけど直ぐに帰ってった。『舞扇』の事には、触れられなかった。





やっとホッと一息吐いた時には、もう日はとっぷり暮れてた・・・・・・やばいよ。夕食食いっぱぐれたよ。

寝過ぎでだるいし、さっきまでの突撃やら何やらのお陰で疲れもピークだけど、お腹だって空いてるのに。





「果物でも食べるか?」

「・・・・・・うん。食べる。」





水主が聞いてくれて、ソレにあたしはコクンと頷いた。

ナイフを取ってくる、と水主が椅子から立ち上がる――――――ソコへ鳴った、こんこん、というノックの音。

「・・・・・・・・・・・・誰だよこんな時間に」

思わず舌打ちが出てくる。くそう、やっと面が外せると思ったのに。

しかもお見舞いにしては非常識な時間帯だなつかコレ以上あたしを見舞う人間なんていたっけか。





露骨に眉をひそめた水主も、ドアを睨み付けて。

「――――――お邪魔するよ」

だけど、コチラの返事も聞かずドアを開けて入ってきた人物に、目を見開いた。





「・・・・・・何だ、ホントに生きてたんだアンタ」

あたしを見るなりシツレイな事をかました緑の髪の仮面の子に、水主の目がすぅ、と細められる。

「コレはコレは第5師団長殿。こんな夜更けに響士の私室へしかも返事も待たずお入りとは。余程火急の用が発生したとお見受けします」

ああああ。落ち着いて水主。ケンカ腰にならないで殺気滲ませないで。

「ですが生憎響士は病み上がり。差し支えなければ、不詳この特務師団部隊長ワルター・デルクェスがご用件を承りますが」

つか売ってるソレ!!完璧ケンカ売ってるから!!まだツンツンだったハズのシンクの雰囲気が更に刺々しくなったじゃないか!!





「・・・・・・・・・・・・ワルター」

お願いだから。あたし今疲れてんだから。火花散らすのやめてホントに。

あたしがでっかい溜息吐いて、水主を呼びながらひらり、と手を振ると、ソレに不服そうな顔をして、それでも水主は口を閉ざして下がる。





「・・・・・・・・・・・・私の部下が、大変申し訳無い態度を」

「全くだよ。躾はちゃんとしてよね」

――――――かっっっ、つぃーーーーん。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・っっ、いや。いやいやいや。ココはガマンだあたし。落ち着けあたし。相手は0歳。怒るな大人気ない。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・シンク謡士は、どの様なご用件で此方に?」

仮面の下のこめかみピクピクさせながら、どーにかこーにか口元だけは笑みの形を保たせて。

「別に来る気無かったんだけどね。でも一応、助けられた、って形になるし。周りが行けって煩いし。だから見舞いに来たんだよ、紅華」

ソレに対するシンクの答えはやっぱりかっちんかっちんクるものでしたが・・・・・・ん?んん?

「・・・・・・・・・・・・くか・・・・・・・・・・・・?」

って何?





思わず首を傾げたら、シンクがえ?て漏らした。

「ナニ、アンタ知らないの?自分の事なのに?」

しかも呆れた様なモノ言いだ。

首を傾げながら水主を見上げると、水主はあたしと目を合わせない様に明後日の方向を向いていた。





ソレを見てたシンクが溜息を吐く・・・・・・何だ、ホントに何だってのさ。

「アンタの二つ名。紅い華と書いて『くか』。アンタ自身そんな感じだし、敵に紅い血の華を咲かせるからって。結構前からそう呼ばれてるよ?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・え。うそ。まぢ?あたし機械人形て呼ばれてんじゃなかったの?





思わずもう一回、今度はバッ!!と勢い付けて水主を見上げる・・・・・・まだ明後日の方向向いてるあたり、コイツ絶対知ってたな。

「噂には聞いてたけど、ホントに周り見てないんだね、アンタ」

呆れ混じりのシンクの言葉に、あたしは何も言い返せなかった。






























おねにーさまの二つ名決定しますた。

てんてーから習ったアルバート流だけなら、まあパワー重視の実用的な剣術だし『鮮血』なんて異名付いても可笑しくはないだろうけど。

でもおねにーさまは今まで扇術メインな戦い方してて、スピード重視だったので。

生前の癖と教えて貰った剣術と。けっこー色々アレンジして戦ってたりしてたら、『鮮血』以外の異名が付いても可笑しくないと思うのです。






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