予想に反して、甘いの大好き、であたしをからかってくる人はいなかった。

どころか、執務室に来る人みんなが来るたびにお土産を持ってくる様になった。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん。何でだろう。

みんな、上司の覚えをめでたくして、その権力にあやかろうってセコイ性格してなさげな人達ばっかなのに。

つかあたし上司としての仕事放棄してるし。未だにほぼ毎日辞任表出しに行ってるし。

そんなあたしなんかに取り入ったって一文にもなりゃしないって解ってるだろうに。

・・・・・・や。タダでくれるって言うんだからもらってるんだけどね。





そんな事がまたもや日常化していた今日この頃。ビル副師団長が、お菓子と一緒に任務を持って来た。

どうやら、ばったり廊下で出くわしてしまったてんてーに、あたしんトコに持ってってくれって言われたらしい。

・・・・・・あの人直々に任務だなんて、なんてイヤンな予感・・・・・・なんて思ってたら、ドンピシャだった。





その任務は、最近妙に活発になってる魔物の討伐。辻馬車なんかに被害が出てるんだそうだ。

ソレは良い。暗殺やら裏工作やらより断然良い・・・・・・問題は、後に続く文。

討伐隊のメインは第5師団。最近ソコの師団長になった人のフォローに回れ、とな。

しかもその師団長の名前が・・・・・・あの子、だった。





驚きましたよそりゃあもお。

だってあの子、助かったハズだ。誰だか解らないけど、解らなかったけど、ちゃんと助けられてたハズだ。

なのに何で師団長。あたしとは形の違う仮面を被って。何であの子――――――シンクは今、あたしの目の前にいるんだ?





「・・・・・・・・・・・・アンタが、アッシュ?」

「・・・・・・・・・・・・ええ。今回の合同任務、宜しくお願い致します」

「ま、一応ヨロシク?って言っても、アンタ達の出る幕なんてないだろうけどさ」





ぐるぐるとしながらも挨拶だけはきちんと返せたあたしに、シンクはフンと鼻で笑って踵を返す。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ。なんか流石あのオリジナルのレプリカ、て思ってしまった。

シンクの物言いに、ウチの副師団長も部隊長もかっちーんてしてるし。

そんな彼等を宥め賺して、今後の行く末に思いを馳せる・・・・・・無事に終わってくれればイイなぁ。





――――――なんてあたしの祈りも無駄でした。





魔物出現ポイントには難なく辿り着いた。ケセドニアにけっこー近くて、確かにこの辺りじゃ辻馬車襲われるのも当たり前だわなと思った。

出てきた魔物は群れだった。数はあれどコッチも第5・特務と総出。しかも統率キレーに整ってたから、時間掛かったけど撃破出来た。

・・・・・・なのにその後に出てきたのがラスボス級ってありえんでしょ!!しかもまぁたワラワラと雑魚キャラまで湧いて出やがって!!





一度は討伐任務が無事終了したとホッと一息吐いたトコに、そんなのに出て来られたもんだからたまらない。

果敢に向かっていく団員さん達だけど、さっきの戦闘の疲れを引き摺ってる状態ではそんなに保たない。バッタバッタと負傷して倒れてく。

シンクが、ウチの副師団長が、拳を振り上げラスボス級のでっかい蜘蛛もどきに向かって行った。

だけど蜘蛛もどきはでっかい身体に似合わぬ俊敏な動きで彼等の拳を交わして――――――げっ。アイツ串刺し狙ってますか!?





がきぃん!!――――――と、歯に響く様な嫌な音がした。

シンクの前に滑り込んで受け止めた蜘蛛もどきの脚は、ソレはソレは硬かった。





「――――――な!?アンタ――――――!!」

「引きなさい!!」

避難じみたシンクの声も聞かず、そのままあたしはギンギン剣を打ち付ける。

「師団長!!左!!」

叫んだエルの声に反応して、剣を振り――――――きぃん!!と、イイ音を立ててその剣が根元から折れた。

げげげっと思ったのも束の間、あたしは身を翻して振り下ろされた蜘蛛もどきの脚を避ける。

けど完全には避けきれなくて、あたしの腕に熱が奔った。





あたしは眉を顰め、折れた剣の柄を蜘蛛もどきに投げ付けながら、横で構えを取ってるシンクを引っ掴み抱き上げて、大きく距離を取る。

「ちょっ、アンタいきなり何!!降ろしなよ!!」

ぎゃいぎゃい喚くシンクなんてどこ吹く風。部下達が固まって行動してるトコまで下がって下がって。

「ワルター、治癒師を集めて負傷者達の対応を。ロズウェス副団長、貴方は部隊を立て直し、他の魔物の相手を。無理はしないで下さいね」

じりじりと、魔物を牽制しながらあたしに寄ってきた守護精霊と部下に、返事を望む事無く言い捨てて。

ぺい、と第5師団の副師団長らしき人物の横に、シンクを放る。またぎゃいぎゃい喚いてるけど無視だ、無視。





あたしは常々動きにくいなぁ、と思ってた師団員の法衣を脱ぎ捨てた。アンダーに着込んでたのは、例のごとく念具化してる服。

で。何でもない様にひらりと両手を翻せば。以前成功したコンタミネーションで、あたしの両腕に収められてた、2本の鉄扇。

――――――・・・・・・・・・・・・こんな時に使わずして何時使う。





驚いてあたしを凝視する周囲の事も気にせず、あたしは『舞扇』をだらりと両脇に下げた。

ゆらり、と一度身体を揺らして――――――眼前の蜘蛛もどきに突っ込む!!

振り上げられる脚を難なく交わし、受け止め。距離を詰めて。詰めて詰めて。とん、と跳躍。

そして開いた刃を振り降ろせば、剣を弾き折った脚が一本、ぶしゃあ!!と盛大な血飛沫を上げて地面に落ちた。





痛みに咆哮を上げる蜘蛛もどき。ぬるりとした体液があたしの顔に身体に振り掛かる。

8つの紅い目があたしをロックオンして。あたしは、にぃ、と口元を歪めてソレから少し距離を取った。

『舞扇』の強度はアレよりも上。だったら試すには丁度イイ。ちまちま一本ずつ脚を落としていくより、一気にカタも付きそうだ。





「――――――『三千世界の復元』」

あたしは小さく呟いた。魔物の咆哮と剣戟で、誰の耳にも届かないハズだ。

ソレから『舞扇』を逆手に持ち替えて。腕を伸ばして天の部分を地面に向ける。

さあ、綺麗に発動してくれよ。





「――――――散れ、千本桜」





静かに滑らかに平坦に。口にした言霊は念の力を借りて。

あたしの望み通り、『舞扇』はかの死神の奥儀を模して、桜の花弁の様に華麗に舞った。






























原作シンクも中々な不幸体質だと思う。でも生まれて未だ2年しか経ってないのに中身カラッポだーってんなこた当たり前だとも思う。

ロクに人生経験ないのにナマ言ってんじゃないよこのお子様がとか思う。イヤ初っ端から殺されかけーの壮絶人生の子ですが。

まあ育った環境がアレで視野が狭くなってたてのもあるし。あの子があーなったのは周りの大人達の所為でもあるけども。

ツッコミどころは色々満載だった。でもこういう子って、かっぱ的にはすっごいオイシイて思ってますが何か。






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