最悪な顔合わせから約半年。

あたしは未だに、特務師団師団長、の肩書を背負っていた・・・・・・不本意ながら。

自分では役不足だ、経験が足りない、人の上に立つ柄じゃない、えとせとらえとせとら。

そんな文句と一緒に辞任表をてんてーのトコに持ってって却下されるのが、日常化してる。イヤな日常化だ。





んで、あたしの事を色眼鏡で見てた師団員達の方は、何故か落ち着いてる。

あたしに言い返してきたあのビル・ロズウェス謡手に副団長になってもらって、彼と彼の選んだ部隊長の元、師団は立派に機能してる。

あたしは彼等に、上層部から貰って来た指令書を渡すだけ。師団長のサインが必要な書類だけ、一応目を通してサインする。

最初にガツンと言った所為か、滅多な事でもない限りあたしには近付いて来ない・・・・・・と、思ってる。





「しだんちょー、そろそろ休憩入れませんかー」

・・・・・・そう、滅多な事でもない限り・・・・・・

「というか、良く朝から晩まで書類を前にして嫌になりませんね。私だったら逃げ出しますよコレ」

・・・・・・・・・・・・滅多な・・・・・・・・・・・

「こら、師団長の邪魔をするなよ、お前等。・・・・・・ですが流石に根を詰め過ぎです。ジャックではありませんが、一息入れませんか師団長」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・めった、な・・・・・・・・・・・・・・・・・・





「邪魔するぞ、アッシュ・・・・・・・・・・・・・・・・・・と、こんな処にいたのかお前達」

控え目なノックと共に、返事も待たずに入ってきた水主が、あたし以外の3人に目を向けて呆れた声を出す。

「部隊長が3人も揃ってサボリとは。良い御身分だな」

しかもつめたーい視線で見下ろす様に吐き捨てる・・・・・・なんだ、水主この人等の事嫌いなの?





「サボリだなんてそんな。僕等はただ師団長と一緒にお茶しようと思って昼休憩の合間を縫ってだね」

「そうそう。決してさぼってるワケじゃないのよ。師団長、放っておくと昼食も食べないで書類に掛かりっきりなんだもの。だから、ね」

「というかワルター。お前何故師団長の事を呼び捨てなんだ。上司に対してその言動は些か度を越していないか」





だけど水主の冷たい視線も何のその。

可愛らしい外見のジャック・ミール謡手も性別不詳のエル・リオ奏手も面倒見良さ気なサルバス・デュレイ響手も、けっこー神経図太いね。

「・・・・・・アッシュとは付き合いが長いからな。公の場ではちきんとしてるんだ。お前達にとやかく言われる筋合いは無い」

そしてサルバスに痛いトコ突かれた水主は、溜息吐きながらソレだけ言い返す。じとっとあたしを睨みながら。

・・・・・・・・・・・・うんゴメン。エルの言う事ホントでゴメン。





あたしは溜息吐きながらコトリと羽根ペンを置く・・・・・・なんかコレ以上は本格的に邪魔してきそうだからだ、この人等。

「・・・・・・で、貴方は私に何の用ですか、ワルター」

あたし今疲れてるんだよこの人等の言う事右から左に流すのに。だから用事あるならさっさと済ませてお願い。

そんなあたしの気持ちを察して、でも言い難そうに水主はしばらく視線を泳がせてから、持っていた箱をちょい、と上げて。





「・・・・・・あー、良いリンゴが手に入ってな。パイを焼いたんだが」

「っ、食べる!!」





身を乗り出して即答――――――してから、あ、と固まった。

そろそろ〜、と。顔は動かさないまま視線だけを動かせば、ちょっとびっくりした顔の部隊長達の顔。

・・・・・・ソレが、次の瞬間にはなまあたたかーい表情になった。





「しだんちょー、甘いモノ好きなんですかー?」

・・・・・・ええ、好きですよ。好きなんですよ文句あっかこんちくしょー。

「あらやだ、そうならそうともっと早く言って下されば良いのに。私美味しいスイーツ店知ってるんです。今度一緒に行きましょ?」

・・・・・・・・・・・・ぐっっ。美味しいスイーツのお店・・・・・・・・・・・・いやいや、惑わされるなあたし。揺らぐなあたし。

「明日此処へ来る時にはお茶菓子も持ってきましょうか」

いやいらない。いらないから。そんな気遣いいらないから。





今度はあたしが水主をじとっと睨む。水主は明後日の方を向いて視線を逸らした。

・・・・・・つか確か水主だって一応部隊長だったハズだ。本人嫌そうだったけど。

部下ほっぽってパイ作りしてたんですかこの人。人の事サボリだなんて言えないよこの人。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・宝玉至上主義だから人間の事なんてどーでもいーんだろうけど。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・休憩に入ります。ワルター、準備をお願いして良いですか」





あたしはでっかく溜息を吐いて、席から立った。

機械人形だとか言われてるあたしの嗜好が甘味だなんて、言い触らされてからかわれるのもイヤだけど。

背に腹は代えられん!!だってちょー久しぶりの水主の手作り!!

一番はやっぱりのだけど、あたし好みのスイーツ作ってくれる水主のも美味しいんだ!!





水主は二つ返事をしてから、執務室の隣に備え付けられている簡易キッチンに入っていった。

そしてあたしは、机の上の書類を片付けて、部屋の端に置かれた応接セットもどきへと向かう。





長方形のテーブルを囲む様に、二人掛けのソファが対面式に置いてあって、上座に一人掛けのソファ。

ジャックとエルは壁側のソファに陣取ってるから、あたしは一人掛けソファに腰を降ろして。

机の横に立っていたサルバスも、倣う様にジャックの向いのソファに座る。





「どうぞ、師団長」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・有難うございます」

エルが紅茶を淹れてあたしの前にカップを置いた。

「ほら、アッシュ」

「有難う、ワルター」

水主がトレイ片手に戻ってきて、こんがりとキツネ色に焼き上がってるんだろうパイの乗る皿を渡してくる。





早速受け取ったフォークで切り分けて、ひとかけ口に入れる。

〜〜〜〜〜〜っっ。コレだよコレ!!思わず口元も緩んじゃうってモンさ!!





にこにこしてたあたしは、だから気が付かなかった。

そんなあたしの事を見ていたジャックがエルがサルバスが。

何だか哀しそうに、目を伏せた事を。

































師団員の中には、ちゃんとおねにーさまの事を理解しようとしてる人もいるんだぞ。

でもおねにーさま基本鈍いし今回の世界ではけっこーイタイ目も見てますんでね。

以前、誰も近付けさせないって決めたのは未だに有効だし。

ずっとこの世界にいる気も『アッシュ』でい続ける気も無い、いつか絶対自分に還るんだ、て思ってるから尚更です。









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