あたしの事は、信託の盾騎士団の中で、一時有名になった。 ヒゲ・・・もとい、騎士団のヴァン・グランツ主席総長閣下が引き取った知り合いの子供。 父親に捨てられ、母親を目の前で魔物に殺されて、ショックのあまり記憶を失ってしまった可哀想な子供だと。 同情からか色んな人に慰めの言葉を掛けられました。 まあでも、人の噂も75日と言いますか。 時間が経てば当り前な日常の中に埋没するのですよ。あたしの事なんて。 慰めの言葉も無くなり、同情の視線が遠ざかって。 見習い兵士の生活にも慣れてきた頃、あたしはようやく現状確認と整理をしようと思った。 いやだって何処で誰が見てるか解らないもんだからね。ホント落ち着くまで出来なかったんだよアレとかコレとか。 総長の引き取り子だからって事で用意された1人部屋。 間取りはそんなに広くないけど、見習い兵士は10人ひと部屋だからコレだけで大助かりさ。 その部屋の中の、質素なベッドに腰掛けて、あたしはヨシ、と気合を入れる。 ココは生まれた意味を知る、深淵の物語、の世界。 『あたし』として生まれる前、『』だった時にも一度次元転位で訪れてるけど。 多分、ソコとは違うパラレル世界。 で、今あたしは『アッシュ』。 『アッシュ』の身体の中に、あたしがいる。 元の『アッシュ』がどーなったのかは解らない。少なくとも、この身体の中にはいない。 ・・・・・・あたしの元の身体が今どーなってんのかも、解らない。 ソレから、知識。 言葉が解ってたり喋れたり、あと剣が使えたり、っていうのは、この身体が覚えてた事だから、なんだろう。 礼儀作法も叩き込まれたみたいで、意識しなくてもできる。 けどソレ以外の、貴族の在り方とか世界の歴史とか、頭で覚えただろうと思われる事はさっぱり。 あたし知ってるのはゲームのみで攻略本とかの公式設定全く知らないんだけどなー。 ・・・・・・ま、ソコはほら。記憶喪失の一言で突っぱねるけどさ。 とまあココまでは良い。無理矢理ではあるけど現状を受け入れて納得もしませう? 異次元旅行とか性転換とか人間止めたとか。なんせ今までイロイロやってきたんだ。 どっかの誰かに成り替わったって不思議じゃないさ。 「――――――・・・・・・・・・・・・だーけーどーなー・・・・・・・・・・・・」 はふう、と溜息吐きながらぼふっとベッドの上に倒れ込む。 現状は納得した。 問題は、誰が何の為に、ってトコロだ。 ・・・・・・や。誰がって十中八九あの頭文字Rの音素集合体さんだろうけど。 事故じゃない事は確かだ。 だってあたしに絡み付いてる鎖、第7音素で出来てる。 あたしが元の身体に戻れない様、この身体に縛り付けて閉じ込めるみたいになってる。 だから、思う様にアーグが解放出来ない。エーテルを操れない。 だから、が『鋼の処女』が『舞扇』があたしの中にいるのが解るのに、表に出せない。具現化出来ない。気配だけしか、解らない。 この世界は音素が魔素――――――エーテルをコーティングしてるから、あたしお得意の魔術も不発ばっかで。 念を発動させようにも、この身体は『アッシュ』のものだから、精孔なんて開いちゃいない。 元の『アッシュ』がどーなってんのか解らないから、身体を人外化しようにも出来ないし何よりこの鎖が邪魔過ぎる。 子供の身体じゃ体力の限界が浅過ぎて、あたしの知識、主に戦闘とかは宝の持ち腐れだ。 結果。 ――――――解らない事に出来ない事だらけの、ダブルパンチを喰らう事になったのが、解った、だけで。 「・・・・・・・・・・・・頭痛い。」 こーして考えてみたらけっこーピンチだあたし。 溜息しか出て来なくなっても、仕方ないと思います。 せめて。せめてだよ? どーしてあの第7音素集合体は、あたしを『アッシュ』にしたんだ、とか。 元の『アッシュ』はどうなったの、とか。 あたしの身体は今どーなってて、あたしはちゃんと元に戻れるのか、とか。 ソレくらいは判明して欲しかったよ。 けどコレ以上考えても、なにも出てこない。 しばらく、うぅ〜と唸っていたあたしは。 「・・・・・・・・・・・・寝よ。」 だけどさっさと考える事を放棄して、ばふり、と布団を被る事にした。 |
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てなワケで、おねにーさまよーやく現状整理。 ちなみにてんてーのどアップから数ヶ月後。 相も変わらずワンテンポずれてるとゆーかマイペースとゆーか。 取り敢えず、今後何が起こっても対処出来るよーに、おねにーさまは修行に明け暮れる事になるんでせう。 |
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