風が、渡る。 侵された彼等が助けてと啼く。 それは、あたしの耳にしか聞こえない声だけれど。 |
風来坊、嵐を持ってくる、の巻。 ~あたしには聞こえるのに。なんで皆には聞こえないんだろう。~ |
ひた、と見据えたあたしの視線に、心持ち気押された風来坊は。 ぽりぽりと指で頬を掻きながら、んー、と唸った。 「・・・・・・何処、って・・・・・・まあ風の向くまま気の向くまま・・・・・・?」 「風の向くまま、で。摂津や甲斐、越後にも行ったの」 ・・・・・・・・・・・・あ。顔色変わった。もうひと押ししてみよ。 「気の向くまま――――――物見癒山の気分、で。覇王や虎、軍神の戦支度を拝みに行くの、アンタは」 ・・・・・・・・・・・・うーわー。 病んだ風の中にソレっぽいのが 『視』 えたから言ってみたけど、ホントにビンゴだよ。 風来坊、目がまんまるになっちゃった。 「Hey、何だその戦支度ってのは」 そんな風来坊を押し退けて、筆頭さんが身を乗り出す。 だけどあたしはひらひらと手を振って。 「俺よりも、風来坊に聞いた方が早いんじゃない?」 だって実際に見てるんだろうしね。 ざっ、とみんなの目が風来坊に向いた。 その、風来坊の視線が鋭くなる。 「――――――何で、判ったんだい。先生?」 崩していた脚を直して。す、と顎を引くその表情は、真剣。 あたしは対峙する様に、その視線を見据え。 「判るも何も――――――アンタが連れて来たんだろ、彼れ等の地から。彼等を」 自分でも、ぞっとするくらいに感情の籠らない声だと、思った。 だけど、今は少しでも感情を籠めちゃうと、日頃の溜まった鬱憤までデロッと出てきそうだったから、籠められなかった。 「お前が、連れて来たんだ風来坊。鉄錆と砂塵と硝煙の匂いを。切り裂かれ焼き落とされた森と大地の悲鳴を。救いを求める病んだ風の嘆きを――――――お前が」 耳を澄ませればそこかしこに。 穢れ弱ったアーグが澱み狂い掛けたエーテルが。 浄化を終えた筈の空気を大地を、侵していく声がする。 ・・・・・・・・・・・・くそう。ソレで無くとも人の住む土地は穢れ易いのに。 また夜中に浄化の練り歩きかこんちくせう。 もう、いっぱつドカンとまた謡ってやろうかしら。 ある意味物騒な事を考えてると、きゅ、と袖に力が掛かった。 見れば、小太が何だか困惑した様な顔で、あたしを見上げている。 「・・・・・・・・・・・・せんせい」 呼び掛けに、あたしは紅い髪をサラリと撫でて。 「――――――ん?」 さっきまでのイライラをポイして、出来るだけ優しく、首を傾げる。 「・・・・・・かぜ、ないてるの・・・・・・?もり、も。だいちも・・・・・・いまも?」 なのにその質問で、あたしは自分の眉間に皺が拠ってしまうのを痛感した。 ああああ怯えないで小太。キミが悪いんじゃないから。 悪いのは、今の時代――――――乱世、という世の中の流れだ。 「――――――ん、嘆いてる。今も、未だ」 しかも不定期にでっかい悲鳴が雑じる・・・・・・寝てる時に聞いた時は心臓バクバクもんだった。 まだ奥州の浄化が進んで無かった頃にも何度か聞いた事あるけど。 その時の事を思い出して、あたしは小さく溜息を吐いた。 |
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