忍の足なら2日ちょっとあれば辿り着くだろう道のり。

ソレをうろちょろうろちょろ、寄り道して。えっちらおっちら、歩いて。のんびりまったり、休憩して。

3倍以上の時間をかけて、やっと甲斐の領地内に入る事が出来た。





・・・・・・・・・・・・うん。そんな急がなくても甲斐は逃げないって、そりゃそーなんだけどね。

あの1人と1匹見てるとさー、焦ってる俺様がなんだかバカみたいになってくるよ。





「あっ、ちょうちょー。」

「わふ?わうん!?」(ほえ?アレって揚羽じゃね!?)

「きしょーかち!!、つかまえるのだー!!」

「わおおーん!!」(よしきたー!!)





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ほんっと。

焦ってる俺様、バカみたい。





はふ、と溜息吐いて、俺様は走り出した白いおバカな犬を目で追い掛ける。

あ。跳んだ・・・・・・落ちた。

べちゃっ、て。すっごいイイ音したよ今。





「・・・・・・わふん。」(・・・・・・すばしっこいヤツめ。)





ふん、っと鼻息ひとつ鳴らして、はべっちゃりしたまま黒い蝶を睨み上げる。

・・・・・・うんやっぱおバカだよねって。

アレで捕まえられたら奇跡だよ。俺様断言したげるよ。





だけどそのが、ぴくり、と耳を動かした。

ぱたぱた振ってた尻尾が、ぶわっと毛を逆立てて膨らんで。





「――――――!!」





ちゃんが、鋭くの名前を呼ぶ。

その時には、は既に動き出して、いて。





「がるるるぅううっっ!!」(早速お出ましかよっっ!!)

「愚痴は後だ!!――――――空手障!!天地要合、天地和合の小鷹の印!!巻立、巻下す血華と切り込む!!」





固、まった。

見たモノを、疑った。





「がうっっ!!がるるるぁあ!!」(小物がっっ!!俺に敵うと思うなよ!!)





が、今まで聞いた事も無い唸り声でソレに飛び掛かる。

ざしゅ、と刃物で肉を断ち切る様な音と共に、ソレは真っ二つに割れた。





「億々九億十万億の其空に、文部の屋方に行ひ下すは、七度の祓で祓清め、玉水魂魄、微塵に斬って!!」





両手で印を組んだちゃんの、滑らかに紡がれた音。

さっき切り裂かれたモノとは違う、もう一体のソレが肉迫しようとする。





「外法法障、真血と切り込む!!」





だけどソレよりもちゃんの方が早かった様で。

組んだ印を振り抜く様にソレに向ければ。

ソレは悲鳴を上げながら、光に溶ける様にボロボロと崩れていった。





「わん!!わんわん!!」(最後だ!!絶神一閃!!)





凧に乗った、もう一匹。

ソレは大きく尻尾を振ったの目の前で、横一閃に切り裂かれ。

地面に落ちる前に、やっぱりボロボロと崩れていく。





「あおーん!!」(はつしょーり!!)

「んー。まーまー、かな。」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・いやいやいやいや。

遠吠え、って。

まあまあ、って。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・な、に。いま、の。」





赤と、緑と、青。

なんか、お伽話に出てくる鬼、みたいな。

人の様に2本足で2本の腕で。だけど確実に人じゃない、異形の。





「なに、て。言われても。ね?」

「わう、わうん。」(見たまんま、だよな。)

「だよね。」

「わふ。あうん。」(ああ。間違いねーよ。)

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん俺様犬の言葉解んないから。」

「「だから、妖怪天邪鬼。(わうわうわう。)」」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え、と・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ようかん?」

「わうわう。わうわうん。」(イヤ違うから。食いモン違うから。)

「さすけ、現実とーひ、よくない。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・じゃあ、ほんものの、よう、か、い?」

「そのとーり。」

「わふ!」(です!)





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぇぇええええっっ!?何でそんなのがホントにふつーにいんの!?」

「わうー。わふわふわうん。」(あー。ソレはかくかくしかじかで。)

「イヤ解んない!!俺様ふつーの人間だから!!イヌ科の言葉なんて全然解んないから!!」

「んー。・・・・・・せつめーめんどい。」

「面倒臭がらないで!!お願いだから面倒臭がらないで話して!!」

「まーまー。詳しいこと、あにさましょじょーに書いてくれてるから。さすけもその時きーて。」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ダメだ。

やっぱりこの子といると自分1人焦ってるのバカらしくなってくる。

ソレじゃいけないんだけど。もうすんごいいけないんだけど。





「わふ、わうわう。わうあうん?」(けど、相模出るなりコレって事は。けっこーやばい?)

「だね。けっこー。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・うんだからソコ。2人(?)だけで解り合わないで。俺様にも解るよーにして。」

「ん?甲斐けっこーやばいね、って。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そしてサラッと怖い事言わないで!!」





何なのこの子!?何なのこの犬!?

ねえ俺様もーコイツ等放っておいてイイ!?先に大将んトコ戻っててイイ!?





「だからさすけ。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・何かなちゃん。」

また何かどっかズレた事言う様なら問答無用で置き去りにするよ。

「今から全速力する・・・・・・着いて来れる?」





――――――この子って、ほんっとーに・・・・・・・・・・・・





「あはー。俺様武田忍軍の頭よ?ちゃんこそ、俺様の脚に着いて来れんの?」





ちょっとカチン、とキて、にぃっこり笑って言い返した。

ら、ちゃんは「ん。」とひとつ頷いて。





「なら――――――行こうか」





――――――・・・・・・・・・・・・この時、俺様はすっかり忘れていた。

そしてまざまざと、見せ付けられた。





風魔小太郎の名を継ぐ者の、実力、というものを。




















結果。





「わうーんっ。」(とーちゃーくっ。)

「ふえー。ココが甲斐のとらーの屋敷かー。」





のほほん、と鳴き声を上げると、きょろきょろするちゃんの後ろで。

俺様は、滅多に切れないハズの息がぜーぜー切れてた。





――――――・・・・・・・・・・・・何でちゃんと、まだまだ体力有り余ってます!!な感じなんだろう。

途中あの異形をばったばった切り倒し踏み倒ししてたのに。

しかも、倒しながら俺様でも着いてくのがやっとな速さで疾走してたのに。





そんな俺様を差し置いて、1人と一匹は門を見上げてる。

「・・・・・・ぐるるるる。」(・・・・・・いる。)

・・・・・・って。なんで、そんな身体低くして臨戦態勢入ってんの。

「・・・・・・だね。」

・・・・・・・・・・・・ちょっとちょっと。どーしてちゃんソコで荷物降ろすの。





「白昼堂々正面からとは、何者だキサ――――――か、頭!?」

ハッ、とした。

突如門の前に躍り出たふたつの影。

「猿飛!?お前っ、生きていたのか!?」

ソレが、ちゃんとを威嚇して。次いで、後ろにいた俺様に気付く。

その、声は。紛れもない。





「刀納めな、小助、才蔵」

ひらひら〜と。片手を振って促す。

2人は「はぁ!?」て顔をしたけど。

ちゃ・・・・・・この方は相模国主の御子息、和平の使者だ。無礼は許さないよ?」





「「――――――・・・・・・・・・・・・はぁああああ!?!?」」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん驚くだろうと思ったよ。

「相模の、噂のあの『鬼子』!?」

・・・・・・・・・・・・だーかーらー・・・・・・・・・・・・無礼はダメだって。本人気にしてないみたいだけど。

「ってゆーか和平ってナニ和平って!?」

やー。言葉どーりだよ。つか俺様も解んない。ナニ考えてんだろーねあの『相模の猫』も。





「・・・・・・・・・・・・あ。だめだ。たりない。」





ソレは、ぽつりと零れた独り言だった。

賓客そっちのけで喚いてた2人と相槌打ってた俺様は、揃ってその発生源を見る。

・・・・・・・・・・・・うんナニやってんのかサッパリだよちゃん。

ナニ小柄でガリガリ地面に書いてんの?んでぐっさぐっさ小柄刺してんの?

門の前にそんなのされたらすっごいメーワクなんですけど。





「・・・・・・わう・・・・・・わうん。」(・・・・・・予想はしてたけどさ・・・・・・ほんっとエキビョウだなコレ。)

「・・・・・・ん。しかもでかい。」

「・・・・・・・・・・・・あうん、わふー。」(・・・・・・・・・・・・人の身体ん中に、巣食ってんだよな。)

「・・・・・・・・・・・・そう。めんどいことに。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・わう。」(・・・・・・・・・・・・・・・・・・どーやって引き摺り出そう。)

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あーもーっ、めんどくさっ!!行くよ、!!」

「わふ!?わん!!」(へ!?お、おう!!)





うをっとう!?

イキナリなに何なのねぇナニが一体どーなって爆発してんの!?

しかも何でイキナリ疾走すんの!?





ちゃん!?」

「ちょ、ちょっと!?」

「待て貴様!!」





慌てて俺様達も走り出す。

一番前を走る白い獣は、迷う事なく奥へ奥へと進んでいく。





――――――この、先は。

まさか。

まさか、あの子等の本当の目的、は。





「待て!!その先はお館様の御寝所!!」

「いくら相模国主の御子息でも、通せないよ!!」





小助と才蔵、2人の手から手裏剣が放たれ・・・・・・だけどソレは、翡翠の色に、弾かれて。

「鉄扇!?って、ドコにそんなでっかいモン隠し持ってたの!?」

「さすけおねがい!!しょーじもふすまもぜんぶあけて!!むしろ外して!!」

「はいぃぃいい!?!?しかも言う事がソレ!?!?」

違うでしょ俺様が聞いてんのと説明をしなさいちゃんと説明を!!





「がるるぅぅうう!!」(いたぞココだ!!)

「承知!!」





すぱぁん!!――――――と。

その場所の、襖が開け放たれた。

――――――・・・・・・・・・・・・その、時の。

室内からもわりと湧き立った、黒い様な紫っぽい様な、嫌な空気にぞっと背中が泡立った。





「あぶり出す!!――――――くさもきも!!わがおおきみのくになれば!!いずこもおにの、すむところなし!!」





びぃん!!と張った声に、ぞろりと空気が戦慄いた、様な気がして。

――――――アレは、駄目だ。アレは、人が触れてはならない、モノだ。

人としての本能が、コレ以上は近付いちゃいけない、と警笛をならす。





「弱い・・・・・・なら!!くもというなのくさあり、くもというなのむしあり、くもというなのひとあり!!」





ぱぁん!!やけに小気味の良い音が響く。

足を止めた、止めてしまった俺様達の目の前で。

拍手で、寝所の奥を見据える金色の眼。





「とりのとぶもくもいき、ひとのはらいもくもいき、つきひをみるもくもいき、ひとのながれもくもいき!!」

うぞうぞと、まるで芋虫か何かみたいに、濃ゆい暗い空気が蠢く。

「かみのみいきとおそるれば、つくいきふくいきながすいき!!みくものはらいと――――――きこめしせ!!」





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・う・・・・・・っっ、ぐ、ぐあぁぁああ・・・・・・・・・・・・・・・・・・っっ!!」





呻き声。

とてもとても苦しげな、その声は紛れもなく。

「大将!?」

俺様は、慌ててちゃんの横へと、走り込む。





――――――そして。





大将の口から、もうもうと吐き出される毒の様な霧に。

目を、瞠った。




















 





 













おかんにとっておねにーさまは不思議ちゃん。
 





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