友人だったのだ、と言った。

過去形で。友人だった、と。

だけど。決別しても尚、風来坊は。




 




 




 






禍神、現る、の巻。

~自分が正しいって思ってんなら、しゃんと胸を張りなよ。~





 




 




 




 
沈黙した風来坊に、あたしはまた小さく息を吐く。

・・・・・・まあ、解らんでもない、んだけどね。





どうして覇王を止めたいんだ、って聞いた筆頭さんに、答えた風来坊の言葉。

友人だったんだ、って言った。

強さのみを求める覇王。その覇王を支える冷酷な策略家。

昔とは、あまりにも変わってしまった――――――だけど今でも。自分にとっては大切な友人達だ、と。





だから止めたい。間違ってるって言いたい。

今は袂を別ってしまって。だけど本当に全てが変わってしまったんだ、って思いたくない。

・・・・・・昔の、優しかった2人がもうどこにもいないなんて、思いたくないんだ、と。





・・・・・・・・・・・・うん。解らんでもないんだ。

自分の好きな人が、人道に外れる様な事したら、悲しい。

あたしだって、もし筆頭さんがある日突然覇王みたいになったら、横っ面張っ倒してでも止めさせようとするし。

――――――が。あたしの為に、あたしよりも 『宝玉』 の記憶の大部分を預かるが。

もし、その記憶に呑まれて狂おうものなら。あたしは、身体張って命かけてでも、絶対に止める。





「だからといって、その顔はいただけんけどね」

「へ?俺?」

「そう――――――その、ごめんなさい、みたいな顔」





きょと、と首を傾げた風来坊にズバッと言った。

・・・・・・うん。だからソコで図星です、みたいな顔されてもね。





「だってあんた決めてんだろ。殴ってでも止めてやる、って。そうするのが正しい、て思ってんだろ」

「・・・・・・うん」

「だったら、そんな後悔してます、みたいな顔すんじゃありません」

「・・・・・・や。でも・・・・・・」

「確かに俺戦嫌いだし、なのに半ば強制的に筆頭に連れて来られてさっきから溜息ばっかだったかもだけど」





・・・・・・あ。思いだしただけでまた溜息吐きそう。

あたしココでは医者なのに。ソレ以前に術師なのに。戦闘要員じゃないのに。

何回も言ったのにあのトノサマは全くっ。





「――――――ソレでも、最終的に俺はココにいる。そう決めたのは他でも無い、俺自身の意志だ」

そう。ホントにイヤなら、大人げなく駄々をこねてでも着いて来なかった。

押しに弱かろうが流されやすかろうが何だろうが、ココにいるのは結局、あたしの意思。

「だからそんな、巻き込んでごめんなさい的な顔すんじゃないよ」





へんっ、とそっぽを向きつつ言い捨てる。

「・・・・・・・・・・・・ああ、そうだよな。うん。ありがとう、先生」

視界の端にちらりと映る風来坊の、はにかんだ様な顔がこそばゆい。

向かう先は戦場だっていうのに、何だかほのぼの~な空気が漂い出した。





――――――と。走ってた馬の速さが徐々に遅くなる。





「小太、風来坊」

「う、ん」

「おうさ!」





明後日の方向に向けてた目を前に戻して、名前だけを呼ぶと。

2人とも、あたしが何言いたかったのか解ってるみたいで、周りの特服さん達の間を縫うみたいに馬を前へ進める。





そして、やっと着いた先頭には。

筆頭さんと腹心さんが厳しい顔で眼下を見下ろしていた。





「ひっと、じゃない政宗、どしたの」

「Ah、・・・・・・いや、なーんかちょっと、な」

「法螺の音が聞こえてからそう経ってはいないから、戦は始まって間もない筈なんだが・・・・・・」





眉根を顰めながら戦場を見つめる2人に、はて、と首を傾げながら筆頭さんの横に馬を着ける。

「・・・・・・こりゃまた、すっごい陣形乱れてるねぇ」

同じ様に腹心さんの隣に馬を寄せた風来坊が、ビミョーな顔をして呟いた。





・・・・・・・・・・・・うん。あたし軍師とかじゃないから。陣形とか言われても解らないから。

でも確かに、虎の軍の赤も軍神の軍の白も、右往左往してる、って感じはする。

その中心は・・・・・・あ。あった多分アソコだ。

筆頭さん達は見えてないだろうけど。何か黒い、でっかいのがいる――――――





「――――――!!」

な に 。ア レ 。

なんで、あんなんに!!





ぎり、と唇を噛む。掌に爪を喰い込ませる。





「・・・・・・せんせ、い?」

気付いて声を掛けてくれた小太の声が、酷く。遠くから聞こえる感じがした。




 




 




 











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