ガンガンガン、と近付いて来る屍肉喰い共に念弾を撃ち込みながら最初の一声を発したら、世界が揺れた。

2フレーズ目で足元から淡い緑の光が蛍みたいに舞って、3フレーズ目で魔方陣を象った。

サビの部分になるともう戦場跡一帯光だらけで、大地から何から浄化されて――――――生命の息吹が、吹き返すのが、解った。




 




 




 






伝説の忍、懐く、の巻。

~こんな力だったなんて、冗談じゃない。~





 




 




 




 
謡の、名残。

きらきらと、蛍の様に光が舞う。

あたしはただ、呆然とソレを見ていた。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・何だ、コレ。

何だ、この力――――――この術は。





自分の力で、山ひとつ吹っ飛ばした時とは違う。

あの時も凄まじかったけど。だけどアレは自分の力で、自分でやったという、自覚があった。

でも、コレは違う。

あたしの謡に、何かイロイロ集まってきて。

あたしのアーグとエーテルの上辺部分 (この〈界〉に馴染んでる貴重なトコだったのに!!) をごっそり持ってったのは解った。

そのイロイロ集まってきたのが、あたしの謡に込めた想いに感化したのも、解った。





――――――解った、だけだった。





あたしの望み。あたしの願い。

だけど全くあたしの意思から離れたトコロで、彼等は彼等の意思で動いた。

こうしろ、とか。ああしろ、とか。魔術でいうトコロの制御、というものを、一切受け付けなかった。





某ゲームの歌姫ヒロインの魔法は、こんなじゃなかった。

ちゃんと、自分で自分の詩を、コントロールしていた。

だけどあたしはそうじゃない。あたしは何も、してない。

ただ、癒したい、浄化したい。静かに穏やかに眠らせてやりたい、と謡に想いを乗せただけ。

そんな謡を、ただ、謡った、だけ。





なのに、動いた。あたしの謡に乗った想いを汲んで、あたしのエーテルとアーグを糧に、ソレゾレが、勝手に動いた。

ソレは。

ソレはなんて。





「・・・・・・・・・・・・の、言う通りだね」





魅了の術。ああ、確かにコレは魅了だ。しかも抗う事すら出来ないくらい強制的な。

あたしの為に、良かれと思ってみんなが動く。悪気無く、ただ好意で。

例えあたしの意に反した事でも、あたしの為になると彼等が思ったら、彼等はソレをやってみせるだろう。





・・・・・・・・・・・・こんなの、滅多に使うモンじゃない。

持ってかれたエーテルとアーグの量が半端じゃなかった。ふつーの人なら、昇天してるだろう。

あたしだから使えた様なモンで、そんなあたしも脱力感がけっこーすごい。





ソレに、が怖いって言ってた意味も解った。

下手打ちゃ世界全部があたしを中心にして、回ってしまう・・・・・・や、揶揄でも何でもなくて。本当に。

今回、謡に乗せたのが、癒しと浄化、だったから良かったものの。

コレが、もし、誰かを・・・・・・いや、世界を、呪う様な想いだったら。

――――――考えただけで、背筋が凍りそうだ。





ふ、とひとつ。溜息を落とす。

あたしの謡に呼応した、たくさんの物理的に目に見えないモノ達 (その殆んどは精霊さんなんだろうけど) は。

あたしの謡に、水を得た魚の様に元気を取り戻して。ホントにキレイさっぱり、屍肉喰いも人の死体も穢れの元になるモノは跡形も無く消し去ってくれた。

しかもエーテル整えてくれて、アーグも活性化してくれた。

その影響か、お陰で今もぽこぽことちっちゃい精霊さん達がそこら辺で生まれてる。感覚でそう、解る。

大量の血や火で焼けた様な跡ばかりだった大地に、早くも草が生え出してきてるのがその証拠だ。





・・・・・・・・・・・・今までちまちま祝詞で浄化してた自分がバカらしくなってくるね、コレ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まあイイや。取り敢えずオシゴトは終わったんだし。





弾ける様に消えていく淡い光を眺めながら、不要になった拳銃をポーチに突っ込んだ。

そしてお城に帰ろっかな、とくるり方向転換したら。

「――――――・・・・・・・・・・・・如何したの」

小太郎がへたり込んであたしを見上げていた。





てゆーか何!?なんでそんな、うっとり・・・vvって感じになってんの!?頬なんかほんのり桜色に染めちゃって!!

ソレはアレ!?今すぐお持ち帰りして下さいいやむしろ今ココでイけるトコまでイッちゃってクダサイってコト!?

『・・・・・・せんせえ、あつい、の・・・・・・』 とかあのたどたどしいしゃべり方で言いつつ腕を伸ばしてきて潤んだ瞳が乞う様にってぎゃー!!





まてまてまてまて!!待つんだあたし!!!早まるなあたし!!!!

確かに趣味で腐女子してるけどソレはあくまで趣味!!趣味の範囲!!!

あーんなコトとかこーんなコトとか、現実には絶対にいない、2次元のイケメン相手だからこそ、繰り広げられていた妄想だ!!

嗜好はふつーにノーマル!!ふつーにカレシだっていた!!いない歴既に7年目くらいに突入してるけど!!

あたしはふつーの恋愛を希望する!!マイナーな茨道なんて真っ平ゴメンだ!!!

・・・・・・・・・・・・あれ。でもあたし女だから、カワイイ女の子よりカックイイ男の子好きになるのは普通?





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや。やめよう。もー考えるのよそう。

中身が腐女子でも今の見た目は男だしノーマルうんぬん以前にもーあたし人間違うし。

既に常識からでっかく逸脱してるんだ。道徳概念とか細かい事は考えない方がイイ。





頭の中で常識人なあたしと腐女子なあたしがバトルを繰り広げて、白旗あげたのは、常識人なあたし。

だけど腐女子なあたしもなかなかにグロッキー。まあぶっちゃけメンドくさくなって全部まるなげする事にする。

流れに任せるのもまた一興。





つい、と小太郎の前に片膝を着く。

緊張しているらしい身体がビクッと震えてギュッと押さえる様に自分の胸の下の辺りの着物を握ってて・・・・・・胸の下?

「――――――骨折箇所、痛む?」

まさか動いた所為で折れた肋骨が内臓傷付けたとか?





診せろ、と腕を伸ばしたら、小太郎は慌ててふるふると首を振った。

・・・・・・って、そりゃ小太郎から見たあたしなんて、ついさっきまで敵だった得体の知れない医者だから警戒すんのは当たり前だけどさ。

骨折なんてほっぽってたらどうくっつくか解んないの。早めの治療が大切なの。





「診せな」

「・・・・・・・・・・・・(ふるふる)」

「・・・・・・おい」

「・・・・・・・・・・・・だい、じょぶ・・・・・・いたく、ない」

「そうは見えないんだけど」

「・・・・・・・・・・・・いたい、の。なく、なった・・・・・・なおって、る?」





半信半疑で、まぢまぢと自分に巻かれた包帯を見てる小太郎に、あたしも目が点になった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ。さっきの、謡で、か」

そーいやこの人ずっとあたしの傍にいたよね謡には癒しも呼び掛けたよね。

あたしの呟きに、小太郎はまたあたしを見上げる。

その分厚い前髪からチラリと見えたのは、あたしの右目よりも濃い青。縹色した虹彩だ。

・・・・・・・・・・・・ううっ。そんなに見詰めちゃいやん。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・なら、大丈夫だね。城に戻るよ」

ビミョーに視線を逸らしつつ立ち上がって、促した。





だけど小太郎はへたり込んだまま、立ち上がる素振りさえ見せない。

「?如何したの?」

やはしまだどっか痛いんでしょーか?

だけど小太郎は、またふるふると首を振る。





「・・・・・・・・・・・・て、ない・・・・・・・・・・・・」

「ん?」

「・・・・・・・・・・・・たてない・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

「・・・・・・・・・・・・さっきの、すご、くて・・・・・・・・・・・・びっくり、して、こし・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・抜けたのか」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いやあたしだって驚いて腰抜かした事くらいあるけどね。

伝説とまで謳われてる人があの程度で腰抜かす・・・・・・いやいや、良く言えば小太郎もふつーの人間だったワケだ。

はあ、と溜息吐いたあたしに、小太郎の肩がビクッと震えた。

いえいえ、怒ってるワケじゃありませんからねー?





あたしはもう一度小太郎の傍に膝を着いて、伸ばした両腕をそれぞれ膝裏と肩に添えて。





「――――――っっ!?!?」

「以外に軽いね」

「せん、せっっ!?」

「暴れるなよ。暴れたら落とすから」

「~~~~っっ!!」





顔を真っ赤に染めてバタバタと慌てる小太郎に宣言したら。

小太郎は、しばらくあーとかうーとか呻いてたけど、やがて諦めたのか大人しくあたしに抱えられるままになったのだった。

ぐっじょぶ、あたし。




 




 




 











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