あたしは再び、独り、に戻った。 訓練なんかで絡んでくるヤツ等に、以前はあった容赦の「よ」の字も掛けなくなった。 中にはホントに純粋に、腕試しであたしに挑戦してくる人もいたけど。 淡々と。事務的に相手をするあたしに、何時しか誰も絡んで来なくなった。 任務先では上官に単独行動を願い出た。 上官はあたしが他人を拒絶している事に気付いて渋い顔をして。だけどあたしに着いていけるだけの力を持った部下なんて他にいなくて。 結局、誰かと組ませても能力の差があり過ぎて逆に任務の達成率が落ちるから、て事で1人での行動を許してくれた。 水主はあたしの気持ちを汲んで、近付きも話し掛けもしなくなった。 話したい事とかあっても、まず擦れ違ったりする時にこっそりメモを渡したりして。顔を合わせるのは真夜中にほんの少しだけ。 昼間は、時折あたしを心配そうに見詰めるだけになった。 たまに顔を合わすカンタビレさんの個人指導は、丁重にお断りした。 コレ以上の迷惑は掛けられないし、身を守るだけの力はもう着いたからって。 「今まで、ありがとうございました」 「・・・・・・ああ。でも、何かあったら頼っておいで。力になるから」 笑いもせず平坦に言ったら、カンタビレさんは寂しそうに傷ましそうに、だけど最後にそう返してくれた。 あたしは、拒絶はしなかったけど頷きもしなかった。 ヒゲ・・・・・・てんてーとは相変わらずだった。 お前は本当に頼りになる部下だ、私だけは何があってもお前を傷付けない、そんな甘言を吹き込むかと思えば。 お前の弟は父親は今はどーのこーの、と憎悪を煽り立てる様な事を言ってくる。 あんた一番最初憎しみ以外のなんちゃらかんちゃらとかって言ってたんじゃないのかソレはどーなったのなんて突っ込みたかったけど。 この時のあたしは、突っ込み入れる程の気力なんて、湧いてもこなかった。 溜息吐く事すら、しんどかった。 ――――――ぶっちゃけ、もうホントに何もかもがどーでもいーや、なんて思ってたんだ。 だから。 偶然バッタリダアトの最高位を見付けてしまった時は、うわめんどくさー、て思いっきり方向転換したくなった。 けどバッチリ目ぇ合っちゃったもんだから、一度は閉めた扉をもう一度開いて、クロゼットの中に隠れてたらしい子供に、声を掛ける。 「・・・・・・・・・・・・こんな処で何をなさっているんです、導師イオン」 「・・・・・・貴方には関係の無い事でしょう。寧ろ貴方の方こそ、こんな処に何をしに来たのですか」 ――――――・・・・・・・・・・・・うーわーぁ。かぅわいっくねー。 仮面の下で眉間にシワ寄るのを感じながら、あたしはサラッと言い返す。 「導師にご報告差し上げなければならない程の事ではありません」 そしたら、可愛らしいのになんか腹黒く感じる導師の顔が、微妙に歪んだ。 ・・・・・・そーいや、今日は朝から何かダアトの中が慌ただしかった。 だからあたしは1人静かに過ごせる場所を探して、やっとこの埃まみれの空き部屋を見つけたのに。 ――――――導師守護役撒いて何してんだこの人。 ふ、と思ったトコロで、導師は急にけほけほと咳をする。 じっくり見れば顔色が悪い。なんだかヤバ気な汗も掻いてる。 ・・・・・・そりゃこんな埃だらけの部屋、余命いくばくって病人には辛いだけでしょ。 あたしははう、と溜息吐いて、導師がクロゼットから出られる様に身体を離そうとして。 ――――――なんか、すっごいイヤな匂いに気付く。 と、同時に。閉めた筈の部屋の扉がキィと開いて、思わず導師をクロゼットと自分の影で隠しながらそっちに目をやった。 けど、警戒は杞憂に終わった。 「マ、・・・・・・アッシュ?」 あたしを見るなり目を丸くして、あたしの影にいる人の気配に呼び方を正して。 「す・・・・・・ワルター」 団内でワルター・デルクェスという偽名を使っている水主は、きょろ、と部屋の外を一度確認してから、静かに室内に身を滑り込ませた。 「――――――こんな処で、何をしているんだ?」 「・・・・・・周りが騒がしかったから。1人で静かに出来る処を探していたんだが・・・・・・」 首を傾げて訊ねてくる水主に、あたしはちらり、と背後に視線を送りながら答える。 一拍後、再び咳き込み出した声に、水主はソコにいるのが誰だか解ったみたいで。 「導師イオン!何故・・・・・・いや、こんな処にいらっしゃったのですね。導師守護役が心配しています。早くお戻り――――――」 「ストップ」 駆け寄って、導師の肩に手を置いて顔を覗き込む水主に、待ったを掛けた。 「・・・・・・何だ、アッシュ。導師イオンはお身体が弱いんだ。こんな場所に何時までも・・・・・・」 「気付かないかワルター。この、匂い・・・・・・導師から、だ」 言い掛けた言葉すら、遮る様にあたしが勘付いた事に意識を向けさせて。 「・・・・・・・・・・・・匂い?・・・・・・・・・・・・っっっ!?」 訝しげに眉をひそめた水主が、くん、と導師に鼻を近付けて。途端に顔が強張る。 「・・・・・・匂い、て・・・・・・こほっ、何の、事ですか・・・・・・」 ワケが解らないだろう導師は、苦しそうに咳をしながらもあたしを睨んで。 「――――――ブルー・フォレスト、だ」 あたしは淡々と。ただその正体だけを簡潔に答えた。 |
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おねにーさま、オリジナル導師と初対面です。 オリジナルのイオンはけっこー捻くれた性格してたんじゃないかな。 預言で親元離れて導師になって。その上死まで詠まれて・・・・・・この子も波瀾万丈人生。 捻くれてなきゃ、例えどんな形であっても、預言に歯向かってやる!なんてしないと思うのですよ。 |
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