イヤな予感ホド良く当たる。

今までの経験上、ソレは私の中では不動のモノで。





私が今回『生まれた』世界は、どうやら現代で言うところの、『昔の日本』だ。

昔話のおじーちゃんおばーちゃんが、ナマで川で洗濯したり森へ芝刈りに行ったりする、世界だ。





だから、その人の名前を聞いた時。

すっごいイヤんな予感がした。





その人――――――動かない私を集落から掻っ攫った忍は、『4代目風魔小太郎』と名乗った。

そして連れてかれたのは、『風魔谷』と呼ばれる風魔忍の隠れ里だった。





里の人達は、頭領が鬼の子を拾ってきたとてんやわんやになった。

捨てて来いだの殺せだの・・・・・・私は犬猫かっつーの。

だけどそんな、里の歳老いた重鎮方の言葉もなんのその。

4代目風魔頭首は、私を自分の弟子にする、なんて堂々と宣言しやがった。





――――――ぶっちゃけ言おう。

誰が弟子になんかなるか。





だって私は充分に強い。

そりゃあ、今はまだ身体が子供で、体力持久力そんなに無いし大技とかは使えないけど。

ソレでも既にオーラもチャクラも解放済み。ソコラのゴロツキにゃ負けやしない。

生きる為に必要な知識は幾らでも頭ん中だし、魔術だって絶好調だ。

この人に鍛えてもらわなくったって、充分やっていける。





ソレに、私の見た目はこの時代ではちょっとアレだ。

右見ても左見ても純和風な黒髪黒目の人達の中で、鮮やかな紅い髪と琥珀にも似た金の目はすこぶる目立つ。

そして、人は異端を弾く生き物だ。

『両親』や集落の人達は、この色を『山神様の良い贈り物』とか言って私を可愛がってくれたけど。

あの時殺した男達に言われた様に、鬼だの化け物だの言われるのが普通なのだ。





だから私、『父様』『母様』達の供養をしながら、ずっとアソコで暮らそう、って思ってた。

あの山と森に囲まれたあの土地で。たまに動物達のお願い聞いたげて浄化の嘔謡って。遠出しなきゃいけない時でも人目を避けて。

そしてまた、アソコに帰ってゆったりのんびりまったり、人としての一生を終わらせてやろう、と。





だからぶっちゃけ、今の状態すっげ不満です。




















「先ずは基礎から教えていく」





腕組んで踏ん反り返ってそうのたまった4代目頭領に、私はつん、とそっぽを向く。

忍になんてなる気はない。

てゆーか、前も忍だったのにまた忍ってナニ。





「・・・・・・

「つーん。」

「・・・・・・・・・・・・聞け、

「つんつーん。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・殴るぞ

「つんつくつーん。」

「っっのっ、!!」





全く聞かない私に頭領のこめかみ辺りからぷちって音がして。

振り下ろされたゲンコツを、私はするり、と避けた。

そして。





「あっかーんべー、っだ。」





おもっきし舌を突き出して、駆け出す。





「このっ、待て!!」

「やー。」





怒りの形相で追い掛けてくる頭領なんて何のその。

木の枝ぴょんぴょん伝っててってけ屋根の上走って。

縦横無尽、里の中を走り回る。





「待てと言ってるだろうが!!」

「まてー、いわれてまつバカ、いなーい。」

ーーーーっっ!!」





あ。火に油注いでしまった。

もう、がーっっ!!て火ぃ吹きそうなイキオイで追い掛けてくる。

しかも懐からじゃきんっっ!!て・・・・・・ちょっとちょっと何で苦無!?

止めてよちょっと大人気ないよ頭領!!





「止まれ!!」

「や、ったらやー!」

「止まらないなら、痛い目を見るぞ!!」

ひゅんっっ。

「やっ!!」

ひょいっ。

「このっ、ちょこまかと!!」

ひゅひゅんっっ。

「おっに!!さっん!!こっちら!!」

ひょひょいっっ。

「〜〜〜〜!!当てる!!次こそは必ず当てる!!」

ひゅひゅひゅんっ、ひゅんっ。

「あっ!!たん!!ないっ、もん!!」

ひょひょひょいっ、ひょいっ。





本気で刃物投げ付けてきた頭領に、私も負けじとあっかんべーしながら避ける。

・・・・・・・・・・・・なんかココ毎日、ずっとこんな感じ。

そして今日も今日とて、日が暮れて私も頭領もヘバッたトコロで、鬼ごっこは小休止。





そして次の日になれば、また。





「――――――今日こそは修行に入るぞ、

「・・・・・・・・・・・・さよーなら。」

「あっ、こら待て!!」

「やー。」





私は忍になんてなる気はないんだ!!

目指せカワイイおじーちゃん!!縁側でお茶啜り猫と日向ぼっこなんだ!!

頭領が何と言おうと、諦めるまで逃げ続けてやる!!




















そんな事を考えもって逃げ回ってた私は、気付かなかった。





「・・・・・・・・・・・・なあ。」

「・・・・・・・・・・・・何だ。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・頭領、里一番の使い手、だよな・・・・・・・・・・・・?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ、そう・・・・・・・・・・・・その、筈なんだが・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・遊ばれ、てねぇ・・・・・・・・・・・・?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・皆まで言うな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」





――――――なんて。

里の人達にボソボソ囁かれていたのを。





そして思いもしなかった。





「今日も元気だなぁ、あの師弟・・・・・・うっわ。今日は忍術まで繰り出してやがる頭領」

「あー。も風使ってきたぞ・・・・・・修行も良いけど里ん中で大技ぶっ放すの止めてくんねーかな・・・・・・あ。屋根飛んだ」

「いっちち・・・・・・あー、死ぬかと思った。良かったオレ生きてて」

「お、弥彦巻き込まれたのかー。大丈夫かー?」

「災難だったなー。後で坊に責任持って薬作ってもらいな」

「ああ、そーするわ」





毎日毎日飽きもせず、繰り返される鬼ごっこ。

しかも頭領大人気なく、飛び道具だけでなく拳や刀、果ては忍術まで使う様になったのが。

何故か周囲には修行と称され、里の日常のひとコマになっていたなんて。




















まあ、そんな感じで。

鬼子て言われていたにも関わらず、何時の間にか私は里の人達に受け入れられてた。

確かに私、鬼のよーに強くてモノ覚えも良い、そーだけど。

なーんかどっかが抜けててちょっと?ズレてて、頭の中にお花が咲いてるオバカな子。ってゆー認識ですよみなさん。

・・・・・・・・・・・・まーね。延々と4年近くも鬼ごっこ続けてたらね。





頭領も、私に忍の修行を付けるのは諦めたみたいだ。

最近じゃ、傭兵稼業に戻ってひと月ふた月里を空ける、なんてのもザラです。

で。その間私は何してるかと言うと。







「あ。おしさま。おかえりなさーい。」

「ああ、今帰った・・・・・・ところで。痛み止めと傷薬は、あるか?」

「あるー。・・・・・・だれか、けが?」

「・・・・・・まあ、大した怪我でも無いがな。一応、診てもらえるか、

「あいー。」





里で薬作ってます――――――や、元々『薬師の村』の生まれですし。

里のみんなも薬草には詳しかったけど、やっぱ私の方が色々と知ってた。そりゃもうイロイロ。

しかも、ムダに医療知識まであるもんだから、何時の間にかお医者様扱いで重宝されてますがな。




















このまま。この里で。医者として骨を埋めるのもアリかな、て思った。





忍の隠れ里だけなあって、ここの人達は皆忍だけど。

この風魔谷は。この地に住む忍達は。ドコか、似てる。

情深く、心根優しい。火の意思を持つ木の葉に守られたあの里に。





風魔の忍は特定の主を持たない、ホントに傭兵さん稼業で。今は戦乱らしいから、今んトコ直ぐに仕事がなくなるワケでもないけど。

けど、いつか。戦乱が終わって忍が必要無くなったら。みんなに、私の持ってる技術を教えて。

薬草とか、医術じゃなくても良い。染物装飾何でもござれだ。教えられるモノはいくらでもあるから。

そういう、人殺し以外の普通の職を手に着けてもらって、みんな忍やってるだけあって、手先も器用だし。

んで、ココでカワイイおじーちゃんと縁側猫と日向ぼっこ目指そう。




















・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・とか、思ってたのに。





何だ、コレは。

火矢を放たれて焼けていく家は。

火縄銃の的になって、次々斃れて逝く里の人達は。





――――――今生の私は。よもやそういう星の生まれだとでも、言うのか。



















「・・・・・・・・・・・・逃げろ、





私を抱えて森を疾走してた、お師様がそう言って私を下ろした。

その腹には3つの銃創。だらだらと、流れていく命の元。





「お、おしっ、さま、てあ、てあてっ」

「いや、良い――――――己の身体の事は、己が一番良く解る。俺はもう、助かるまいよ」





そんな事を笑って言いながら。随分血を流したのにお師様は。

覚束ない足取りで、里へ取って帰ろうと、する。

「・・・・・・や、やー!!おしさま!!」

ぎゅう、とその腕に縋りついたら、ぐらり、と長身が揺れた。





「――――――離せ、

「やー!!」

「離すんだ!!」





今までにないくらいの、叱責の声だった。

思わずびくう、と竦み上がって、手を、離した。離してしまった。





「・・・・・・・・・・・・。お前は逃げろ、良いな」

そんな私に、やさしいやさしい、声が降る。

「――――――俺はお前に全てを見せた。風魔の術、秘伝全て」

お師様の、大きな手が頭を撫でる。

「お前が生き残れば、絶えぬ。風魔の教えも――――――薬師の里の教えも」





ぼろぼろと。とうとう涙が零れ出した。

泣きだしてしまえば、止まらなかった。





「――――――お前に、俺の名をやろう、





そんな私に背を向けて。

ぐらぐらと。揺れる身体でお師様は。

去り際に、そんな事を口に、した。





「風魔小太郎・・・・・・今日からお前が、5代目の『風魔小太郎』だ」




















いらない。

そんなの要らない。

そんなのより何よりも。





一緒に逃げよう――――――その一言が、欲しかったよ、お師様。




















 





 













しょっぱいのはつづく。。。
 





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