黒に見えたのは、本当は白だった。 血を浴びて。砂埃にまみれて。薄汚れてしまった、白だった。 なのに黒に見えたのは。酷く異臭を放つ澱んだ大きく濃い瘴気を、ソレが纏っていたからだ。 |
禍神、現る、の巻。 ~見つけてしまったのは、大きなカタマリ。~ |
ふつふつと、身体の内側から沸き上がってくる何かが、ある。 如何してと、叫びたい衝動が付き上げてくる。 ・・・・・・・・・・・・や。ダメだ。ココで感情大爆発なんてしちゃいけない。 落ち着け。冷静に、なれ。 「豊臣が横槍入れて来んなぁもっと後だと思ってたが・・・・・・」 「実際、豊臣の軍なんてまだ影も形もないしねぇ・・・・・・」 「なのに、明らかに戦場の様子が――――――Hey、どうした」 腹心さん達の会話の途中で、あたしの様子がおかしい事に気付いた筆頭さんが、振り返る。 あたしはただ一点――――――黒い、瘴気の塊に視線を固定したまま。 きゅう、と後ろから抱き付いてくる小太の手を軽く叩いて離してもらって、馬から降りた。 そしてホルスターから拳銃を引き出し、意識を戦闘に切り替える。 「え、先生?」 「おいあんた、一体どうし――――――」 「小太。頼みがあんだけど」 風来坊や腹心さんの声すら無視して、後も見ずに声をかける。 あたしの後ろからぴったり離れません、て感じで同じ様に馬から降りた小太は、ことり、と小さく小首を傾げた。 「今すぐ虎と軍神とこ行って、速攻で兵を引かせる様にって言ってきてくんないかな。あと覇王にも」 「「「は!?」」」 「ソレから政宗。今すぐ奥州に帰ってくんないかな」 「「「はぁあ!?!?」」」 ・・・・・・・・・・・・いやそんな驚かなくても。 「ちょ、イキナリ何言っちゃってんの先生!?」 「横からポッと出てきた無名の若造がんな事言ったってハイ解りましたってなる訳ねぇだろうが!?」 「・・・・・・Hey。俺ぁ虎と軍神、ソレから覇王を下しに此処に来たんだ。遊びに来たワケじゃねーんだよ。You see?」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ええいウルサイ。今そんなん丁寧に説明してやる余裕なんかあたしにはないんだよ。 3人の声は無視して、もっかい小太に言う。 「小太、頼むよ。多分お前が一番早い」 お願いされた本人は困った様にあたしを見詰めていたけど。 「!!・・・・・・Hey小太、行かなくて良いぞ」 ・・・・・・だーかーらー。ちゃちゃ入れるなって筆頭さん。 「――――――今より彼の地は祟場となる。怨嗟禍事に憑かれ死にたく無くば、疾く、引くが良い」 しん、と静寂が落ちた。 あたしの雰囲気に誰もが呑まれて、何も、言えない。動けもしない。 そんな中で、やっぱり一番最初に動いたのは小太だった。 きゅ、とあたしの袖を小さく掴んで、ふるり、と首を横に振る。 「・・・・・・だめ。」 「小太、」 「せんせい、ひとり。だめ」 「・・・・・・うんやっぱイイや。自分で何とかするから」 「だめ!!」 うわっとう? びっくりした小太が声荒げるなんて。 筆頭さん達までびっくりしてるよ。 「うごく、しかばね、なら。こたでも、なんとかなる。だから、せんせいひとり、ぜったいだめ。」 うん困った。 確かに、屍肉喰らい程度なら小太でも何とかなる・・・・・・けど。 「動く屍・・・・・・Ha、例のフニククライってヤツか。丁度良い。一度見てみてぇと思ってたんだ」 って、何故ナニどーして筆頭さんそんなヤる気なんですか。 つか軽い。一度見てみたいってなんか軽い・・・・・・ちょっと、むか。 「・・・・・・・・・・・・奥州筆頭」 「Ah?んだよ俺の事は名前で呼べって――――――」 「遊びに来た訳ではない、と。お前はさっき言ったな」 「あ、ああ」 「俺とて遊びで言っている訳では無い――――――邪魔だ、帰れ」 「ああ!?んだとテメ」 「祟場の瘴気は傷を腐らせる。死んだ人間は怪に堕ちる――――――俺はお前達まで相手にするつもりはない」 既に、アレを中心にして土地が死んでいってる。祟場は、現在進行形で出来てきてる。 祟場の上では、日光が有っても怪は動ける。 しかも、この 〈界〉 でいうトコロの婆裟羅者ってのが、穢れ易く憑かれ易い事も、小太や筆頭さんや腹心さん風来坊を見て解ってる。 あたしは袖を掴んでた小太の手を振り払って。 後ろの、誰の声にも聞く耳貸さず、とん、と地面を蹴った。 |
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