風来坊のお願いは、とんでもなくぶっ飛んだモノだった。

良くそんなお願いできるな、なんて思いましたよワタクシは。

・・・・・・・・・・・・だけどあたしはこの時、筆頭さんが風来坊よりもぶっ飛んだ人だって事を、失念していたワケで。




 




 




 






禍神、現る、の巻。

~何もかもが憂鬱だよこんちくせう。~





 




 




 




 
「・・・・・・はぁ。」





・・・・・・・・・・・・ああ。空が青い。

イイ天気過ぎて、逆に 「青空のばっかやろーーーーっっ!!」 なんて叫びたいくらいだ。





「・・・・・・はぁ。」

「なあ、先生」





なのに、ここら一帯の土地の息吹は、酷く弱って澱んでて。

目に見えても可笑しくないくらいの瘴気。

大気に交じる色んな悲鳴。

発光体が押し付けてきやが・・・・・・げふごふん。

イヤイヤイヤイヤ、大神サマがくれた勾玉、丁重にお断りしとけば良かったかもしんない。





「・・・・・・はぁ。」

「おーい先生ー」

「・・・・・・・・・・・・」





付け加えるなら、慣れない馬上で擦れたお尻が痛い痛い。

良くこんな不安定なトコに座ってられるよしかも手綱も持たずに筆頭さん。

あたしなんか、1人じゃ落馬しそうだからって小太に後ろから支えてもらってんのに。





「・・・・・・はぁ。」

「せんせーい。先生ってばー。聞こえてるー?」

「・・・・・・せんせい、ふうらいぼう、よんでる、よ・・・・・・?」





しかも行先は、かの有名な川中島ときたもんだ。

つったらアレ、 『川中島の合戦』 ってヤツでしょ?

ああああもおおうちかえりたいぃー。





「・・・・・・・・・・・・ちょいとソコ行く銀髪のべっぴ」

じゃきっ。

「俺にケンカ売るたぁイイ度胸だよぅし買ってやろう今ならとことん相手してやる光栄に思え」

「やっと反応したと思ったらソレ!?てか先生独眼竜に感化されてない!?口調がまんまあの人なんだけど!!」





聞き捨てならない単語を吐こうとした風来坊に、胡乱な眼差しと拳銃を向けたら。

風来坊はバッタバタ慌てて手綱を引いて、あたしから馬を離した。





てゆーか、あたしそんな筆頭さんに感化されてるふうに見える?

「まあ、虎穴に入らずんば虎児を得ず、とか。朱に交われば赤くなる、とか。長いものには巻かれろ、とも言うし」

「・・・・・・なんか違う・・・・・・」

や。そんな脱力しなくても。





がっくり肩を落とした風来坊に、あたしは抜いた拳銃を再びホルスターにしまい込み。

「で。ケンカ売ってんじゃないならナニ?」

さっきからせんせーせんせー連呼して。

そしたら風来坊は、「だから最初から売ってないって」 なんて苦笑しながら、ちょっと申し訳なさそうな顔をする。

「んー、さっきからずっと溜息吐きっぱなしだから・・・・・・やっぱり、イヤだった?」

・・・・・・・・・・・・あー。ナニ。そんな連発してましたか。





「嫌も何も・・・・・・筆頭さんはあんなだし。俺雇われ軍医だし」

この際だから大将3人とものしちまおう・・・・・・なんて、無茶以外のナニモノでもないとあたし思うんだども。

ソレでも雇い主(?)サマが戦に出る、って意思を曲げない以上、従わなきゃなんない・・・・・・雇用された側の悲しい性だ。

ソレに。

「――――――・・・・・・・・・・・・アンタの気持ちも、解らんでもないからね」





ぽそり、と付け加えつつ視線を外したら。

視界の端。風来坊の表情がくしゃり、と歪んだ気がした。




 




 




 











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